9-7話 ギルド職員と祭りに出かけました
なんか、本日リルムと一緒に賢者祭に遊びにいく事になった。
てっきり怒って約束なしになると思ったんだが……そこまで怒っていないという事か。
……うーん。これって一応デートイベントでいいんだよな。
ゲーム内とはいえデート、かぁ。何をすればいいのかさっぱりわからない。
ここに来て彼女を作ったことがない事が響いている気がする。
まあ、あくまでゲームだ。リアルに影響ないし好きにやればいいんだろうけど、失敗するとゲーム内では悪い影響が出そうで怖いな。
待ち合わせ場所は中央広場の時計台前。
時間の5分前くらいに到着すればいいかな。
そんな軽い気持ちで行くと、すでにリルムが待っているのを発見する。
昨日彼女が持っていた翠のローブを着ており、珍しくシルバーのネックレスで着飾っていた。
俺が慌てて駆け寄ると、彼女は笑顔でこちらに手を振った。
「悪い。待たせたな」
「いえ、私もさっき来た所ですから」
そういう彼女はいつも来ている服とは違うからか、どちらかというと大人っぽく見える。
髪型こそいつもの三つ編みなのにずいぶんと印象が変わる。
俺はというと装備こそすべて格納済みだが、後はいつもと同じ。
全くの普段着用の服装だった。これは失敗したか。
まあ、お互い黙っていると気まずいかもしれないから、とりあえず何でもいいから話すことにする。
「そのローブ。昨日のか?」
「ええ、学園の卒業生は賢者祭の期間中、ローブを着る事を推奨されているの。卒業生とわかるようにね」
「へー。そうなんだ」
「いつもと違って、だれでも学園に入ることができますから。ある程度の区別をつけたいらしいわよ」
「それに意味があるのか?」
「さあ? 後輩に偉ぶることはできるかもしれませんね」
そう言ってリルムは俺の横に行くと、すっと腕を絡めてくる。
「さ、いきましょ? 学園、案内しますよ」
「お、おう。それじゃ、行くか」
そんなやり取りの後、俺たちは歩き出す。
学園へと続く大通りは様々な人でにぎわい、また出店も所狭しと並んでいる。
これは現実世界でのお祭りと雰囲気は同じだった。
違うとすれば、これはあくまでゲーム。NPCの店もあればプイレイヤーの店もある。
生産系のプレイスタイルの人が参加していたりと、いろんな立場を楽しめる事だろうか。
「俺、賢者祭は初めてだが、こんなに盛り上がるんだな」
「そうですね。レストアの街で最大のイベントですから。これ目当てで遠くからも人が来ますよ」
「なるほどなぁ」
リルムに声を掛けると、彼女は何が楽しいのか満面の笑みのまま答えてくれる。
「ヨキさんもしっかり楽しんで下さいね」
「それは当然。ま、ちょっとは緊張しているがな」
「すぐに慣れますよ」
緊張の主な原因は隣のリルムなのだが、まあそれを言っても仕方がないため黙っている。
そんなやり取りをしながら歩いていると、出店の店主らしき男性がこちらに目を止めてきた。恐らく俺と同年代。
俺の方でも表示を確認。その店主はプレイヤーだった。彼は色々な商品を並べて、声かけを行っていたようだ。
その声かけが俺をターゲットにしたようだった。
「お、そっちにいるカップルさんたち。少し見ていかないか?」
「ヨキさん。どうします?」
「ん? じゃあ見ていくか。こういうのも祭りの醍醐味だろう?」
うんと頷き、二人してその出店の商品を見る。
風呂敷の上に広げられた商品は、ブローチや腕輪等かなりの数の装飾品が並んでいた。
シンプルながら品の良い雰囲気のアイテムが多いと感じる。
商品を眺めながら、店主に向けて質問する。
「へぇ。これ、店主がつくったのか? 中々いいデザインじゃないか」
「お、わかるかい? 嬉しいねぇ。俺は錬金術師の卵なんだよ。こうやって生産したものを売ってるってわけさ」
「錬金術師ですか。では何か特殊な加工をしているんですか?」
「卵と言った通り、ここに置いてあるのは大抵は付加に失敗したただの飾りさ。成功したのはこの指輪位かな」
そう言って指を刺したのは箱に入ったシルバーの指輪。……いや、この金属ミスリル製か?
