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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
5章 Surviving Knight
62/73

第62話 WELCOME!

規律は完璧。

空気は最悪。

キドの胃だけが壊れていく。

「お前ら、案内してやれ。

しばらく俺は口出さねぇから」


第二皇子が、珍しく引いた。


皇室騎士団員たちは――

一瞬だけ顔を見合わせ、

徐々に目に光を取り戻した。


――「殿下が黙っているうちに終わらせろ」と全員が悟った。


そして、公爵家騎士団員たちの案内を始めた。



整然と並ぶ武具棚。

何もかもが揃っている。


「……すげぇ」


「鞘の向き、柄の紋章、全部同じ角度じゃねぇか」


一人が気付いた。


「待て……揃いすぎてる」


公爵家騎士団員たちは、ただ黙って立ち尽くした。



「もっと綺麗に並べてください」


「す、すみません!」


震える手で剣を動かす。


わずかに直す。


だが――


「そんな杜撰な管理をしているのですか?公爵家騎士団は?」


「すみません……」


一人、また一人と縮んでいく。


「これ、3度ずれてます」


「……え?」


「ですから、3度です」


沈黙。


「直せます?」


「無理です」


「……そうですか」


さらに沈黙が落ちる。


皇室騎士団流の整理整頓術が、まったく理解できなかった。


公爵家騎士団員たちは、

皇室騎士団と分かり合える気がしなかった。




その様子を見ていたキドが苦笑する。


「ロエル様もここにいれば矯正されそうですよね」


「え?死んだ魚の目をしろって?」


「違いますよ!」


「……それは我々が死んだ魚の目をしていると?」



振り向いた時には、もう居た。


皇室騎士団副団長セディだった。


足音は、なかった。


(いつから!?)



キドは飛び上がりそうになるのを必死で抑える。


「セディ卿。この度は突然の訪問になり面倒をかけます」


一度、意識して背筋を伸ばした。

――騎士団長としての顔を作る。


「団長の強引さに振り回されたのでしょう。

止められなかった私の不徳です」


「い、いえ!セディ卿のせいではありません」


声がわずかに裏返る。


作ったはずの落ち着きが、一瞬で剥がれた。


(無理だろう、これ……)


胃の奥が、きゅ、と痛んだ。



セディの視線がロエルで止まった。


「……何故、高位貴族がこちらに?」


「今は公爵家騎士団所属だ。よろしく」


ほんのわずかに眉が動く。


本当に、わずかに。


「高位貴族は社交でも楽しんでいれば良いのでは?」


空気が張り詰めた。


キドは無意識に腹を押さえる。


ロエルは笑顔のまま。


「では、共に社交に参りますか?

子爵家令嬢」


(どうしてこの人は火に油を注ぐ発言するかな)


「……今は騎士です」


「俺も今は騎士だが?」


「高位貴族の遊びに付き合う暇はありません」


「じゃあ、皇室騎士団相手に存分に遊ばせてもらおうか」


一瞬の沈黙。


「でしたらお帰り願います」


即答だった。


一歩も引かない。


キドはもう驚かなかった。

(ああ、また始まった……)

そして次の瞬間、胃が死んだ。


(ああもう絶対相性悪いこの二人……)



「お、落ち着いて下さい!今は合同訓練で――」


「騎士団長殿、情けなくはありませんか。

そのように狼狽なさって」


「……すみません」


つい謝ってしまった。



「くれぐれも規律を乱さぬように」


去り際まで背筋が完璧だった。



「……お知り合いですか?」


「昔、ドレス着て社交にいたのを思い出しただけだ」


「俺、初対面から睨まれましたよ。何なんですかね?」


「拗らせてるんじゃね?」



「聞こえています」


背後から声がした。


セディがいつ戻ってきたのか、誰も分からなかった。


ロエルは焦るどころか笑っていた。


キドは、頭まで痛くなってきた。



さらにその後ろ。


第二皇子が腕を組んで立っていた。


ずっと見ていたらしい。


楽しそうに。


「副団長、やるなぁ」


「ユアン嬢に勝てるか?」


キドが固まる。


「……?」


セディは首を傾げた。 


「お強い方なのですか?」


「ああ」


「それは是非とも一局交えたいですね」


静かな闘志が灯る。


完全にやる気だった。


「お、いいな。今度やれよ」


第二皇子が笑う。


完全に他人事だった。


「……教えて差し上げた方が良いのでは?」


キドが小声で言う。


ロエルは肩をすくめて笑った。


「面白そうじゃん」


(第二皇子が一番規律壊してるんだよな……)


お読みいただきありがとうございます。

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