第60話 YOU LOSE
第二皇子襲来。
ルード、限界。
キド、胃痛。
ロエル、見学。
ユアン嬢――制圧完了。
今日も平和です(多分)
騎士団訓練場では、ルードが深刻な顔で沈んでいた。
「……はぁ」
「まだか?
いや、別に待ってるわけじゃないが……」
間。
「……ずっと待ってるのもな」
完全に待っていた。
「どうせなら早く終わって欲しい」
「終わらないんだろ?」
ロエルが即座に突っ込む。
「……」
キドが腕を組んで真剣に考え出す。
「例えば『夕食の準備が出来ましたので』とか、
そういう理由で解散にならないですかね」
「ってか視察があるって言って出れば良かったんじゃね?」
ロエルが軽く言う。
「……はっ、そうか。その手があった」
ルードが勢いよく立ち上がった、その瞬間。
「待たせたな」
背後から、聞きたくない声がした。
ルードはスッと座った。
「あ、足が……」
自分でも驚くほど雑な演技だった。
「治せって言っただろ!」
第二皇子は本気で怒っていた。
(酷い)
(本当に骨折してても同じこと言う人だ)
騎士達の心が一つになる。
「よし、足は狙わないでいてやるから早くやろうぜ」
(人でなしだ)
ルードは無言で連行された。
⸻
「助けなくていいのか?」
「助けたら次、また俺です」
「だな」
⸻
立会台。
ルードは槍を持った。
「じゃあ行くぞ」
第二皇子が踏み込もうとした、その前に――
ブンッ
ルードの槍が左右に振られる。
近づけない。
とにかく近づけない。
ブンッ ブンッ ブンッ
「おい!!」
第二皇子が怒鳴った。
「すみません。足が痛いもので」
全然痛そうではなかった。
ルードは必死に槍を振り続ける。
「…ルード様、かっこ悪い」
その一言が、しっかり届いた。
「じゃあお前が代わるか!?」
ルードが全力で振り向いた。
名指しされた騎士が、
音もなく列の後ろへ消えた。
本当にいなくなった。
「……」
その隙だった。
槍を掴まれる。
「!?」
(しまった!)
第二皇子がにやりと笑う。
「ルード。俺も鬼じゃねぇ。
この槍――取り合うのはどうだ?」
なぜか綱引きが始まった。
ギィ……ギィ……
騎士達がざわつく。
「……これなら悪くないですね」
ルードも受け入れてしまった。
「頑張って下さい、ルード様!」
「これはこれで熱い戦いですね!」
キドが安堵する。
「これなら早く終わりますね」
「そうだな」
ロエルも頷いた。
その時だった。
「……あら、綱引きをされてますの?」
空気が凍った。
ユアンだった。
ルードと第二皇子の動きが同時に止まる。
「第二皇子殿下にご挨拶を、と思いましたが
お取り込み中かと遠慮しておりましたの」
一拍置き、
「ですが――お遊びでしたら構いませんわね」
第二皇子の口元が引きつった。
「遊びじゃねぇ」
「?」
ユアンは本気で首を傾げる。
「でしたら本気で綱引きをなさっておりましたの? 槍で」
「そ、そうだ!」
言った瞬間、第二皇子が自分で後悔した顔をした。
「……綱引きを、本気で?」
冷たい確認だった。
「……」
第二皇子、沈黙。
手の力も抜けた。
ルードはその隙に、
誰にも気付かれないように静かに降りた。
「あら、私とした事が。
第二皇子殿下にご挨拶申し上げます」
「……ああ」
「本気の綱引き、お邪魔してしまい申し訳ございませんでしたわ」
「……」
「まさか槍の綱引きに本気になるとは思いませんでしたの」
「……」
「だって、綱引きですもの」
第二皇子は、
借りてきた猫のように大人しくなった。
⸻
少し離れた場所で。
ロエルが呟く。
「……ユアン嬢、第二皇子と婚姻結んだ方が
全騎士にとっては平和じゃね?」
「何言ってるんですか!」
キドが即否定した。
「どうせなら公爵城に置いておきたいくらいですよ!」
「……」
ルードは、
第二皇子と同じ顔で黙っていた。
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