「この指輪には魔術行使補助の効果を付加できている。彼女さん見たいな魔術師にはちょうどいいかもしれないな」
「補助、ですか。そういうものは基本杖になりますよね」
「神木の方が手に入り易いし加工も楽。効果も上ってことが大抵だからな。指輪のメリットは身に着け易さ位じゃないか?」
「それでも作ったんですか」
「ま、これはこれで便利だぞ。需要だって冒険者間では割と高いしな。どうだい彼氏殿、彼女にプレゼントなんていかがかな?」
……なるほどなぁ。しかし、初デートで指輪のプレゼントは重すぎないか?
相手はNPCだし、渡すメリットはそれこそ友好度の上昇でしかない。
なんか普通に引かれそうだよな。これは……
しかしそれを除いても、指輪型の発動体は近接系の俺用の装備とするなら悪くない装備ではある。
別になくても魔術は行使できている、しかし戦闘ではほんの少しの差が結果に影響する状況を考えると、むしろあった方がいい。
「なあ。リルムは、こういう発動体は持っているのか?」
「一応杖なら持ってますね。でも別になくても魔術は使えますし、ギルド職員として働いていると、こういう物が必要になる機会自体がないですね」
「なるほどなぁ」
結構真剣に答えるあたり、リルムの真面目さが現れているようで心の中だけで微笑ましくなる。
彼女は別にプレゼントを欲しいとは言わないし、実際そんなことは考えていないようにも見える。
俺は彼女に伝わらないように、店主へとチャットを飛ばす。
あくまでゲーム的な内容だから、直接こういう所では話さない方がいいだろう。
ヨキ:なあ店主。そっちは自分で材料取ってるのか?
ダリゾウ:いや、そこまでのレベルないし、基本買ってる。ここで売れんと冒険優先になるかなぁ。
ヨキ:こっちは冒険優先だからなぁ。こっちで持ってる素材、割安で提供してもいいぞ
ダリゾウ:なるほどそれはありがたいな。対価は作成物で、有用そうなものはそっちに割安で売るってことでいいな。
ヨキ:そういうことだ。よろしく頼むよ
ダリゾウ:持ちつ持たれつってことだな。フレンド登録よろしく。なんかできたら連絡する
ヨキ:了解。ありがとうな
そこまでチャット会話を終わらせて、改めて口を開く。
「じゃあ、俺も発動体は欲しいし、指輪を2つ貰えるか?」
「一つ2500の5000と言いたいが、今後の付き合いを考えて3000にしておく。買えるか?」
「それ位なら問題ない。売買成立だな」
「まいどあり。ほい、箱はサービスだ。一番初歩のだが、一応保護の加工がされている」
「ありがとう」
俺は指輪を受け取りそのうち一つを右手の指に嵌め、一方の指輪をリルムへ渡す。
思わずと言った拍子でリルムは指輪入りの箱を受け取り、それから目を丸くしてこちらを見た。
俺は若干視線をはずしながら、言葉だけははっきりと言う。
「ま、俺も便利な発動体は欲しかったしな。店主の口車に乗せられることにした。貰ってくれるか?」
流石にいきなり指輪は重すぎるか、とは思うがこんなタイミングで俺の分だけ買うのも何か違うしな。
この辺が妥協点だろうと思っていると、リルムはその指輪を俺と同じ位置に嵌める。
しばらく眺めた後、こちらに視線を向き直し笑う。
「ふふ、ありがとうございます。……これは相当なお礼が必要になりますね」
「あー、まあ普段からお世話になってるからな。その必要はないと思うが」
実際、俺たちのパーティーは相当な恩恵を受けているのでこの指輪では到底足りない気もしているが、
彼女は首を横に振ると彼女は指輪を嵌めた手を日に翳す。
その指輪は日の光を反射しきらめいた。
「そんな事ないですよ。……うん、決めましたから」
そう言って、彼女はこちらに向き直る。
「それじゃ、学園に行きましょうか。さっきも言いましたけどしっかり案内しますよ」
そう言って彼女は歩き始める。
なんとなく、彼女の足取りは今までよりも軽い気がした。




