9話
「隣国の王女、ですか?」
夕食の席、リュシュリシュが彼らに話したのは、隣国の第三王女が我が国にやってくるという話だった。
隣国、【ファータ】はあるところでは《水の都》と呼ばれ、あるところでは《花の都》と呼ばれ、あるところでは《妖精の国》と呼ばれている。
美しい水源と、それによって美しく花々が咲き誇る、美しい国だ。
現国王には3人の妻がおり、子は2人の王子と6人の王女がいる。
今回訪問する第三王女は、国王の第三夫人唯一の子である。
「目的は?」
「輿入れだろうな」
「アルヴィス殿下の側室候補、ですか?」
「それか、我が国の公爵家に嫁がせる」
「となると……」
セレーネの視線がルキウスに向けられる。
公爵家で唯一婚約者がいない男性はルキウスのみ。もし、本当に第三王女が輿入れで訪れたとして、アルヴィスの側室として迎えることがなければ、結婚相手は自然とルキウスとなる。
「どのような方か、父上はご存知なのですか?」
「年齢は、セレーネの一つ下。おとなしい性格とは聞いているな」
「おとなしい……」
「ファータの第三王女は、王族で唯一表に出ない王女で、あまり情報がない。第三夫人も事故の影響で表に出ることもなくなっているしな」
「事故」
「よくある、夫人同士の蹴落としあいだ」
どの国も、側室や複数の妻を迎えることは多々ある。エストレアは、現国王が妻を深く愛していたこともあり、後妻や側室を迎えることはなかった。
複数人も妻がいれば、争いなどは自然と起きるもの。自分の子が1番。特に、王子を産めば、次期国王の母となるのだから。
ファータの3人の婦人のうち、第一夫人と第二夫人には王子がおり、第三夫人だけが王子がいなかった。第一も第二も、王女を数人産んだのちの王子で、どちらもまだ幼い。第三夫人も同じようにと思っていたが、第二夫人が王子を産んだのちに2人が結託をし、第三夫人を毒殺しようとした。
「正確には毒殺ではなく、子を埋めない体にしようとしたらしい」
「まぁ……」
「ひどい話だ」
だが、結果としてそれはうまくいった。第三夫人は第三王女を最後に、子を望めなくなった。
リュシュリシュの見立てでは、子を望めぬ第三夫人への慈悲とし、唯一の娘を隣国であるエストレアの第二夫人、または側室、または高位貴族の妻として迎えさせようと考えているのでは、と思っているそうだ。
「王女が訪れた際、パーティーが開かれるそうだ。陛下から、我々も参加するようにふみが来ていた」
「私も、ですか?」
「もちろんだ。ソルネチア家の一員だからな。それに、もしルキウスとの縁談の話があった際、私は前向きに考えようと思っている」
「父上!」
声を荒げたのはルキウスだった。もちろん自分のことなのだからそういう反応をするのはもっともだ。だが、この国の公爵家の後継として、王女という地位は申し分ない相手だ。とはいえ、あくまでも前向きに考えるだけ。正式に申し込むわけではない。
相手の性格がわからない以上、簡単に話を進めるわけにはいかない。
「だからセレーネは、王女様と親しくなってほしいんだ。どう考えても、陛下もアルヴィス殿下も、側室とか第二夫人して迎えるわけがないからな」
確かにと、使用人も含めて全員が強く頷いた。
ルキウスは納得しない表情をしていたものの、リュシュリシュの言葉に納得した。
「とはいえ、我が家は今、セレーネとユリウスの結婚の準備もある。参加するのは、ルキウスとセレーネ。そして私の3人だ」
「セレーネが行くのに、僕はいけないのですか」
「結婚式については、主にお前とアニエスが進めているだろ。安心しろ、セレーネを1人にはしない。会場には、殿下やクローディア嬢。他の公爵家の人間もいる。そう心配するな」
納得できないという表情をするものの、ユリウスもリュシュリシュの言葉に納得した。さきほどのルキウスと同じ表情をしていたため、流石のセレーネも小さな笑みを浮かべた。
「では早速、ドレスの準備をしなければいけないわね」
アニエスの言葉に、ホッとしていたセレーネの心の冷や汗が流れる。




