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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
3章 Garden’s Side
34/73

第34話 聞こえてしまった言葉

ロエルの休日。

①よく寝る

②団長に叩き起こされる

③面倒な令嬢の相手をさせられる


今日は②から始まります。

日の光が世界を照らし、新しい朝が訪れる。

花はゆっくりと目覚め、鳥は歌い、樹々は風に揺れて囁き合う。

柔らかな日差しが、公爵城を包み込んだ――その、次の瞬間。


どたどたどた、と、静寂を引き裂くような足音が廊下を駆け抜けてきた。


勢いそのままに、客室の扉が遠慮なく開かれる。


「ロエル様!!」


まだ夢の中にいたロエルは、布団に顔を埋めたまま微動だにしない。


その声の主――キドは、ずかずかと部屋に入り込み、閉ざされたカーテンを勢いよく開け放った。


「起きてください!」


眩しい光に、ロエルが顔をしかめる。


「……俺、今日、休みじゃなかった?」


「そんな場合じゃありません!」


キドはそう言い捨てると、クローゼットを勝手に開け、ロエルの服を次々とベッドの上に放り投げた。


「これ、着てください」


「……なんで?」


「ユアン嬢が、知らせもなく来たんです!」


ロエルは片目だけ開け、胡乱げにキドを見る。


「ルード様は朝方から領地の視察に出ていて、戻るのは昼過ぎ。

それまでユアン嬢を対応できる人間がいないんです!」


「……キドがやれば?」


「騎士爵の俺では、荷が重すぎます」


「俺、平民。しかも休日」


そう言って、ロエルは再び布団に潜り込もうとする。


「お休み」


「そういう問題じゃありません!」


キドはロエルの肩を掴み、無理やり身体を起こした。


「このままだと、皇女殿下にご対応いただくしかなくなります!」


その言葉に、ロエルの動きが止まった。


「皇女殿下が応対すること自体は問題ありません。

ですが、ユアン嬢のほうが、何をしでかすか分からなくて……」


ロエルは数秒、天井を見つめてから、深く息を吐いた。


「……わかった」


「助かります!」


「……ついでに言うけど」


ロエルはベッドの端に腰掛け、乱れた髪を掻き上げながら小さくため息をついた。


「俺、まだ朝飯も食ってない」


「後で、いくらでも食べさせてあげますから」


「言い方」


キドはすでにロエルの上着を手に取り、急かすように差し出していた。


「ほら、急いでください。髪もひどいですよ」


ロエルは諦めたように天井を見上げ、黙って着替え始めた。



ユアン嬢が馬車から降り、優雅な足取りで正門へと歩いてくる。


「ルード様は?」


「ルード様は領地へ視察に出ておりまして、昼頃にはお戻りになる予定です」


キドは明らかに緊張した面持ちで答えた。


「あら、それで私へのご対応はロエル様、というわけですの?」


ユアン嬢はロエルを一瞥し、わずかに鼻で笑う。


「嫌でしたら、どうぞお引き取りください」


ロエルは穏やかな笑顔で告げたが、その瞳はまったく笑っていなかった。


「!!」


キドは隣で言葉を失い、ただ口を開けたまま立ち尽くす。


「……仕方ありませんわね」


「お気をつけて」


「ちょっと、帰るなんて言ってないわよ!」


「あー、何だ。帰らないのか」


「どうして私が帰らなくてはいけませんの?」


「俺の対応では不服そうでしたので。残念ですがこちらで。」


ロエルは淡々と、馬車の方へ手を差し伸べる。


「構いませんわ。ロエル様のご対応で我慢いたしますわ」


「我慢は美容に悪い。どうぞお引き取りを」


「だから!」


キドは青ざめ、胃のあたりを押さえた。


結局、ユアン嬢は屋敷へは入らず、正門近くの庭で待つことになった。


「ロエル様! 一体何なんですか、あの対応は……!」


キドが堪えきれず声を上げる。


「追い返したいんじゃなかったっけ? 公爵夫人になってほしいなら、態度は改めるけど」


「……」


キドは言葉を失った。


「ルード、もう近くまで戻ってきてないかな」


「……見てきます」


キドは馬に飛び乗り、正門を出ていった。


爽やかな初夏の日差しが庭に降り注ぎ、渡り廊下には涼やかな影が伸びている。


その光の中、ユアンがゆっくりと振り向き、ロエルに向き直った。


「ねぇ、ロエル様。本当に侯爵家をお出になったの?」


ロエルは答えず、無言でユアンを見据える。


「ザグル侯爵から勘当されたって、聞きましたわ」


一瞬、沈黙。


「……平民に落ちてまで、皇女殿下と結婚したくなかったのかしら?」


軽やかな笑い声が、庭に響く。


ロエルは視線を逸らし、煩わしそうに息を吐いた。


ユアンの瞳が、きらりと輝いた。


「――ルード様!」


正門の方に現れたルードの姿を見つけ、ユアンは弾むように駆け寄っていく。



しばらくして、ルードとキドが慌てて応対する様子が見える。


笑顔で腕を取るユアン。

それに応じながら、どこか困惑した様子のルード。

必死に取りなすキド。


ロエルはしばらくの間、三人の姿を眺めていた。


初夏の光の中で、その光景だけがやけに鮮やかだった。 



ロエルはゆっくりと息を吐き、踵を返した。


渡り廊下へと足を向けた、その時だった。


柱の影に、淡い色のドレスが一瞬揺れた。


「……?」


ロエルの視線が、そちらへ向く。


だが、そこに誰の姿もなかった。


ただ、陽光と影だけが、静かに床に落ちている。


「……気のせいか」


小さく呟き、歩き出す。




「殿下、遅れてすみません。……あれ? ユアン様にご挨拶なさるのでは?」


女官が不思議そうに尋ねる。


「お兄様がお戻りになったようですから、このまま戻ります」


ラミアは穏やかに微笑んだ。


「お邪魔してはいけませんし、ね」


「……?」


女官は小さな違和感を覚えながらも、それ以上は何も言わず、ラミアの私室へと戻った。


お読みいただきありがとうございます。


ユアンのイラストを活動報告に載せました。

よろしければ、そちらも見ていただけると嬉しいです。


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