23.後遺症の現実
「目が覚めたようだね」
「・・・ババ様?」
フィーネは部屋に入って来た人物に目を丸くし、驚いた。
何故此処にババ様が。
「全くどれだけあの坊主が心配したと思っているんだい」
「すみません」
「まぁ、もう二度と坊主を心配させないことだね」
「はい。ご心配おかけしました。それで何故ここにババ様が?」
フィーネは軽く感謝をし、尋ねた。
ババ様はいつもの恰好なので公爵家にいると違和感がすごいが突っ込む者は誰もいない。
「何故ってそりゃぁ、お前さんの治療をしとるのはわしだからさ」
「・・・ババ様が?」
占い師でしかないババ様がどうやって?
「お前さんには秘密にしとったんだが、多少錬金術に明るくてね。お前さんが今回苦しんでいるその麻薬が偶々わしが知る薬物だったんで協力させてもらったのさ。公爵家には少々伝手もあってね」
「・・・そうだったのですか・・・。本当にお世話になりっぱなしで何とお礼を言えばいいか・・・」
「やめとくれ。ただ、わしの周りで死人が出ちゃ寝覚めが悪いからね。それだけだよ。ちなみに坊主の薬はわしが渡しておいたから周りにはバレちゃいないよ」
「!!!」
フィーネはアリステラの言葉に驚き、そして感謝した。
実の所、あの毛染めと目薬はババ様から購入していたからだ。私たち母子の秘密を知る老婆はずっとフィーネたちを手助けしてくれていた。
「ありがとうございます・・・。代金は必ずお支払いしますので・・・」
「なに、お前さんの治療費に含ませてるから大丈夫さ。公爵家は富豪だろ。ぼったくってもばれやしない。ヒッヒッヒ」
悪い顔で笑うアリステラにフィーネは苦笑した。
本当に何から何まで世話になっている。感謝してもし切れない人だ。
「まぁ、あの薬自体は腕の悪い錬金術師にだって簡単に作れるくらいさ。気にしなくていいさ。それよりも、お前さんの治療の方が厄介だよ。今身体の状態はどうだい」
「・・・はい。正直首から下の動きが鈍い事があって食事の際スプーンを落としてしまったり、歩こうと立ち上がると力が抜けてすぐよろけてしまいます・・・」
今も侍女の介助があってようやくベッドに上半身を起こしている。
自分の身体が自分の身体じゃないように感じる時もあるのだ。
移動するのは不可能で車椅子で移動するしかなかった。この公爵家で、久方ぶりにお風呂へ入れてもらったが、そこでもお世話になりっぱなしで自分一人で出来る事が少なかったのだ。
「それがその麻薬の後遺症さ。幸い生命維持に悪影響を及ぼすような害がなくてよかったわい。まだ吸って一日だけだったのが幸いしたようだね。もし重篤な場合は心臓の動きすら悪くなるからねぇ」
「!!そうなのですか・・・そのような麻薬が出回っているなんて恐ろしいです」
自分はまだ運のいい方なのだと認識したフィーネは身震いした。
あの男にされた事は未だにフィーネのトラウマになっており悪夢を見て飛び起きるほどだ。
思い出したくもない。
「これからも治療は続けていくが、保証はない。その麻薬の解毒薬はまだ開発されていないんだ。時間がかかるよ」
アリステラの言葉にフィーネは黙った。
何となく時間がかかるだろうなというのはわかっていた。
治るまでいてもいいと言われたが、それはいつになるのだろう。
このまま一生不自由になる可能性もあるのだろうか。
フィーネは自分を自分の腕で抱きしめた。それすら力が抜けてすぐにダランと弛緩してしまう。その事実にフィーネはまた絶望した。
「下手な慰めはしないよ。なるようにしかならない」
「・・・・はい」
きつい言葉だがフィーネにはアリステラの言葉が酷いとは思わなかった。
むしろ真摯な言葉だと思った。
「さぁ、今日はこの薬を飲んでもらうよ」
手渡されたのはあまり美味しそうには見えない液体。
ごくりと唾を飲み込み、フィーネはじっとその液体を眺めた。
「・・・・えと」
「一気に飲みな。まずいからね。ヒッヒッヒ」
ダラっと冷や汗をかきながら、フィーネは覚悟を決めてグッと口をつけた。
「!!?」
「ヒッヒッヒ」
星が目の前で飛んでいる気がした。




