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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
3章 Garden’s Side
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第41話 花と風の秘密

この回は、ラミアが一歩踏み出すお話です。


近づく距離と、すれ違う想い。


少しだけ、切ない時間。

柔らかな風が、午後の庭園を渡っていく。


白いガゼボの下、ラミアは静かに紅茶を口にしていた。

淡い色の液体の向こうで、小ぶりな菓子と焼き菓子が整然と並んでいる。


少し離れた場所では、ユアンが屈託なくルードの腕を掴み、何か楽しげに話していた。

困ったように眉を寄せながらも、拒めずに応じるルードの姿に、ラミアは小さく笑みをこぼす。


――穏やかな午後。


その視界の端を、ひとりの影が横切った。


白いシャツに淡いブルーのズボン。すらりとした背。

ロエルだった。


今日は午後から幹部会議があると聞いている。

下級騎士は半休――ならば、彼もこれから城へ戻るのだろう。


ラミアは一度、ルードとユアンを見やり、そっと息を整えた。


「……少し、庭園を歩いてきます」


女官が怪訝そうに顔を上げる。


「お供を――」


「すぐそこですから。一人で大丈夫です」


穏やかに微笑んで制すると、女官は一瞬ためらい、やがて小さく頷いた。


「では、こちらでお待ちしております」


「ありがとうございます」


ラミアは静かにその場を離れた。



「ロエル様」


呼び止めると、ロエルはすぐに足を止め、振り返って恭しく一礼する。


「皇女殿下。ご機嫌麗しゅうございます」


完璧な礼と、よそ行きの微笑。


それだけで、胸の奥がちくりと痛んだ。


「あ……その……お見かけしたので、ご挨拶を」


「そうですか。お気遣い、ありがとうございます」


穏やかで、丁寧で、けれど一線を引いた距離。


「……」


「……」


「では、これで」


再び礼をし、踵を返す背中。


引き留めたい衝動が胸を満たすのに、声にならない。


ラミアは視線を伏せた。

足元の芝生が、滲んで揺れて見える。


――そのとき。


芝を踏む足音が近づき、視界に、もう一足の靴が映り込んだ。


顔を上げると、ロエルがそこに立っていた。


「……何か、ありましたか」


「いえ……何も」


微笑みを作る。

だが、うまくいかない。


ロエルは、わずかに逡巡し、静かに口を開いた。


「……少し、歩こう」


拒む間もなく、視線で促される。


二人は庭園の奥へと進み、花々がアーチを描き、石垣のように連なる小径へと足を踏み入れた。

やがて、道は花の壁に遮られ、行き止まりとなる。


ラミアは、思わず振り返った。


その帰り道を塞ぐように、ロエルが立っていた。


「……殿下」


低く、穏やかな声。


「先程から、様子がおかしい」


「そんな……」


「隠されるのは、好きじゃない」


一瞬、鋭くなる視線。

すぐに、困ったように和らぐ。


「……責めているわけじゃない。聞かせてほしいだけだ」


沈黙。


花々の香りと、遠くのざわめき。


ラミアの喉が、ひくりと鳴った。


「……私が、皇女だから……でしょうか」


言葉は、そこで途切れた。

視界が滲み、涙が静かに溢れる。


「それとも……私、だから……?」


ロエルは、わずかに眉を寄せた。


「……悪い。何を――」


言いかけて、言葉を止める。


ラミアは、はっと我に返った。


(――ロエル様は、知らない)


あの会話も、あの決意も。

すべて、私が知っている、という事を。


ラミアは目を伏せ、唇を噛みしめる。


知られない方が、きっといい。


やがて、そっと顔を上げ、柔らかな微笑を作った。


「……名前を呼んでくださって、気さくに話しかけてくださったことが……嬉しかったんです」


小さな、精一杯の嘘。


「でも……分かっています。私が皇女であることも、身分があることも」


言葉にした途端、胸が締めつけられ、声が揺れた。


「……ごめんなさい」


身を翻し、立ち去ろうとした瞬間。


手首を、掴まれた。


引き寄せられ、背後から包み込まれる。


「……ロエル、様?」


広い胸と、確かな腕。


ラミアの背に触れるぬくもりは、驚くほど優しかった。


視界には、花々と、揺れる光だけ。


ロエルの呼吸が、すぐ後ろで重なる。


「……ラミア」


名を呼ばれた、その一音で、胸が満たされる。


「はい……」


「……これ」


短い沈黙。


「……ルードには、秘密な」


それだけ。


風が吹き抜け、花弁が宙を舞う。


やがて、腕が静かに離れた。


ロエルは何も言わず、ラミアを先へと促す。


花の壁を抜けると、庭園の小径が、再び視界に広がった。


日常の音と、光。


二人は、何事もなかったかのように、歩き出す。


――けれど、その距離だけが、ほんのわずか、変わっていた。


こちらで3章ラストになります。


活動報告にイメージイラスト載せてます。


4章もよろしくお願いします。

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