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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
3章 Garden’s Side
33/74

第33話 勘違い令嬢と、野営明けの寄り道

この日、公爵城には二つの問題が同時に発生した。


一つ。

思い込みが激しすぎる令嬢がやって来たこと。


そしてもう一つ。

その頃ちょうど、ルードを弁護できる人間が城にいなかったこと。


――つまり、非常にタイミングが悪かった。


ちなみに、この後しばらくの間、

ルードの評判は少しだけ下がる。

公爵城 正門前。


陽光を反射して、煌びやかな装飾の馬車が音もなく止まった。

御者が扉を開くと、艶やかな髪と華やかなドレスをまとった令嬢が、ゆっくりと降り立つ。


ユアン嬢だった。


「……よくお越しくださった」


ルードが一拍置いて、社交辞令を述べる。


「お待たせしてしまいましたわね。

本当は、もう少し早く伺うべきだったのだけれど――私も忙しい身ですので」


「……え?」


「……は?」


ルードだけでなく、隣に控えていたキドまで、思わず声を漏らした。


「こちら、お借りしていた外套ですわ」


差し出されたそれを見て、二人は同時に胸を撫で下ろす。


「ああ……それで。わざわざ良かったのに」


「……!」


なるほど、それだけか、と安堵しかけた、その直後。


「さぁ、それではご案内くださいませ。

いずれ私が住む場所ですもの。早めに見ておきたいですわ」


「……は?

そなたとは、見合いを途中で切り上げたはずだが……」


ルードが素直に驚く。


キドも内心で首を傾げた。

(この令嬢の情緒は……どうなっているんだ?)


