21.アルバートとフィーネ
公爵家が皆安堵するのが広まったのは直ぐだった。
フィーネの自我が戻る前に出かけてしまった公爵に伝令が飛ばされる。
歓喜に沸くアルバートは仕事の予定を変更してすぐに戻ってきた。
「フィーネ!!!」
息を切らせて部屋に飛び込むように入ってきたアルバートにフィーネは目を丸くする。
フィーネが上体を起こしているベッドの側まで寄り、膝をついてフィーネの手を握る。祈るようにアルバートは目を閉じた。
「公爵様」
「良かった!良かった・・・!」
「・・・ご心配をおかけしました」
フィーネは少し複雑な気持ちになりながらも、アルバートに微笑んだ。
「具合の悪いところは?気分はどうだ」
「おかげさまで気分はとても良いです。本当にご迷惑をおかけいたしました」
「いや、いいんだ。私がしたくてした事だ」
お互い少し緊張しながら声を掛け合う両親にアランはにこにこ見ていた。
フィーネの肩を触ったりしながら体調を確認するアルバートにフィーネは苦笑する。
「何かしてほしい事はないか?何でも言ってみろ」
「いえ、本当に大丈夫ですから。アランから少し聞きました。私を救って下さったそうですね。私などの為にありがとうございます」
「私など、などと言うな。そもそも直ぐに救い出せなかった。後悔してもし切れないんだ・・・」
権力がいくら高かろうと、いざという時に役に立てなければ何の意味もないのだ。
もう少し早く探し出して、公爵家に迎え入れていればこのような事も起こらなかった。
スラムの方まで徹底的に探していれば、と思うが後の祭りだ。
スラム街は皇室でも未だ手が入れれない土地だった。
ただの言い訳にしかならないのは百も承知で、ただただ悔しかった。
「アランには話したんだが、君は身体が完全に良くなるまではこちらにいて欲しい。君は嫌がるかもしれないが、その身体では日常生活もままならないはずなのだ。私に世話をさせてくれ」
アルバートの提案にフィーネは驚いた。
今ですら多額の治療費をかけて診てもらっているという。フィーネは直ぐにでも自宅に帰ろうと思っていた。
「それはさすがに・・・」
渋るフィーネにアルバートは懇願した。
「私が君にいてほしいのだ。恩返しや、感謝などそのようなものを望んでいるのではない。今の状態の君とアランを、あのスラム街へ置いておくなど考えられないんだ。そして、真面目な話だが、君の身体の傷は少しずつ癒えていくが、麻薬が未だ身体から抜けきっていないらしい。少なくとも半年は麻薬の影響で身体が自由に動かないそうだ。今治療をやめてしまうとどんな害があるかわからないのだ。だから治療をここで受けて欲しい」
「麻薬・・・」
フィーネはあの男から受けた暴力と一緒に嗅がされたお香のようなものを思い出し、身震いした。
それを見たアルバートはフィーネの手を握りながら宥めた。
「アランのためにも、そうして欲しい」
「母上。僕もちゃんと治して欲しいよ。ここで良くなるまで診てもらおう?」
「アランまで・・・・そうね、わかったわ」
フィーネは片手でアランの頭を撫でた。
「では、公爵様にはご迷惑をおかけしますが少しの間よろしくお願い致します」
「ああ。こちらこそだ。焦らずゆっくり治していこう。好きなだけいてくれ」
ほっと安心したようにアルバートが笑った。
その笑顔をみてフィーネは一瞬ドキンと胸が鳴った気がしたけれど、気がつかない振りをした。




