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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
3章 Garden’s Side
40/73

第40話 地獄の持久走と天使の飲み物

この回は、


走らされる騎士団と、

走らない団長と、

料理する公爵でお送りします。


なお、最後に一番危険なのは

公爵の料理です。

騎士団・訓練場


キドが全騎士団員の前に立ち、咳払いを一つした。


「――もうすぐ夏も本番だ。

その前に、体力を底上げする必要がある」


団員たちの背筋が、自然と伸びる。


「数日後、持久走訓練を実施する」


「……どのくらい走るんですか?」


一人が恐る恐る手を挙げた。


「公爵城敷地、外周一周」


一瞬、空気が止まった。


「……え」

「一周……?」

「広すぎません……?」


城は、ちょっとした町ひとつ分の広さがある。


「何を弱音を吐いている!」


キドの一喝が響く。


「その程度で音を上げるようでは、我が公爵家騎士団の名が廃る!

誇りを持て!」


「……騎士団長は?」


ロエルが穏やかに手を挙げた。


「団長は、走らないのか?」


キドは一拍置き、胸を張る。


「俺は――

お前たちがサボらず走っているか、馬で巡回しながら監視する」


「ずるくないですか!?」

「自分は楽して!」


「ズルではない! 統率者の務めだ!」


「じゃあ俺たちも馬で――」


「却下!」


団員たちのブーイングが、訓練場に轟いた。



数日後・持久走当日


合図と同時に、騎士たちが一斉に駆け出す。


「腕を振れ!」

「姿勢を崩すな!」

「後方、遅い!」


馬上のキドの声が、容赦なく飛ぶ。


「……自分は走らないくせに……」

「鬼だ……」


小さな愚痴は、すべて風に流された。



「高位貴族の方も、こういう訓練をされるんですか?」


息を切らしながら、団員が尋ねる。


「んー……どうだろう」


ロエルは涼しい顔で走りながら、首を傾げた。


「確か子供の頃――」


「聞きたくないです!!」


団員が、全力で遮る。


「え、遠慮しなくていいのに」


「してません!!」


団員たちは露骨にペースを上げ、ロエルから距離を取る。


「俺、ほんとに気にしてないよ?」


ロエルは笑いながら、軽々と追い上げた。


「だからそれが怖いんです!!」


悲鳴混じりの全速力。


「……頑張ってるな」


馬上のキドは、満足そうに頷いた。



調理室


「味は、あまり濃くしすぎない方が良いですよね」

「冷やしすぎると、喉に刺激になりますし」


 ラミアは料理長と相談しながら、蜂蜜と柑橘果汁を丁寧に混ぜ合わせていた。


「運動の後でも飲みやすい滋養水です」


 透き通った淡い黄金色の液体が、瓶の中でゆっくり揺れる。


「騎士の方々、喜んでくださるといいですね」


 そこへ、ルードが姿を見せた。


「何をしている?」


「騎士の方々のために、飲み物を作っておりました」


「そうか」


ルードは頷き、しばし考え込む。


「……飲み物の後は、腹も減るな」


「……?」


「軽食も用意しよう。俺も作る」


「……え?」


料理長と厨房付きの料理人たちの顔が、みるみる青ざめていく。



数十分後


巨大な器に、次々と謎の食材が放り込まれていく。


薬草、根菜、乾燥肉、香辛実、果実。


「刻むより、潰した方が効率的だな」


ルードは果実を素手で握り潰し、


「繊維質も必要だ」


と、乾燥草を豪快に引き裂く。


「ルード様、それは……」


「何だ?」


「その粉は……穀粉ではなく……」


「違うのか!? 似ているだろう!」


料理長たちは、もはや止めることを諦めた。


ラミアは、きらきらした目で見つめる。


「お兄様のお料理、豪快ですね」


「そうか? 騎士にはこれくらいで良い」


女官たちは、そっと目を逸らした。



公爵城・演舞場前


「……死ぬ……」

「脚が……」


団員たちは次々と倒れ込み、地面に仰向けになる。


ロエルもしばらく仰向けになり、空を眺めていた。


澄み渡る青空を、時折、鳥が横切っていく。


最後の団員たちが戻り、キドも馬から降りた。


「皆、よく頑張ったな」



「お飲み物をどうぞ。

皇女殿下が、皆様のためにお作りになりました」


歓声と安堵の声が、あちこちで上がる。


「生き返る……」

「天使か……」


団員たちは、われ先にと飲み物を取りに行く。


その少し後方。


ロエルは半身を起こし、

その光景を、しばらく無言で眺めていた。


場の熱がわずかに落ち着いた頃。


ようやく一歩、前へ出る。


無言で杯を受け取り、

元の位置へ戻る。


淡い色の液体を、一瞬だけ見つめ、

表情を変えぬまま、口に含んだ。



そこへ――


「待たせたな」


ルードが現れた。


「軽食を用意した。遠慮するな」


キドは盆を見た瞬間、反射的に視線を逸らした。


「皆! ルード様直々の厚意だ!

残さず食べろ!!」


(逃げたな)


団員全員、心の中で一致する。



「……何だ、これ……」

「藻?」

「俺の、光ってる……」


意を決して口へ。


ガリ、ジャリ、ぼそ。


「……辛っ、甘っ、生臭っ」

「情報量が多すぎる……」

「未知との遭遇……」


「美味いか?」


期待に満ちたルードの視線。


「は、はい……!」


「そうか! なら追加だ!」


布が取られ、

謎の塊が山のように並ぶ。


「……ひっ」


団員たちは涙目で、

皇女の飲み物で流し込む。


「殿下……ありがとうございます……」

「命の水です……」


「皆、泣くほど美味いのか」


ルードは深く感動した。


その喧騒の中で――


ロエルの姿は、いつの間にか人の波に紛れ、

静かに場から消えていた。



半日も経たずして、

騎士団の九割が戦闘不能。


その夜――


《ルード様の調理室立入禁止》

※ただし本人には伝えぬこと


という通達が、全使用人に回覧された。


「皆が喜んでくれて良かった」


ルードは、満面の笑みだった。



皇女私室


「殿下、騎士団の元へ行かれなくてよろしかったのですか?」


「ええ……私がいると、皆様、ゆっくり休めませんもの」


窓辺で、ラミアは静かに微笑む。


「少しでも、お役に立てたなら……

それで十分です」


女官は、そっと微笑み、静かに頷いた。


お読みいただきありがとうございます


次回がこの章ラストになります。

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