8話
お茶会が終わり、セレーネは書庫に戻って魔導書を読んでいた。
結婚式について、何かできないことはないかと相談しても、みな口を揃えてセレーネはいつも通りに過ごしていいと口にし、手伝わせようとしなかった。
護衛のルートンも今は稽古の時間で彼女のそばにいない。
1人、静かに魔導書に目を向けて、新しい魔法の研究を行う。
「セレーネ嬢?」
不意に声をかけられて顔を上げれば、そこには書物を抱えるルキウスの姿があった。
お互いに軽く挨拶をしたのち、彼から相席をしてもいいかと言われ、セレーネは「もちろん」と答え、向かい合わせで席に着く。
彼の手にしている書物は、次期当主のための書物だろうなと、セレーネは横目で彼の書物に目をやる。
「お勉強、大変ですか?」
「まぁ、そうですね。勉強は苦になりません。ただ……」
「ただ?」
「……先日、父上から婚約の話がありました」
すでに20を迎えたルキウスは、すでに結婚適齢期に入っている。本来であれば婚約者がいたり、すでに結婚していてもよいが、ソルネチア家は元々ユリウスのこともあり、そのあたりのことが疎かになっていた。
呪いが解けたことでユリウスを後継者に、とはならずに引き続きルキウスが後継者になることになった。そして今回、ユリウスとセレーネが結婚することで、リュシュリシュはルキウスの結婚についても考え始めていた。
「とはいえ、自分は公爵家の人間なので、簡単に相手を決めるわけにはいきませんし」
「なるほど……良い相手がいない、ということですね」
「はい。セレーネ嬢は、どなかた……あ……」
「ふふっ。すみません。私には、ご紹介できるような令嬢はいなくて。そもそも、親しい方がいないもので」
「すみません。他意はないのです」
「わかっています。お気になさらないでください」
申し訳なさそうな彼の姿を見て、なんとなくユリウスと重なる。彼も、もうわけなさそうな顔をするときは、同じような顔をする。兄弟だなと思いながら、セレーネはもう一度小さく笑みをこぼした。
それからは会話はなく、お互いに本を読む。
窓の音から聞こえる鳥の鳴き声と、お互いにページをめくる音だけが響いていた。
どちらも本に集中していたこともあり、近づいてくる足音には全く気づかなかった。
「2人とも」
突然声をかけられ、セレーネもルキウスもびくりと方が大きく跳ね上がった。
呆れらように見下ろしてくるユリウス。
窓の外から差し込む光は、いつの間にかオレンジ色に染まっており、部屋の中も僅かに暗くなっていた。
思っていたよりもお互いに集中してしまっていたようだ。
「すみません兄上」
「気にするな。実は、少し前にも一度来たが、2人があまりにも集中していて、邪魔するのも悪いと思って」
「では……」
「夕食の時間になったから呼びに来たんだ。本を戻して、3人で行こうか」
ユリウスに手伝ってもらいながら、ルキウスとセレーネが運んで来た書物を戸棚に戻し、3人はその場を後にした。
「そういえば、父上が話があるっていたな」
「話、ですか?」
「僕も詳しいことは知らないんだけどね」




