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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
5章 Surviving Knight
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第57話 ROUND 1

第二皇子による実戦訓練。


ただし、想定していた形にはなりませんでした。

騎士団訓練場は静まり返っていた。


――ただ、一人の笑い声を除いて。


「さぁ、さっさと始めようぜ」


「誰から来る?

不敬とか気にしねぇから本気で来いよ」


(気にしてください!!)


誰も声には出さなかった。


「あ、手抜いたらそれはそれで不敬な」


(どっちなんだよ!!)


「まず肩慣らしだな。上級騎士からでいいか?」


上級騎士達が

処刑台に向かう顔になった。


「あぁ、それは良い」

ルードが即答した。


「お前達、お相手して差し上げろ」


(押し付けた!?)


「ルード様が仰せだ。前に出ろ!」

キドも続いた。


(共犯!!)



上級騎士が木剣を構え――


次の瞬間、宙を舞っていた。


何が起きたのか、誰も分からない。


着地音だけがやけに響いた。


訓練場の砂が、ぱらぱらと遅れて落ちてくる。


騎士達は全員、同じ顔をした。


(今の見えた奴いる?)

(いない)

(よし、安心した)


「……肩慣らしにもならねぇな」


キドの顔色が消えた。


「何なんですかあの人!!

本当に皇子ですか!?」


「キド!本人がいるぞ!」

ルードが小声で止める。


「第二皇子は武器を気にしない。

武器とは避ける物じゃなく――」


「無視してますよね」

キドが遠い目で続けた。


「…理解しなくていい」


ルードも遠い目だった。



第二皇子がきょろっと周囲を見渡す。


「次どうするかな」


まるで稽古の続きでも探すような口調で――


楽しそうに言った。


「ロエル、来いよ」


空気が凍った。


騎士達の心の声が揃う。


(なんで一番触っちゃいけないところ行くんだ)

(そこは触れるなって顔してただろ今)


ロエルは一瞬だけ目を細め、

すぐにいつもの笑顔を貼り付けた。


「第二皇子殿下。俺は下っ端ですよ」


「戦闘の場に立つ役目でもありませんし」


騎士達がざわつく。


(上級騎士を基本の型だけで倒し…)

(史上最短で中級騎士にもなった)

(下っ端って何だ)


キドが小声で補足した。


「本人はそういうことにしておきたいらしいですね」


「余計なこと言うな」



第二皇子が、あっさり言った。


「おいおい、俺が気付かないと思ったか?」


その一言で、

訓練場の温度が数度下がった気がした。


「不穏分子の本拠地で首謀者が縛られて転がってたの、

あれお前だろ?」


沈黙。


ものすごく居心地の悪い沈黙。


風の音だけがやけに聞こえた。


第二皇子は悪びれもせず続ける。


「侯爵家出たんなら、もう隠さなくてもいいだろ?」


にやっと笑った。


「ここはお互い、本気で楽しもうぜ」


その言葉を聞いた瞬間。


騎士団全員の心が一致した。


(この人、“楽しむ”って言ったぞ)

(嫌な予感しかしない)


ルードは深く息を吐いた。


キドは胃を押さえた。


そして誰よりも空気を読まない声が響く。


「上がって来い、ロエル」


ロエルが、ゆっくりと立会台へ上がった。


「俺は素手だが、お前はどうする?」


第二皇子が肩を鳴らす。


「俺もそれで」


騎士達がざわついた。


「え、ロエル様が武器持たないの初めてでは……」

「剣抜かないのか……?」


キドも思わず呟く。


「……珍しいですね」


ルードは腕を組んだまま、小さく息を吐いた。


「……ロエル、戦う気がないかもしれん」


「え?

適当に終わらせるつもりですか?

それ不敬とか言われません?」


キドの胃がすでに痛い。


「……俺達は関係ない。そうだな?」


ルードはキドに向き直り、妙に力強く言った。


「はい!関係ありません!」

キドも全力で同意した。


(関わると、ろくなことにならない)



「……行くぞ」


第二皇子が踏み込む。


速い。


その瞬間。


パシッ。


ロエルは軽く手で払っただけだった。


「……?」


「いやぁ、今の危なかったです」


にこやかに笑う。


(全然危なくない)


全員が思った。


二撃目。


今度は掴みに来る。


ロエルは半歩ずれるだけ。


掴めない。


「……あの」


三撃目をかわしながら、ロエルが言う。


「ですから俺、下っ端なんですよ」


ハハハ、と困ったように笑った。


(下っ端が出来る動きじゃない!!)


騎士団の心の声が揃った。


足払い。


ロエルは軽く跳ねて避ける。


着地も静か。


反撃なし。


まるで散歩。


「本当に、俺にはただただ荷が重い役目です」


また笑う。


息一つ乱れていない。


(荷が重いのはこっちだ)


キドは胃を押さえた。


第二皇子が目を細める。


「……お前、やる気ねぇな?」


「俺、平和主義なんです」


即答だった。


(平和から一番遠い)


キドも騎士達も同時に思った。


さらに踏み込む第二皇子。


速度が上がる。


だがロエルは、


払う。

ずらす。

避ける。


それだけ。


本当にそれだけ。


一度も攻撃しない。


(これ戦闘じゃなくて“対応”だ)

(業務処理だ。俺の知ってる騎士じゃない)



「……つまらん」


第二皇子が止まった。


「倒す気ゼロだろ」


「ですから俺、人を怪我させるのも、させられるのも苦手なんです」


困ったように答える。


(どの口が言うんだ)


キドは天を仰いだ。


「だったら騎士団に入るなよ!!」


第二皇子のツッコミが一番まともだった。



しばらく睨み合い――


第二皇子が、ふっと笑った。


「あー、もういい」


肩を回す。


「捕まらねぇ奴とやっても面白くねぇ」


ロエルが一礼する。


「ご理解いただき、助かります」


本当に助かった顔だった。



騎士団全員が安堵した。


空気が一斉に緩む。


キドは額を押さえる。


「……なんだったんですか今の」


ルードは短く言った。


「……そういうことだ」


「どういうことですか」



少し離れたところで、

若い騎士が呟いた。


「……今の、訓練記録どう書けばいいんだ?」


「書くな!!」


「しかし…」


レフがにやっと笑った。


「次、お前やるか?」


「書きません!!」




お読みいただきありがとうございます。

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