2話
――― 愛しい私たちの子
それはとても優しい声だった。
ぼんやりとその場に立ち尽くすセレーネの頬を正面から撫でる青緑の髪の女性と、後ろから優しく抱擁をする赤毛の女性。
2人は愛し気に、セレーネのこと愛、愛した。
――― 愛しい子。幸せになりなさい
――― 愛しい子。貴女は何者に縛られることはない。
2人と、青緑と赤の二色は空に登っていく。
見上げるセレーネに優しく手を振りながら。
――― 愛しい子。私たちは貴女を愛している。
◇◇◇
「………」
暖かな日差しと愛らしい鳥の鳴き声に、セレーネはゆっくりと目を覚ました。
まだほんのり夢心地の彼女はもう一度眠ろうとしたが、自分を抱きしめる存在に気づいて顔を上げる。
「ユリ様……」
少しだけ体を上にあげ、彼と同じ目線に合わせる。そして、優しく頬を撫でて愛おし気に彼の名前を呼んだ。
セレーネは思った。不思議な夢を見たのは、彼が自分を抱きしめていたからだと。顔はよく覚えていないが、2人の女性がセレーネを愛する夢。なんとなく女性で良かったと思った。もし相手が男だった場合、目の前の彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……ユリ様、起きてください」
「んっ、んー……」
「本日は殿下がいらっしゃる予定でしたよね。起きて準備をしなければ」
「……待たせておけばいい」
「いけませんよ」
幼い子供が駄々をこねるように、ユリウスは強くセレーネ抱きしめた。それとても可愛く、くすくすと笑いながら彼を咎める。当然そんな態度に恐怖なんてものは感じず、むしろ愛おしさが募り、ユリウスは再び強くセレーネを抱きしめた。
「ユリ様」
「……はぁ……仕方がないな」
ユリウスはセレーネを抱きしめたまま体を起こし、そのまま彼女に口づけをする。
ふわりと浮かべる笑みに応えるように、彼女も再び笑みを浮かべる。
「あ……殿下がいらっしゃったみたいです」
遠く、わずかに馬車の音が聞こえる。
2人一緒に部屋の窓から外を眺めれば、王族の馬車が門をくぐる様子が目に入った。
ユリウスは再びセレーネの頬に口付けをし、彼女の手を引いて部屋の中に戻っていく。
◇◇ ◇
「久しぶりだな、セレーネ嬢」
「ご無沙汰しております、殿下。お兄様も、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
数日前、ソルネチア家宛に王室の印が押された手紙が送られていた。
手紙には詳しい内容は書かれておらず、いつに屋敷に尋ねるというものだった。
「それで殿下、どういったご用で我が家に」
「あぁ。すでに他の公爵家にも伝えている内容なのだが」
アルヴィスが話した内容は、最近起きている誘拐事件だった。
しかし、誘拐事件が起きていることはセレーネは初耳だった。普段魔法の研究をやっているせいで世間のことにあまり関心がないとはいえ、流石にそういう事件についてはユリウスの口から聞くこともある。だが、誘拐事件が起きていることは、ユリウスはもちろん、リュシュリシュも初耳だった。
「知らないのも当然だ。知っているのはごく一部で、世間的にこの事件が知られているわけではない」
「ということは、手当たり次第の誘拐ではなく、特定の人物を狙った誘拐と」
「あぁ。狙われているのは……」
アルヴィスの視線がセレーネに注がれる。なぜ自分の方を向くのかと疑問を抱くが、次に彼が口にした言葉で、なるほどと納得した。
「誘拐されているのは、宝石眼を持っているものだ」




