3話
宝石眼に関する法律ができたことで、国は国内にいる宝石眼保持者の把握を行なった。
元々ニルヴァルド=エトワールが宝石限保持者を探していたこともあり、彼の協力のもと、宝石眼保持者の管理を行っていた。
しかしここしばらく、そんな彼らが次々と行方不明になっていることが判明した。
「闇オークションなど、あらゆる後ろ暗いところでの販売がされてないか調べたが、彼らがどこかに売られた形跡はなかった。それで、我々は次に怪しいところを探そうと思っている。それには、セレーネ嬢の協力が必要だ」
「私の、ですか?」
「あぁ。セレーネ嬢……神殿を調べてくれないか」
神殿。そこに属する彼らは、神に対する信仰心が非常に高かった。その理由が、ほとんどの者が神の奇跡をその身で体験していると言われているからだった。
特に、この国の神殿は双子の女神を強く信仰している。そのため、アレキサンドライトの瞳を持つセレーネに酷い執着を持っていた。
そんな者たちがいるところにセレーネを向かわせることに、ソルネチア家の面々が許すはずがない。
しかし、神殿は確かにこの国のために1人ではあるが、一種の独立国家に近かった。国の命令に対しての拒否反応。法律などお構いなしという態度もあり、何より王族に対して特別扱いもなく、むしろ下に見るような態度。それは、自分たちが神を崇める神の使徒であり、神に近しい存在。ただの人間であり、ただの国という一つの集落の王に過ぎない彼らを、神殿側は動物と何一つ変わらない同レベルのものに思っている。
「こちらとしても、彼女に頼むのは申し訳ないと思ってる。現に、サイラスにも嫌というほど怒られたしな」
「当然です。可愛い妹を、あんな狂人どものところに送るなど、正気の沙汰ではありません」
「だが、現状1番怪しいのは神殿だ。調べたくても、あそこは信者や神官たちが認めたものしか出入りができない。しかし、彼らは君であれば入れてくれるだろう」
神殿がセレーネを迎え入れたいと思っていることは、上位貴族や王族の間では有名な話だった。
神殿側は何度も何度も王城に抗議をし、ソルネチア家にもセレーネを引き渡すように何度も屋敷にやってきた。
それこそ、リュシュリシュをある神官が足止めしている間に、別の神官がセレーネを連れ去ろうとしたこともあったが、警備兵やユリウスに捕まり、出入りができなくなった。
「今のところ俺たちの方で把握している、上位貴族の宝石眼保持者はセレーネ嬢だけなんだ。もちろん、何かあれば全力で俺たちは協力をする。だから……」
「わかりました」
二つ返事の彼女に、全員が目を見開いて驚いた。
いつもの変わらない無表情のセレーネ。優に紅茶を飲みながら、息をひとつこぼすだけ。ユリウスも不安げな表情を浮かべるか、そんな彼にセレーネは笑みを浮かべる。
「事情はわかりました。他人事ではないですし、お役に立てるならお力をお貸しします」
「すまない、セレーネ嬢。当然だが、身の危険を感じたら、自分の命を優先してくれ」
「わかりました」
「いいのかい、セレーネ」
「問題ありませんユリ様。それに、これから先も一緒にいるためには、神殿との関係をこのままにすることはできません」
「………」
ユリウスは不満げな表情を浮かべる。
しかし、彼女が決めたことをやめさせることはできず、彼は彼女の行動に同意をした。
◇◇ ◇
それからしばらくして、セレーネは神殿へと足を運んだ。
当然1人で来るわけにはいかず、アルヴィスとサイラス、そしてユリウスの三名が同行した。
神官たちはセレーネを歓迎した。しかし、他三名……正確には渋々ではあったがサイラスが足を踏み入れることは許可されたが、アルヴィスとユリウス。特にユリウスは酷い暴言を吐かれながら神殿への侵入を拒否された。
しかし、セレーネがの言葉で渋々許可を出し、無事に4人で中に入ることができた。
前を歩く神官の後ろを歩くセレーネたち。セレーネの姿に色めく神官。ユリウスの姿に嫌悪する神官。その態度は180°異なるものだった。
「ようこそ、セレーネ様」
案内されたのは神殿の中枢。女神を祀る大きな祈りの場だった。
そこにいた男、教皇は両手を広げてセレーネをひどく歓迎した。その態度は、まるで後ろにいる3人など目に入らない……いないもののように振る舞っていた。
「ついに貴女様がこの神殿に足を運んでくださるとは、これも女神様のお導きでしょう」
「……教皇様」
「はい、なんでしょうか。セレーネ様」
「最近、宝石眼を持つものを誘拐されていますか?」
その、あまりにも直球ストレートな問いかけに、後ろの3人は驚き、ひどく狼狽した。しかし、その投げかけを受けた教皇は首を僅かに傾げながらクスクスと笑みを浮かべる。
「誘拐など、随分無粋な言葉ですね。我々は偉大な瞳を持つ彼らを保護しているだけです」
それは自白だった。
セレーネの言葉に否定も弁明もせず、むしろ開き直ったような言葉特徴。そして、自分たちが悪いことをしたという自覚が全くなかった。
「まぁそんな話は宜しいではないですか。それよりもこちらを」
「……これは?」
白く美しいそれは、周りにいるシスターと少し似たデザインだった。しかし、明らかに装飾が凝っており、特別なものであることが一目でわかる。
「貴女様専用の服です。これからは、そちらを毎日見にまとってください」
「……どういうことでしょうか?」
「どうもこうも、貴女は今日から神殿で寝泊まりをし、神を崇める信者たちと共に、神に祈りを捧げ、我々を導く聖女様となるのです」
その言葉に、サイラスが声を上げる。しかし、そんな声に耳を傾けず、教皇は彼女のそばに寄り添い、彼女の背に手を添える。
しかし、当然それをユリウスが認めるはずもなく、すぐにその手を掴んだ。
「僕の婚約者に気安く触ら……」
「触るなっ!」




