第49話 安心してください、掃いてます。
騎士団本部・会議室。
護衛とは、命を守る任務である。
要人に寄り添い、危険を排除し、無事を保証する――それが騎士の務めだ。
……ただし。
その「護衛対象」が皇女で、
その「護衛役」がロエルだった場合。
任務は成立しているのに、
なぜか周囲の被害だけが増えていく。
今回の議題はただ一つ。
――ロエルは、護衛に向いているのか。
そして、もっと重要な問題。
――このまま任せて、本当に大丈夫なのか。
騎士団本部・会議室。
ロエルは呼び出され、椅子に座らされていた。
向かいには腕を組んだルード、その隣で既に胃を押さえているキド。
開始前から空気が重い。
「要人の護衛を担当するのは通常、上級騎士だ」
ルードが低く言った。
「だが中級騎士も、いずれはその任に就く。段階的に訓練を始める」
キドが真顔で続ける。
一拍。
ルードはロエルを見据えた。
「……が、お前は絶望的に護衛に向かない」
「要人を軽く考え過ぎてるんです」
キドが即座に補足する。
「……で?」
ロエルは、本気で分かっていない顔をした。
ルードは眉間を押さえた。
「不本意だが。本当に不本意だが」
一語一語がやけに重い。
「護衛訓練として――試験的にラミアの護衛に付いてもらう」
ロエルの目が僅かに見開かれる。
「胃も痛いですし、胃が痛いですし、本当に胃すら痛いですが」
キドが壊れ気味に言う。
「殿下がロエル様の馬に乗られた時、なぜか怖がらなかったそうですね。
奇跡的に」
「奇跡って」
「再現性の確認だ!」
ルードが断言した。
「これは採点対象とする。将来、上級騎士資格を得る際の評価にも関わる」
「ラミアに協力を頼む以上、低評価は許さん」
ロエルの表情から笑みが消えた。
「……わかった」
空気が、わずかに張り詰める。
その妙な真剣さに、ルードは頭を抱えた。
(何かもう、早速違う気がする)
キドは天を仰いだ。
(方向性がすでに怖い)
⸻
数日後。
公爵城・廊下。
磨き込まれた床に、柔らかな光が落ちている。
「私がお役に立てるなんて光栄です。
本日はよろしくお願いします」
ラミアが丁寧に頭を下げた。
「うん。よろしくね」
ロエルは自然に応じる。
――自然すぎた。
離れた柱の陰から観察しているルードとキド。
(護衛対象に緊張感を与えない配慮……いや、どうだ?)
(ただの距離の近い男です。減点)
⸻
ロエルはラミアの斜め後ろに付き、自然な距離を保って歩く。
使用人が挨拶しても、存在感を消している。
「……気配の消し方は悪くないな」
ルードが小さく頷く。
「周囲に威圧を与えていません」
次の瞬間。
若い男性使用人がラミアに近付こうとした。
ロエルが一歩、静かに前へ出る。
視線だけ向けた。
それだけだった。
男性使用人、青ざめて方向転換。
何事もなかったかのように撤退。
「危険人物想定か?」
「違います。ただの牽制です。減点」
⸻
庭園。
春の匂いを含んだ風が抜ける。
ロエルが自然に手を差し出した。
「ラミア」
「ありがとうございます」
手を取るラミア。
完全に散歩だった。
「……エスコートだな」
「護衛ではありません。減点」
⸻
庭を歩く二人。
「温室か、入った事ないな」
「まぁ。では今度是非ご一緒に。」
「うん。俺はいつでもいいよ。ラミアが平気な時に」
ルードのこめかみに血管が浮く。
「キド。あれは何だ?」
「ただの、仲の良い男女です。」
「何だと!?」
ルードはキドの胸ぐらを掴む。
「掴むならロエル様にしてください!」
「まだ採点が終わってない。不本意だがな」
「俺も胸ぐら掴まれるのは本当に不本意です。」
⸻
そこへユアン登場。
ロエル、即座に前へ出る。
「ラミア、危険だ」
「は?」
「この女に近づくと……可愛げがなくなる」
「何ですって!!」
ラミアがくすっと笑う。
「真面目に取り組んでおられるのですね」
「ただ失礼なだけですわ!!」
「……」
「……減点ですね」
⸻
騎士団。
ラミアの姿が見えた瞬間、ざわついた。
団員達が一歩近付いた。
ラミアの前にロエルが立つ。
そして――
笑顔が消える。
見た事のない冷たい目。
騎士達は一斉に視線を逸らした。
「皆様いつもありがとうございます。」
ラミアが微笑む。
騎士達はその声に振り向き、表情を綻ばせる。
ロエルがさらに睨む。
騎士達、今度は完全に後ろを向いた。
「情けないな」
「騎士を減点します?」
⸻
「ラミア、少し待ってて。」
「はい。」
「敵を倒して来る」
次の瞬間。
「全員退避!!」
騎士達が全速力で逃げた。
⸻
結果。
「正直、悪く無かった。」
ルードはそう言いながらも難しい顔をしている。
「ルード様、皇女殿下限定です!
距離も近すぎです!」
ルードは腕を組み、悩む。
「護衛自体は成立している……」
「成立はしてますが方向性がおかしいです」
ルードは立ち上がった。
「だいたいお前達は逃げるとは何事だ!」
怒鳴った相手は――
ロエルではなく騎士たちだった。
「全員、減点だ!」
その結果ロエルの評価だけが、なぜか相対的に上がった。
ルードが遠い目で言った。
「不本意だ……」
キドも同じ顔をしていた。
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