9-6話 街がお祭り前の雰囲気になってました
街が普段よりもざわついている。いや、浮ついているという方が正解か。
レストアの街に着くと、人々がすでに盛り上がっているようで、いたるところから様々な喧騒が聞こえる。
お祭りが始まる直前特有の高揚感が町全体を覆っている、ような気がする。
「……もう賢者祭は始まっているんだっけか」
「んー。多分、明日からじゃないかな」
「一週間とか割と期間が長いはずだよな」
「その辺はプレイヤー配慮なのかなぁ」
俺たちは歩きながら賢者祭について言い合っている。
ただの一学園の小さなお祭りではなさそうなのは、この街の様子が物語っている。
街全体で盛り上げるようになった特別なお祭りのようだった。
全員でとりあえず大通りにでる。そこも祭りの準備をしている人たちがいたるところに見られた。
「お、イルミちゃんじゃないか。丁度いい。出来立て串焼き買ってくかい?」
「やっほー。おっちゃん。じゃあ10本頂戴!」
「あいよ。ついで揚げポテトはおまけだ。みんなで喰いな!」
「おっちゃんやっさしー。ありがとう!」
イルミが焼き肉屋のおじさんに声を掛けられている。どうやら出店の準備していた所だったらしい。
イルミがすっかり常連になっているそのお店の声かけにあっさり応じ、買い食いをしている。
こういうのもお祭り醍醐味の一つだよなぁ。なんて思いつつ、今後の事を声に出す。
「さて、このまま全員でギルド行くか? とりあえず俺は行くつもりだけど」
リーフの護衛は一応ギルドを通して受けたことになっているから先に報告は必要だった。
とはいえ全員で行く必要もないから別に俺だけ行っても構わない。
「そうだなぁ。俺はちょっと寄りたい所があるから。バーゼスさんは?」
「やはり確認は必要ですわよね。私もついて行きますわ」
マリオとバーゼスさんは別の所に行くようだ。
二人で行動している所を見ると、すっかりぎこちなさがなくなって安心するな。
しかし、ミミから見ると何か違和感があるのか、小首をかしげている。
少しだけ真剣な顔でマリオに聞いている。
「マリオさん達何かあるの?」
「ただの野暮用だ。連絡が必要になったら言うから。まあ多分そんな事にはならないしな。ミミたちはどうするんだ?」
「うーん。……あ、クローディアさん。シルビアもインしてるみたいだから挨拶行きたいけど一緒に来る?
あっち配信してるだろうし突発コラボでフェスの話とかできるかも」
「あ、うん。そうするわ。……じゃあ、行ってくるね」
「了解でーす」
ミミとクローディアさんはシルビアさん達の方に行くらしい。
と、言う訳でギルドに行くのは俺と、イルミの二人になるようだった。
「……ん? どうしたの。ギルド行くんでしょ?」
「ああ、すぐ行く」
笑いながら言うイルミに少しだけ違和感を感じながらも、俺はイルミに促されて歩き始める。
向かうは冒険者ギルドだった。……リルムとの約束か。あっちは覚えているだろうか。
扉を開けるといつもの喧騒……と、言う訳でもなかった。
思ったよりプレイヤーが少ない。というかほとんどいない。
不思議に思いながらも俺は一通り見回すと、中に入る。
カウンターの中にいたのは、ピンク髪の長髪をポニーテールに結んだ少女だった。
彼女はこちらに気が付くと笑顔を向けてくる。
「あら、久しぶりですの。ヨキさん」
「……そんなに久しぶりだったけな」
「ギルド内では大体リルムが相手してましたから。気づいていませんでしたの?」
「そういやそうだった気もするな。まあ、ディアナも忙しかっただろ?」
「そうですの。今は冒険者さん達は皆賢者祭に参加するみたいで、依頼を受けにする人少ないですのよ」
「あー、だからそんなに人がいなかったのか」
なんとなく納得すると、まずは依頼の報告をする。
ディアナもすっかり慣れた手つきでメモを取り、完了のサインを行った。
その様子に素直に関心した。
「すっかりギルド職員になったなぁ」
「リルムは結構容赦ないですから。必死で覚えましたのよ。ここを追いだされたら後がありませんの」
「そんなに気負わずでもいいだろうに。もう、レストアの街にも慣れただろう?」
「それはそうですけどね。……まあ、いいですの。それで、これからどうするのですか?」
「いや、リルムとちょっとした約束しててな……。今いるか?」
リルムの事を聞くとディアナはああ、と納得の頷きをする。
「リルムも最近妙にソワソワしてたから何かあるかと思いましたが、そういう事ですの。
……そうですわね。明日の賢者祭用に、少し買い出しに行くの付き合っていただけたら教えますわよ」
「あ、それは私が行こうか? 今から」
ここまで黙って聞いていたイルミがそんな提案をする。
一方のディアナは黙り込むとイルミを見る。
しばらくして笑顔になったかと思うとイルミの手を握る。
「では行きましょうか。ちなみにリルムは奥にいますよ。行ってあげれば喜ぶんじゃないのでしょうか?」
「ん、ああ。わかった」
なんかディアナの笑顔が気になるな……
しかし、二人してすