第44話 教える者、試される者
皇女の教育係が決まり、
騎士団の昇格試験が行われます。
教育が必要なのは、
皇女だけではありません。
公爵家・執務室
ルード、ロエル、ラミア、キド、そしてユアンが揃っていた。
「ご報告がございますわ」
ユアンが、少し誇らしげに胸を張る。
「父に頼み、陛下へ正式に進言していただきましたわ。
その結果――私、正式に皇女殿下の教育担当に任命されましたの」
「……陛下が、許可したと?」
ルードは信じられないという表情で問い返す。
「ええ。
我が家門は、帝国法務・法典監修・司法統括を担っております」
「歴史学・政治学関連の主要書籍も、支流家門が長年監修しておりますし、
教育内容に重大な誤認があれば、陛下とて看過なさることはできませんわ」
一瞬、間。
「父が“史実と異なる教育内容”を具体例で示しましたら、
陛下は即座に判断を下されましたわ」
「……なるほど」
ルードは小さく息を吐いた。
「そういう家門だったか……」
キドは内心、深く頷く。
(だから、あの知識量……)
「ははっ。
ルードの“面接”を突破できる令嬢なんて、そうそういないな」
ロエルが楽しげに笑う。
「……面接?」
ユアンが首を傾げる。
「い、いや、何でもない」
ルードは慌てて視線を逸らした。
「では、皇女殿下」
ユアンは優雅に一礼する。
「本日より、私が殿下の教育を担当いたしますわ」
「はい。よろしくお願いいたします」
ラミアは、嬉しそうに微笑んだ。
こうしてユアンは、正式にラミアの教育係として、頻繁に公爵城を訪れるようになった。
⸻
騎士団・昇格試験
「例年通り、昇格試験を実施する」
キドの号令が訓練場に響く。
「下級騎士は在籍三年以上。
中級騎士は規定年数と実績を満たした者が対象だ」
ざわめき。
そして、試験当日。
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筆記・口頭試験
下級騎士たちは、必死に筆を走らせていた。
(難しすぎる……)
(去年より増えてないか……?)
それでも必死に文字を埋めていく。
やがて時間終了。
答案はすぐに回収され、次は口頭試験へと移る。
口頭試験
ルードとキドが待つ会議室。
扉が開く。
「次」
「はーい」
軽い返事とともに現れたのは――
「……ロエル?」
「何で紛れてるんですか?!」
キドが思わず声を荒げる。
「お前、試験資格はないはずだぞ」
「うん、わかってる。
どんな感じか見ておこうと思って」
悪びれもせず、ロエルは言った。
「……落ちるだけだが、まあいい」
ルードは呆れ混じりに言う。
「始めるぞ」
こうして、ロエルの口頭試験が始まった。
「敵と遭遇した際、まず何をすべきだ」
「状況把握と、護衛対象の安全確保」
「……無難だな。敵への対応は?」
「対象の安全が保証されていると確定した後、拘束。
背後関係、目的を吐かせる」
キドが一瞬、言葉を失った。
「……どうやって吐かせる?」
ロエルは少し考え、
「指を一本ずつ折る。
駄目なら足。
それでも無理なら……目か。
男なら、もっと効率的な方法もある」
「ストップ!!」
キドが耳を塞いだ。
(知識は無難。だが、思考が危険域。)
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実技試験:馬術・剣術
障害走行。
下級騎士たちが次々と障害を越えていく。
ロエルの番。
手綱を軽く引くだけで、馬は迷いなく加速する。
踏み切りに一切の無駄がない。
障害を越えるたび、着地の音がやけに静かだった。
(貴族……いや、諜報員か?)
剣術。
「遠慮なく来い」
ルードの前に、下級騎士たちが次々挑む。
――一打で弾き飛ばされる。
そして。
「行くよ」
ロエルが前に出た。
「今日は型のみだ」
「わかってる」
軽く笑いながらも、ロエルの目が変わる。
打ち合いが続く。
乾いた剣戟音。
間合いが、異様に近い。
普通なら踏み込まない距離で、ロエルは平然と剣を振るっていた。
「……そこまでだ」
ルードが止める。
「型は完璧だ」
「もう終わり?」
ロエルは少し残念そうに首を傾げた。
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護衛シミュレーション
襲撃役と護衛役に分かれて行う実戦形式。
襲撃役となったロエル。
開始と同時に――
護衛役の下級騎士たちは、次々と無力化された。
気づけば、全員地面に伏している。
試験官の上級騎士たちは、言葉を失い、無言で震えていた。
(動きが……異常すぎる)
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最終面接
「お前の適性と、希望する配属先は?」
「あー……
諜報、拷問、暗殺、処刑、毒物関係。
あと、壊滅と殲滅も、割と得意かな」
沈黙。
ルード、頭を抱える。
キド、青ざめる。
上級騎士たち、震える。
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上層部会議
「下級騎士、合格基準に達している者は……おりません。」
「基準が厳しすぎるのでは?」
「筆記が壊滅的ですね」
「しかし、公爵家騎士団だけ昇格ゼロは対外的に問題だ」
「あ、これ満点です」
「誰だ」
「……ロエル様です」
全員、天を仰ぐ。
「馬術、剣術も満点です」
「……だが思考がな」
「何年在籍しても変わらないと思われますが」
「……」
⸻
合格発表
訓練場に、騎士たちが並ぶ。
キドが前に立つ。
「下級騎士、合格者一名」
緊張が走る。
「……ロエル様」
「え? いいの? 俺、入ったばっかだけど」
「筆記・剣術・馬術――すべて満点です」
感嘆の声。
「しかし!」
キドが一歩前に出る。
「思考が騎士向きではない。
暗殺者そのものだ!」
空気が凍る。
「中級騎士、お前たちが教育係を務めろ!!」
「「えぇ!?」」
「騎士としての心得と、その危険思考の矯正だ!!」
ロエルはきょとんと首を傾げた。
「?」
中級騎士たちは青ざめた。
「「「……は?」」」
「以上!」
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