9-8話 学園に着きました
「そろそろ校舎が見えてきますよ。ヨキさん。……あ、ほら! あれがレストアが誇る『学園』です!」
「……おぉ。あれかぁ」
リルムに言われ、俺もはっきりとその建物を視認する。
ファンタジー的な世界観によくある様なお城のような建物を想像していたが、木造3階建ての普通の校舎がその視線の先に見えた。
広さこそ相応にあるとは言え、余りに普通な建物でなんとなく肩透かし感を感じる。
自然と足が止まり、その建物を見続ける形になった。そんな気持ちが出ていたのか、隣でリルムが苦笑する。
「普通の建物ですよね。がっかりしました?」
「もう少しなんか魔術っぽい建物を想像していたな。それとも中が魔術で空間拡張とかされていたりするのか?」
「そういうのはやっていないですね。下手に魔術で拡張して、その魔術に干渉されたらとんでもない事故になりますから」
「あー、確かに。閉じ込められたりしたら最悪だ」
「それどころか空間毎消滅なんて事故起きかねませんよ」
「……よく考えて普通の建物にしたって事か」
中に入るとすごく広い部屋とかよくある設定だが、実際リスクも大きいという事か。
そう言われれば全く持ってその通りだと思う。
「個人でそういうことをやってる人はいますけどね。あくまでメリットとリスクを天秤に掛けてますね。
本当に大切な物は絶対に保管しませんよ」
「そうだよな」
俺が改めて苦笑すると、リルムも釣られるように苦笑する。
「学園で恒常的に魔術が掛かっている場所は『運動場』くらいでしょうか」
「あ、そう言う場所もあるのか……。どんな魔術なんだ?」
俺の質問にリルムは指を立ててちょっと視線は空へ。
その状態で思い出すようにしゃべりだす。
「魔術の使用をサポートする結界です。怪我の軽減、体力の回復、本来使用できないような魔術を使用可能にする等……
ひよっこ魔術師が比較的高位の魔術を体験する。また死なないようにする。そんな魔術で守られてます。当然限界がありますけど」
「なるほど。まさに魔術を練習する場所なんだな」
「ええ、そうなんです。学園を設立した賢者が造ったものなんですが、いまだに稼働できているってすごいですよね」
「数百年も稼働し続けているのか。単純に凄いな……」
その賢者という人が、とんでもない人だという事は理解できた。
俺の素直な関心にリルムも頷く。
「凄いですよね。レストアの街での伝説の英雄になるべくしてなった人だってわかりますよね」
「伝説の英雄か。ま、そうだろうな……」
「こんな魔術を使えるのは賢者様くらい……かもしれません」
自信満々に言いかけてリルムの言葉が弱くなる。
もしかしたら俺と同じ事を思ったかもしれない。俺はなんとなく魔女さんの事を思い出していた。
俺が魔術を覚える際に似たような事をやってくれたような気がする。彼女ならあるいは同じことができるかもしれない。
そして魔女さんとはリルムの方が付き合いが長い。きっとリルムも同じことを思っているはずだ。
……ま、そこはあえて言う事もないか。
「さ、リルム行こうか。せっかくなんだから楽しもうな」
俺はそう言うとリルムの手を握り歩き出す。
リルムも慌てる様にいっしょに歩きだす。
正門前まで来ると本当に人が多い。
気を抜くとリルムと逸れてしまいそうだなと思う。
勢いで手を握ったまま来たが、正解だったかもしれないな。
ここの学生らしき人たちが屋台を出したりしていて、なんとなく高校の文化祭を思い出す。
ここら辺のノリもリアルとあんまり変わりがなさそうだ。
「リルム。なんか食べ物買うか? 買い食いしながら回りたいが」
「そうですね……あ、あれなんてどうです?」
そう言って指をさすのはクリームたっぷりのクレープらしきものを売っている屋台だった。
「わかった。じゃあ買ってくるよ」
「何言っているんですか。いっしょに並びましょうよ」
「あー。そうだよな」
いつものように買い食いしながら校舎の中に入る。
学生の制服なのか、割と簡素なローブに身を包んだ人たちが目に付く。
中にはリルムを見て大きく会釈をしている人もいて、リルムも答えるように小さく手を振った。
一瞬知り合いなのかとも思ったが、そう言う訳でもないらしい。
「あー、そうか、卒業生だからか」
「まあ、そういうものですね。と言っても私も卒業して2年しか経ってないのでまだ慣れません」
そう言いながらもリルムは校舎内を軽く説明してくれる。
「ここが音楽室になりますね。年に2回位、学生たちの音楽会を行ったりするんですよ」
「そうなのか……。結構普通の授業もするんだな」
「魔術だけじゃ一般常識は身に付きませんから。その辺は普通の学校と同じですよ」
