第47話 皇室騎士団へようこそ
この回は、
合同会議と、 合同訓練。
だいぶ元気な皇子でお送りします。
重厚な書棚と書類の山に囲まれた、公爵家の執務室。
窓から差し込む光の中、ルードは一通の書状を手にしていた。
「キド。皇室騎士団から書状が届いているぞ」
「えっ」
「第二皇子が皇室騎士団長に就任したそうだな。
皇女殿下の外遊の際は、常に合同警備を敷きたい、との要請だ」
「併せて、綿密な調整と合同訓練の招集――だそうだ」
嫌な予感しかしない。
「……ルード様、一緒に行きません?」
「……嫌だ」
即答だった。
「何でですか!」
ほとんど悲鳴に近い声で、キドは食い下がった。
「だいたい、お前が第二皇子に気に入られたのが悪い」
「そんな……!」
「公爵家騎士団は、むしろお前の巻き添えを食らっている」
(胃が痛い……)
キドは胸を押さえながら、深くため息をついた。
⸻
数日後。
キドは上級騎士たちを引き連れ、皇室騎士団本部へと向かった。
重厚な石造りの建物。
歴史と権威、そして圧倒的な存在感が、訪れる者の背筋を自然と正させる。
(……胃が、既に悲鳴を上げている)
「失礼します」
扉を開けた瞬間。
「おう、来たな!」
やけに元気な声が響き渡った。
出迎えたのは、満面の笑みを浮かべた第二皇子。
その背後には、ずらりと整列する皇室騎士団員たち。
「紹介する」
第二皇子に促され、一人の騎士が前へ出た。
「初めまして。
皇室騎士団副団長を務めております、セディです」
すらりとした均整の取れた体躯。
無表情で、冷静沈着そうな眼差し。
キドは一瞬だけ目を見張り、すぐに表情を整えた。
「お会い出来て光栄です。
公爵家騎士団団長、キドと申します」
差し出した手に、セディは一瞬の逡巡もなく応じた。
(……やはり、女性か)
視線を巡らせると、他にも数名、女性騎士の姿がある。
(皇室騎士団…… ずいぶん様変わりしたな)
ふと、疑問が口をついて出た。
「皆さん、お若いですね。
皇室騎士団には、名門貴族出身で長年在籍されている方々が多かったはずですが……」
「お、気付いたか」
第二皇子が肩を叩きながら笑った。
「そいつら、全員追い出した」
「……えっ?」
「無駄に家柄だけで居座ってた連中だからな。
じいさんだらけの騎士団なんて、つまらんだろ?」
高らかに笑う第二皇子。
(いや、あなたこそ、その無駄な家柄の権化では……)
キドは必死に口を閉じた。
「でもな」
第二皇子は振り返り、騎士団員たちを見渡す。
「こいつらは実力だけで残した。
俺が保証する」
自信満々なその言葉に、キドは小さく息を呑んだ。
(……いや、色々と大丈夫なのか、この騎士団)
⸻
会議室――合同会議。
公爵家騎士団と皇室騎士団による、護衛体制の協議。
一通りの報告が終わった後、静かに口を開いたのは、皇室騎士団副団長――セディだった。
「護衛配置は、多層防衛が最適と判断します」
空気が引き締まる。
「公爵家は対人戦闘と近接防衛に長け、皇室騎士団は索敵・統制・制圧に優れています。
双方の強みを分断せず、重ねることで、最も隙のない陣形になります」
理路整然。
一切の無駄がない。
キドは静かに頷いた。
「問題ありません。
その配置で、公爵家は即応可能です」
数語のやり取りで、即決。
会議は驚くほど円滑に進んだ。
⸻
会議後。
「次は合同訓練だな!
先に行ってるぞー!」
第二皇子は、子供のような笑顔で廊下を駆けて行った。
(……生まれながらの対決バカ)
キドは遠ざかる背中を見送りながら、嫌な予感に胃を押さえた。
「騎士団長殿」
振り返ると、セディが立っていた。
「セディ卿。
先程は、迅速かつ合理的な提案、ありがとうございます」
「いえ。
短時間で即断いただけたこと、こちらこそ感謝いたします」
淡々とした口調。
キドは、何となくセディを見つめた。
「……何か?」
(何故、睨む)
「副団長として非常に有能だと感嘆しただけです」
しかし、セディの視線はさらに鋭くなる。
(なぜ悪化する)
「……それは、私が女だから舐めていた、という意味でしょうか」
「えっ!?
どうしてそうなるんですか!」
キドは思わず声を裏返らせた。
「そんなこと、一言も言っていません!」
「……失礼しました」
セディは目を逸らす。
「……公爵城では、女官や女性使用人も、争いになれば肉弾戦です。」
「……女官や、使用人が?」
セディの目が、初めて大きく見開かれた。
「はい。騎士が引くレベルで激しいです」
キドは遠い目で頷く。
「……公爵城で働く女性に、騎士になってもらうのも一案ですね」
「……それを先駆けた第二皇子殿下の改革は、尊敬に値するのかもしれません」
キドは素直に言った。
しかし。
その場にいた皇室騎士たちは、一斉に目を逸らし、遠い虚空を見つめ始めた。
光の消えた瞳。
完全なる死んだ目。
「えっ?
皆さん、どうされました?」
キドも青くなる。
「……」
誰一人、答えない。
沈黙が、不気味に広がる。
(やばい、地雷踏んだ……)
そして――
⸻
地獄の合同訓練が始まった。
皇室騎士団演舞場に響き渡るのは、第二皇子の高らかな笑い声。
「ははは! もっと来い!」
「いくぞおおおお!!」
それに混じる、公爵家騎士たちの悲鳴。
「団長ぉぉぉ!!」
「無理です!!」
「これ訓練じゃない!!」
「死ぬ、死にます!!」
なお。
皇室騎士たちの声は、一切、聞こえてこなかった。
ただ、虚ろな目で、無言のまま地獄を見つめていた。
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