表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然皇女と公爵家の問題児たち  作者: angelcaido
4章 パーティ・ジャンボリー
54/75

第54話 いい湯だな、あはは

温泉に来たはずでした。


――なぜか、全く休まらないまま終わります。

保養施設へ戻る頃には、すっかり日が傾いていた。


「……視察のはずだったんだがな」

ルードがぽつりと呟く。


両手いっぱいの荷物を抱えたキドが答える。

「途中から完全に買い出しでしたね」


「経済活動ですわ」

即座にユアン。


「違います」

キドも即答した。


ラミアはくすっと笑う。

「でも、とても賑やかで楽しかったです」


ルードはそれ以上何も言わなかった。

否定しても無駄だと分かっていたからだ。



その後、全員で食事を済ませ――



そして現在。


男湯。


岩造りの湯船に、しんとした湯気が立ちこめていた。


……はずだった。


「――で、あの配置はだな」


ルードがいつもの調子で話し始めた瞬間だった。


隣の露天から、女性たちの声がふわりと聞こえてくる。


「こちら、景色が綺麗ですわね」

「本当ですね」


ロエルとキドの動きが、同時に止まった。


「……」

「……」


視線だけで会話する二人。


(まずいな)

(まずいですね)


「聞いているのか」


ルードだけが普通に湯に浸かったまま言う。


「聞いてます聞いてます」

キドがやけに早口で返した。


その間にも、向こうの会話は容赦なく聞こえてくる。


「無理です!!」

キドが思わず声を上げた。


「お前、声でかい」

ロエルが即座に小声で制した。



「ユアン様は本当にお肌が白いですね。羨ましいです」


「体質ですわ。殿下こそ、とてもお綺麗ですわよ」


「そんなこと……でも外に出るようになって少し焼けてしまって」



男湯。


キド、両耳を塞ぐ。

「聞いてません!! これは不可抗力です!!」


ロエルはさっと壁の方を向いた。

「……いやこれ、離れた方がいいだろ」


ルードは湯に浸かったまま、微動だにしない。

「騒ぐな。不審だ」



「それでも十分殿下のお肌はお白いですわ。

それに……お召し物の印象よりおありになるのですね」



「………」


キド、完全に耳を塞いで固まる。

ロエルは無言で視線を逸らした。


次の瞬間。


ルードが、無言で立ち上がった。


ザバッ――と湯が揺れる。



「ちょっ、ルード様!!」


「立ち上がるなよ!」


キドは必死に目を逸らしながら叫ぶ。

「見えます!! 見えるんですけど!!」


「だからやめろって!!そっち向け、壁!!」


「……声が通り過ぎている。場所を変えさせる」


「だから今行ったら余計ダメなんですって!!」


「やめろ、余計面倒になるだろ」



「ユアン様の方が遥かに……」


ルード、止まらない。


そのまま仕切りの方へ歩いていく。



ルードはそのまま仕切りの方へ歩いた。


「会話が筒抜けだ。場所を移れ」



女性側、沈黙。


湯気だけが、しばらく流れた。


「……全部聞かれてましたわね」


「?」



男湯。


キドは両手で顔を覆った。

「……終わりました」


隣でため息が落ちる。

「だから言っただろ……」


ルードは何事もなかったかのように湯へ戻った。


ざぶり、と静かな水音。


「これで静かになる」


「そういう問題じゃないだろ……」


「精神的被害が大きすぎる」



――その時だった。


ガコン。


どこかで、妙な音がした。


三人、同時に顔を上げる。


次の瞬間。


ザァァァァァァァ――――


天井の導湯管が外れ、

引き込んだばかりの温泉が盛大に吹き出した。


「うわあああああ!!」

キドが本気で滑りかけながら叫ぶ。


「だから急ごしらえの配管は嫌なんだ!!」


「落ち着け、ただの配管外れだ」

ルードは湯を払いながら淡々と言う。


「全然ただじゃないです!!」


――そして次の瞬間。


キドがびしっとロエルを指差した。


「やっぱりロエル様が原因じゃないですか!!」


「俺は何もしてないだろ」


「温泉出した時点で原因そのものなんですよ!!」


一拍。


ロエルだけが、流れ落ちる湯を見上げて――


「ははは、楽しいな」


「どこがですか!!」

キドが即座に振り向いた。


「保養地らしくなってきただろ」


「こんなの聞いてません!!」


ルードは深く息を吐いた。


「……温泉に来たはずなんだがな」


肩から湯を払う。


「余計疲れた」


湯気と熱湯と怒号が入り乱れ、

男湯は完全に休養施設の機能を失った。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