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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
3章 Garden’s Side
32/73

第32話 鏡の中の公爵


今回はルードのお見合い回になります。

皇宮離宮の奥、白い回廊を抜けた先にある庭園の東屋。

小鳥のさえずりと、噴水の水音だけが響く、静謐な空間。


——本来なら、優雅で穏やかな見合いの舞台であるはずだった。


ルードは既に到着していた。

背筋を伸ばして座りながら、心のどこかでこの時間が来なければいいと願っている。


(……いや。逃げる訳にはいかない)


自らを戒めるように、静かに息を整えた。


その時、回廊の先から足音が近づく。


「……!」


数人の使者と女官を従え、一人の女性が姿を現した。


「お待たせしてしまったかしら?」


澄んだ、しかしどこか人を試すような声音。


「いえ」


短く答え、ルードは立ち上がる。


女性は優雅にカーテシーを行い、静かに自己紹介した。


「初めてお目にかかりますわ。公爵様。グランヴェール侯爵家の娘、ユアンと申します」


計算されたように緩やかな波を描く、艶やかな黒髪。

鮮烈な赤のドレスは、彼女の白い肌と豊かな肢体を強調し、弧を描く赤い唇が際立っていた。


——妖艶。


その一言が、何より相応しい。


本来なら、茶を嗜みながら庭を眺め、和やかに言葉を交わすはずの席。

だが、空気は最初から張り詰めていた。


「公爵様は、三人の令嬢に断られてしまったそうですわね?」


柔らかな笑みの奥に、明確な棘。


「……それは、令嬢も同じでは?」


淡々と返すルード。


ユアンは小さく肩を揺らし、くすりと笑った。


「あら、嫌ですわ。

皇太子殿下も第二皇子殿下も、私を満たすには足りなかった——それだけですわ」


視線が、ゆっくりとルードをなぞる。


「公爵様は、私を満足させてくださるのかしら?」


その瞬間、ルードは静かに目を閉じた。


(なるほど……)


自嘲にも似た思考が胸をよぎる。


(俺も、これまで同じことをしてきた。

相手を知ろうともせず、自分の条件ばかりを突きつけて……)


一つ息を吐き、ルードは席を立った。


「本日は、ご足労いただき感謝する。だが、ここまでだ」


ユアンは一瞬、言葉を失う。


「……もう、お帰りに?」


「ああ。実に、有意義な時間だった」


ユアンは戸惑いを隠しつつ、すぐに笑みを作った。


「よろしいの?

私ほどの女性、そうはいませんわよ?」


「そなたをそう思う令息も、きっといるだろう」


静かな声音に、皮肉はない。


ユアンは、嘲るように口角を上げる。


「公爵様は、また振られるのでしょうね」


「そうかもしれない。だが——」


ルードは真っ直ぐに彼女を見る。


「そなたと、これ以上語ることはない」


「…………」


沈黙。


その時、強い風が庭を駆け抜けた。

空気が一変し、冷たい気配と共に雨粒が落ちてくる。


次の瞬間、雨は一気に本降りとなった。


ルードは迷わず外套を脱ぎ、ユアンの肩にかける。


「……?」


驚き、見上げるユアン。


「返さなくていい。今日は来てくれてありがとう。

風邪を引かぬように」


ユアンは外套を胸元でぎゅっと掴んだ。


雨に打たれながら、ルードは歩き出す。


数歩進んで、ふと立ち止まり、振り返った。


「そなたの幸せを願おう」


それだけを告げ、今度こそ背を向ける。


白い回廊の向こうへと消えていく背中を、ユアンはしばらく見つめ続けていた。


雨音だけが、庭に静かに響いていた。



公爵家 執務室


重厚な机と書類の山に囲まれた執務室は、いつも通り静かだった。

――少なくとも、キドが口を開くまでは。


「どうだったんですか?」


キドは身を乗り出し、机越しにルードへ詰め寄った。


「途中で切り上げて帰って来た。

だから、これで終わりだ。」


「良かったー……!」


キドは大げさなほど胸を撫で下ろし、椅子にへたり込む。


「やはり、よほどの令嬢だったんですか?」


「いや。別に、そこまでではない。」


「え?」


「俺と同じで、自分の要求しか口に出せなかった。それだけだ。」


「……それ、相当じゃないですか?」


キドはじっとルードを見つめる。


「ルード、お前……器でかいな。」


ロエルが珍しく感心したように腕を組む。


「本当に、お前くらいだろ。あの令嬢を受け止められるの。」


「やめろ。」


「いやー、世の中には“運命の出会い”ってあるもんだなぁ。

ハハハ。」


「え!?

やっぱり癖のある令嬢なんですね!?」


キドは勢いよく立ち上がる。


「やめてくださいよ!

ただでさえ天然の皇女殿下に、問題児のロエル様を抱えてるんですよ!?」


「これ以上、奇人変人を増やさないでください!!」


「……ラミアが奇人変人だと?」


ルードの眉間に、ぎり、と深い皺が刻まれる。


「俺、めっちゃ普通じゃね?」


ロエルが真顔で首を傾げる。


「どこがですか!!」


キドは即座にツッコんだ。


「とにかく、頼みましたからね!

もう絶対に関わらない方向でお願いします!」



しかし数日後。


執務室に差し込む朝の光の中、

一通の手紙を読んだルードが、ぴたりと動きを止めた。


「謁見?」


ルードは手紙を持ったまま、固まった。


「この城に来る、というのか。ユアン嬢が。」


「手紙には、そう書いてありますね……」


キドは心底嫌そうに答える。


「日時は……明日!?

……どうしよう。」


ルードはゆっくりとキドを見上げた。


「知りませんよ!?」


キドは即座に顔を背ける。


「……ロエルは?」


「先程、野営訓練に出発しました。戻りは三日後です。

俺も後で追いかける予定でしたが……」


「……キド。

明日は帰って来い。ユアン嬢が滞在している間、お前も同席しろ。」


「嫌ですよ!!」


キドは即答した。


「そんな癖の強い女性、皇女殿下より胃を痛めます!

俺の胃に保険かけてから言ってください!!」


「これは当主命令だ。」


「理不尽です!!」


キドは机に突っ伏す。


「……これ騎士の仕事でしたっけ……」


ロエルがいない執務室に、

キドの嘆きだけが虚しく響いていた。


お読みいただきありがとうございます

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