22.皇帝と公爵
(アルバート視点)
ーーーー皇宮。
煌びやかな白亜の城はこの国の最高権力者、皇帝の居城であった。
玉座の間では訪れる人々と謁見したりする事もあるが、もっぱら皇帝の滞在時間が長い部屋は執務室であった。
次々色々な部署の人間が来ては決裁する書類を片づけたりと毎日忙しい。
そんな執務室では現在二人の男がいた。
「貴様、よくも俺との約束をすっぽかしたな」
額に怒りマークがついた皇帝が向かい合っている男に向かって吠える。
向かい合っているのはこの帝国の公爵、アルバートだ。
皇帝は30代半ばの金髪碧眼の美丈夫だった。
名をライオネル・ローゼント。
身長もアルバートより僅かに低いくらいで、体格もあまり変わらないため二人揃うと威圧感があった。
「どうせ、狩りですし」
「どうせとはなんだどうせとは!!俺の唯一の息抜きなんだぞ!!」
この皇帝。元々はものすごく武闘派であった。
皇太子時代から皇軍の指揮を執ってきた男は身体を動かすのが何より好きだった。
しかし皇帝になってからというもの、一日の大半が執務で追われ運動も碌に出来ない日々が続いた。
それが続くとやはり皇帝も人間だ。日々のイライラが募り周りの人間も気が付くほど不機嫌になる。
そこで、アルバートは皇帝の周囲の人間に懇願され、皇帝のストレス解消のために度々狩りや遊興に連れ出される事になったのだ。
それが偶々、フィーネが目覚めた昨日だった。
朝出かけたすぐ後に、フィーネが目覚めたと伝令を受け取り大急ぎで屋敷にトンボ返りしたのだ。
当然皇帝は待ちぼうけを食らわされた。
皇帝は荒れに荒れた。
そして、すっぽかした当人は翌朝しれっと登城したアルバートに皇帝はキレた。
「まぁいいではないですか。一人でだってどうせ行ったのでしょう?」
「当たり前だ。しかし、競う相手がいないから不完全燃焼で終わった」
「それはそれは」
アルバートはふふふと笑うがライオネルはそれにもカチンときたようだ。
「大体お前!せめて連絡くらいよこせ!」
「忘れていた事は申し訳ありません、陛下。しかし私もそれどころではなかったのですよ」
「忘れていたってお前・・・まぁ、今度付き合うならいい」
「もちろんご一緒させて頂きますよ」
「ふん・・・・。で、どうなんだ、最近は?」
この軽いやり取りも普段からこの二人の間では普通だった。
この帝国では恐れられている二人だったが、実に気安い間柄だ。
ライオネルが訊ねて来たのは、フィーネの事だろう。
フィーネの事はライオネルにも伝えてある。
フィーネを密かにずっと探していた事も。
「昨日、やっとフィーネが目覚めました」
「ああ・・・それでか」
「はい。完治するまではまだかかりますが、一先ずは」
「なるほど。お前は、どうするつもりだ?」
「どう、とは?」
皇帝の質問の意味を分かっていないというわけではなく、何となく聞かれたくなかったという返事をアルバートはした。
「誤魔化すなよ。その者を妻にするつもりか?」
「いえ。私がそれを望んでいないといえば嘘になりますが・・・あくまで今のところは支援はします。一生」
真っ直ぐ見返してくるアルバートに皇帝も目を細めた。
「よく考えろよ。どちらにしても諸刃の剣だ。彼女は内戦中にお取り潰しになった元貴族で粛清を免れたとはいえ、貴族派に名を連ねた家門という事実は変わらん。お前の失脚を狙っているやつらからすると格好のネタさ」
「・・・分かっております。しかし、当時彼女に救われなければ私は死んでいたのも事実。やっと見つけたんですよ。今更手放すなど出来はしません」
「まぁ、そう言うと思っていたさ。しかし、あれだけ結婚を拒んでいたお前が妻にと望む女が現れたなんて噂になってみろ。地獄だぞ」
はははっと空笑いするライオネルに不思議そうな顔をするアルバート。
「何故です?」
「お前な・・・自分の容姿を一度ちゃんと見てみろ・・・容姿、爵位、資産、この帝国で一番の優良物件だろ。未だに結婚していないのはお前だけだぞ」
「まあ・・・そうなりますかね」
「社交界の貴婦人たちの阿鼻叫喚が目に見えるようだぞ・・・」
恐ろしい・・・とばかりに身震いするライオネルに苦笑する。
「しかも、相手は子持ちだというじゃないか。いや、実際どうなんだ?お前との子供の可能性は?」
その言葉を聞いて、アルバートは首を横に振った。
「いいえ。あの子の容姿は公爵家の色を引き継いでいませんので。それはないでしょう」
「・・・そうか。ある意味分かりやすいよな。公爵家の血筋は皆漏れずに黒髪に赤い瞳なんだから」
「そうですね。父親は誰なのかはわかりませんが、ずっと母子だけで生活していたようなので夫はいないようです」
「ふむ・・・なるほどな。しかし、お前のその執着は一体どこから来ているんだろうな。内戦前に婚約者がいたがそんなに興味も無さそうだっただろう」
確かにアルバートにはかつて婚約者がいた。
同じ派閥で利害関係の一致で結ばれた政略的なものであった。
アルバートはさして婚約者本人には興味も愛情も無かったのだが、相手の令嬢の執着は凄まじかった。少しでもアルバートが夜会などで他の令嬢と会話しようものなら徹底的に他の令嬢を追い詰め排除していたようだ。
アルバートはどちらにも興味が無かったため放置であったが。
その恋愛面では興味の薄いこの男が、一人の女に執着している・・・。
皇帝にとってそれは意外であり、ものすごく興味のそそる話だった。