「なるほどな。教わる内容に魔術が増えるという事か」
……これだと大変だな。学園コースだと習得に時間がかかり過ぎる。
俺の表情を呼んだのか、リルムは微笑み、言葉を続ける。
「まあ、冒険者さん達みたいに魔術のみを教わればいい場合もありますから。その場合は特別コースがありますね。
卒業までは早いですけど、卒業の際に認定される内容も魔術のみの内容になりますね」
「そりゃそうだな。そういうコースがないと冒険者は学校に通って覚えるのは厳しいよな」
「冒険しながら通えるように配慮してますよ。……後、ヨキさんは魔術って自分が得意な属性しか使えないと思ってませんか?」
「え……違うのか?」
てっきり特定属性のみを使えるかと思っていたのだが、リルムの言い方だとどうやら違うようだ。
「私がイルミさんに教えたようなことは、あくまでその人が感覚的にわかる魔術になってしまうんですよね。
だから、どうしても得意属性のみになってしまいます。
でも、学園では魔術を理論から教える事になりますから、得意属性以外の魔術も使うことができるようになりますよ」
「はぁー。なるほど。理論を知っていればこそって奴か。専業魔術師をやりたいなら学園に通った方がいいって事か」
意外と冒険者にとっても学園のような学ぶ場所は重要だった。
……近道は近道なりになるという事か。
「そうなりますね。ただ、どうしても時間はかかりますから、冒険者として何をやりたいかって事になりますね」
「まあ、俺なんかは専業じゃないからいいとして、バーゼスさんみたいなタイプは本当は受けた方がいいって事か」
バーゼスさんは専業の魔術師として動いている。今は良いとして将来的には学園に入る必要がありそうだった。
しかし、リルムはその名前を聞くと、難しい顔になる。
「本当ならそうなりますね……。でも彼女の場合は入るのは難しいかもしれません」
「そうなのか?」
難しいという理由が良くわからない。今は闇の属性のみだが強力な魔術も使える。
学園に入るなら十分過ぎると思うのだが、リルムはそう思っていないらしい。
「ヨキさん達が『魔女さん」と呼んでいるクレア様、この学園の卒業生なんですよ。彼女が名前が同じで容姿も瓜二つ。慣れないとクレア様と見分けつかないですよね」
「確かになぁ。魔女さんもとんでもない魔術師だよな? 魔術を教わった時に思ったけど」
「クレア様はこの学園の卒業生の中でも最高峰の魔術師と言われていますね。彼女もまた逸話には事かきません」
若干自慢気に話すのは、彼女にとっても自慢なのだろう。
その様子を微笑ましく思いながら、ふと別の女子学生と目が合った。
いや、あちらは先ほどからこちらを見ていたのか、こちらに近づくといきなり言ってくる。
「あなたが教わったのはクレア・バーゼス様ですの?」
「……ま、ここの卒業生のクレア・バーゼスの事なら多分そうだ。……そうだよな、リルム」
「そうですね。多分、その通りだと思います」
リルムの言葉に若干のとげがあるのは気のせいか。
……もしかして、この学生のことを知っているのかもしれない。
そんな事を思っていると、その女子生徒はこちらをじっと見ている。
「そんなに魔術ができる人だとは思えないけど……。あのクレア・バーゼス様が人に魔術を教えるなんて」
「いや、そんなに驚くことか? 結構気軽に教えてくれたぞ」
「いえ、毎年せめて特別講師をお願いしているのに頑なに断っているクレア・バーゼス様が人に魔術を教えるなんて信じられませんわ」
「多分、他で忙しいだけじゃないかな……?」
魔女さんの話を聞く限り、はしょっちゅう世界の危機とかを防いでいるタイプの人なんだろう。
忙しすぎて後進の育成まで手が回らないタイプだと思える。
しかし、目の前の女子学生はそうは思っていないようで、唐突にこちらを指をさすと言い放ってくる。
「クレア・バーゼス様の弟子がどの程度の実力か知りたいですわね。よって勝負を挑みますわ! 今すぐ運動場にいらしてくださいませ!」
「……はぁ?」
なんかよくわからないうちに決闘を申し込まれたようだった。
俺はリルムに視線を送ると彼女は肩を竦める。
「まあ、彼女は一度言い出すと聞きませんから」
「やっぱり知り合いか」
「……そうとも言いますね。少し相手してあげてください。それで彼女も満足するはずですから」
「わかった。まあ、運動場も見に行きたかったしちょうどいいか」
俺はリルムに頷くと歩き出そうとして止まる。
「リルム。場所がわからん。案内よろしくな」
「せめて遠回りしていきましょうか。色々面白い場所がありますから」
リルムはそう言って笑い、歩きだすのだった。




