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天然皇女と公爵家の問題児たち  作者: angelcaido
3章 Garden’s Side
37/75

第37話 純情三騎士の宴

この回では、


公爵

騎士団長

勘当中の元侯爵家嫡男


による、小さなマウント合戦が行われます。


なお、誰も勝っていません。

公爵城からほど近い料理屋の個室。

外の喧騒から切り離された木造の空間には、柔らかな燭台の灯と、香ばしい肉と香草の匂いが満ちている。重厚な扉が閉じられた瞬間、城内とは別世界のような静けさが広がった。


卓の上には、すでに何本目か分からない酒瓶と、取り分けられた料理の皿。三人はそれぞれの椅子に深く腰掛け、ほどよく酔いも回り、肩の力が抜けた様子だった。


「しかし……」


キドはグラスを指先でくるりと回しながら、深くため息をつく。


「ルード様、ユアン嬢にタジタジですよね。はぁ……」


「タジタジって言うな」


ルードは低く返すが、その声にはどこか勢いがない。


「ルードは武だけで生きてきたから、令嬢との接し方が分からないんだろ」


ロエルは肩を揺らし、愉快そうに笑う。


「公爵として、少し情けないですね。女性に緊張するなんて」


キドも口元に笑みを浮かべ、やれやれという仕草で肩をすくめた。


「緊張なんてしてない! 第一、俺はラミアとは幼い頃から共に育ってきたんだ!」


ルードはむっとして胸を張る。


「それ、もう家族だろ」


ロエルが即座に切り返す。


「……」


ルードは一瞬言葉に詰まり、冷えた眼差しで二人を見据えた。


「お前達、さっきから偉そうに言ってるが、それほど経験豊富なのか?」


一瞬、空気が止まる。


ロエルはゆっくりと視線を逸らし、キドはなぜか天井の染みを見つめ始めた。


「……」

「……」


「おい」


「……」


「お前達?」


二人は無言のまま、まるで示し合わせたかのように沈黙を貫く。


ルードが鼻で笑った。


「キド。お前も俺と幼い頃から一緒だな。お前も俺と似たような生活をしてきたはずだが、いつ女と関わる時間があった? 女官長か? 母親のような年齢だろう?」


「……俺、姉、いますし」


キドが苦し紛れに答える。


「それはルードのラミアと同じだろ」


ロエルが吹き出す。


「ロエル。お前の場合、もし親しい令嬢がいたら、お前の親父さんがその家門を潰しにかかるんだよな?」


ロエルはグラスを持ったまま肩をすくめる。


「この十年近く、若い令嬢のいる家門が潰れた話は聞いたことがない。つまり――そういうことだ」


「……踏み込まなかっただけだ」


軽く肩をすくめ、グラスを傾ける。


「何だ。お前達も同じじゃないか!」


ルードは勝ち誇ったように笑う。


「ですが、ルード様と違って、俺は女官にも使用人にも毅然と接しています。毎日の申し送りも欠かしません!」


キドがややムキになって胸を張る。


「俺も社交の場では普通に話してるし……」


ロエルも付け足す。


「それは二人とも仕事だろ!」


ルードが即座に突っ込む。


「第一、女と手を繋いだことはあるか?」


その問いに、二人がほぼ同時に口を開く。


「それ、皇女殿下でしょう」

「ラミアだな」


「……」


ルードはぴたりと黙る。


「第一、俺もラミアと手を繋いだことあるし」


「ロエル様、皇女殿下ですよ」


キドが呆れたように言う。


ロエルは肩をすくめ、軽く笑った。


「はいはい。この場だけ許せ」


「おい、キド。話を逸らそうとしてるんじゃないだろうな?」


ルードの視線が鋭く突き刺さる。


「俺もありますよ!」


キドは思い切ったように言い切る。


「ほう。誰とだ?」


「……姉と、姪……」


「お前が一番何もないじゃないか!」


ルードが即座に突っ込む。


「ルード、お前のラミアもズルくね?」


ロエルが楽しそうに口を挟む。


「……」


ルードは黙り込んだ。


「俺もありますよ! 皇女殿下と」


キドが追撃する。


「……ほう。いつだ?」


ルードのこめかみに、ぴくりと血管が浮かぶ。


「……握手ですが」


「ハハ、握手じゃないか」


ロエルが腹を抱えて笑う。


「でも! がっちりとです。両手で!」


「何だ? 何か契約でも締結したのか?」


「……強いて言うなら、条約です」


「んー。つまり、やっぱり何もないのはルードじゃね?」


ロエルが楽しそうに笑う。


ルードの顔が一気に赤くなる。


「あはは。だからルード様はユアン嬢に押されても仕方ないですねー」


「しょうがないな。ルードは純情だから」


「……」


ルードは言い返せず、酒を一気に煽った。


「お前達! ここ、俺の奢りだが……今すぐ取り消してやろうか!」


「……そういう権力、使うんですか」


キドがじとっと睨む。


「あはは。いいよ、俺が出す」


ロエルはそう言って、グラスを高く掲げた。


「純情なルードに乾杯」


「純情なルード様に乾杯」


「おい!!」


ルードの怒鳴り声と、二人の笑い声が個室いっぱいに響き渡った。

夜が更けるまで、軽口と冗談、突っ込みと笑い声が途切れることはなかった。



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お読みいただきありがとうございます


活動報告にイメージイラスト載せてます。

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