第58話 ROUND 2
団長キド、本気の一戦。
ただし、その場にいた全員の目的は少し違っていました。
第二皇子は軽く肩を回し、振り返った。
「団長、次はお前だ」
キドは、まるで死刑宣告を受けた気分になった。
(なぜ俺なんですか)
(どうしてこうなった)
周囲の視線が一斉に集まる。
逃げ場なし。
キドは観念して木剣を取り、ゆっくりと立会台へ上がった。
深く息を吸う。
――空気が変わった。
さっきまでの混乱が、すっと消える。
構えは低く、無駄がない。
視線は一点、相手の重心だけを追っている。
騎士達が思わず息を呑んだ。
(あ、団長だ)
(さっきまで胃押さえてた人と別人だ)
「行くぞ」
第二皇子が踏み込む。
速い。
だが――
キドは動かなかった。
いや、動いたのは一瞬だった。
身体を半歩だけずらし、
相手の腕を外しながら木剣を滑らせる。
カン、と乾いた音。
最小の動きで、最大の制御。
力で押さない。
読む。
流す。
崩す。
完全に、技術だった。
第二皇子の二撃目。
それを迎え撃つように、今度はキドが踏み込む。
鋭い。
先ほどまでの防御主体とは違う、
迷いのない直線の打ち込み。
「――っ」
第二皇子の目が、初めて細くなった。
受け流される。
だがキドは止まらない。
連撃。
速さではない。
正確さ。
相手の動きの“隙間”にだけ剣を差し込む。
訓練場の空気が一段引き締まった。
――その時。
「さすが、団長!」
一際大きな声が響いた。
全員が振り向く。
(ロエル様!?)
ロエルが満面の笑顔で拍手していた。
騎士達は一瞬唖然としたが、
すぐに同じ結論に達した。
(この流れに乗れ)
(万が一次が自分に来たら死ぬ)
「よ、団長!」
「団長、頑張って下さい!」
次々に声が上がり始める。
(何だ?あいつら)
キドは困惑しながらも、
第二皇子の突進をいなし、逆に木剣を叩き込む。
カン!
乾いた音が響く。
その時。
「もう、俺を抜いたな!」
ルードが大声で――
ものすごく棒読みで言った。
「この公爵城で一番強いのはキドだな」
あまりの下手さに、
騎士達の声が一瞬止まった。
(演技下手すぎる)
(せめて感情込めて)
キドは呆れた。
(嘘なのはわかってる)
だが。
(……悪くないかもしれない)
ほんの少しだけ、
踏み込みが鋭くなる。
「はっ!」
木剣が閃く。
第二皇子に襟を掴まれかける――
その瞬間。
体を捻り、手首を外し、
至近距離から打突。
完全に訓練された動きだった。
「ほぉ」
第二皇子が笑う。
「いいな、お前」
打ち合いが続く。
技術対体格。
読み合いと力の押し合い。
周囲の騎士達は――
(団長、逃げ切れ!)
(勝たなくていい!)
(時間稼げ!)
完全に応援の方向を間違えていた。
⸻
少し離れた場所で。
ロエルが小声で言う。
「このままじゃ、次お前だぞ」
「だからキドの方が強いと言っているだろう」
ルードは真顔だった。
「いやいや、足りねーよ」
「じゃあどうすればいいんだ?」
二人とも最低だった。
⸻
「埒が明かねぇな。だが良い試合だった」
第二皇子が一歩下がる。
息は切れているが、満足そうに笑っていた。
「次はルードか」
振り向く。
そこにいたのは――
「第二皇子殿下」
ルードだった。
「俺は足を負傷しておりまして、
誠に残念ですが本日は――」
先ほどまで無かった包帯が巻かれていた。
松葉杖まで装備していた。
完璧な負傷者だった。
「……」
訓練場が、完全に沈黙した。
誰も突っ込めない。
あまりにも堂々としている。
ただ一人。
ロエルだけが、肩を震わせていた。
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