ユアン嬢は扇子で口元を隠し、伏し目がちに呟く。


「……あんな事があったんですもの」


「……何も無かったはずだが」


「責任を取っていただきませんと」


「ちょ、ちょっと待て! 一体何の話を――」


「……私、初めてでしたのよ。ですから、責任は取っていただきますわ」


「は?」


キドは、そっと距離を取りながらルードを見る。


「キド、そんな目で見るな! 俺は何も――」


「ルード様。野営訓練に戻らせていただきます」


軽蔑を帯びた目を一瞬だけ向け、キドは踵を返した。


「キド、待ってくれ!」


その背後で、ユアン嬢は頬に両手を当て、くねくねと身を揺らす。


「私の事を心配してくださって、あんなに紳士的に接してくださった男性は、ルード様だけでしたわ……。

早くこちらに来たいですわ」


独り言のように呟きながら、うっとりと微笑んでいた。



野営訓練地。


戻ってきたキドの機嫌は、見るからに悪かった。


食事中、ぼそりと呟く。


「……全く。ルード様を見損ないました」


「んー、それキドが勘違いしてるだけじゃね?」


ロエルは食事の手を止め、天幕の天井を見上げながら気のない声で言う。


「え?」


「皇宮離宮の庭園で、だろ。

あのルードが、そんなことすると思うか?」


「……!」


キドは、はっと息を呑んだ。


「あー、あとそのユアン嬢。話し方、やたら断定的だっただろ。

思い込み激しいタイプだと思うぞ」


「……何故それを、もっと早く言ってくれないんですか」


「いや、俺もほとんど話した事ないし」


「……あの令嬢が夫人になってしまったら、どうしよう……」


「はは。あとの祭りだな」


キドは、深く溜息をついた。



野営訓練最終日 朝。


「これにて野営訓練を終了する。

全員、解散。明日は休養日にする」


号令と同時に、団員たちは一斉に安堵の息を吐き、それぞれの帰路についた。


「キドは城に戻るのか?」


ロエルが、何気ない風を装って尋ねる。


「……いえ。城に戻って、ルード様に怒られたくもないですし。

ユアン嬢の件も、正直聞きたくないので……現実逃避します」


少し早口で言ってから、息を整える。


「近くに温泉があるので、入ってから、姉の家へ行こうかと」


「……ふーん」


ロエルの声が、わずかに沈む。


「……来ます?」


「え?」


「温泉、入りたいでしょう」


「……じゃあ、お言葉に甘えるかな」


ロエルは小さく笑った。



山際の、人知れず湯煙の立つ温泉。


白く濁った湯が、静かに湧き上がっている。


「あー……いいな、ここ」


「でしょう。団員にも教えてないんです。

ロエル様も内緒ですよ」


「ああ」


二人は、ゆっくりと湯に身を沈めた。


「……そういえば、お前、結局俺に敬語だな」


「ロエル様だって、俺に敬語使わないじゃないですか」


「はは、確かに」


「皇女殿下の前では、直してくださいよ」


「……わかってる」



山間の小さな村。


オレンジ色の屋根が並ぶ、絵本のような集落。


「キドだ!」


「母ちゃん! キドが男前連れてきた!」


「マジ!?」


子供たちが一斉に駆け寄ってくる。


「こら、挨拶しろ!」


「はは、賑やかだな」


ロエルは屈託なく笑った。


中から現れたのは、恰幅の良い女性。

キドの姉だった。


「まぁ、キド。そちら、お貴族さんかい? 男前だねぇ」


ロエルは自然な仕草でキドの姉の手を取り、その甲に口づけを――


「やだよ、私ゃそんな柄じゃないよ、ははは。」


ぱしっと肩を叩かれ、ロエルは笑顔のまま固まった。


「姉さん!」

キドが慌てて声を上げる。


「あらやだ。ごめんなさいねぇ」


悪びれもなく笑う姉に、


「……いえ、大丈夫です」


ロエルは一拍遅れて、ぎこちなく微笑んだ。


「入りな。何か食べるかい?」


そう言って先に中へ入っていく姉とは対照的に、ロエルの前には子供たちが集まり、目を丸くして覗き込んでいた。


「……」


ロエルは笑顔のまま、ぴたりと動きを止める。


「お前達、近すぎるぞ!」


キドが慌てて注意する。


「だって、俺もこの顔できたらモテるかなって」

「汚れてるのに、なんかきれい」

「男前ー!」


次々と飛んでくる無邪気な声に、ロエルはつい吹き出した。


「ははは……」


「野営訓練の帰りだって? ほら、いっぱい食べな」


「いただきます」


ロエルはそう言って、すっかり慣れた様子でナイフとフォークを取り、にこやかに食べ始めた。


「ルード様は元気かい?」


その問いに、キドの表情がわずかに曇った。


「まぁ……変な令嬢に付き纏われてるかもしれないが」


「ははは、何だいそりゃ。

あの小さかったルード様がねぇ。良い令嬢が嫁に来てくれるといいねぇ」


「男前ー」


今度は一番小さな女の子が、ちょこちょことロエルのそばに寄ってくる。


「……俺?」


ロエルは自分を指して、きょとんと尋ねた。


「そんな呼び方ないだろ! ロエル様だ!」


キドが思わず声を荒げる。


「じゃあ、ロエル。絵本読んで」


「おい!」


「あはは、いいよ」


ロエルは苦笑しながら、女の子を膝に招き寄せ、絵本を開いた。


穏やかな声で読み聞かせを始めるその姿を、キドの姉は少し離れた場所から、静かに見つめていた。


「……夜には戻るのかい?」


「ああ。ロエル様はともかく、俺は明日仕事だから」


「そうかい。ルード様によろしくね」


「ああ」


「……それと、あの子。ロエル様……だっけ?」


「ああ」


キドの姉は、一瞬だけ真剣な目になり、ぽつりと呟く。


「……危うい子だね」


「え?」


キドは思わず姉の方を振り向いた。


だが、姉はすぐにいつもの朗らかな笑みに戻る。


「また連れておいで」


「ああ」


キドも、どこか柔らかな笑みで頷いた。

お読みいただきありがとうございます

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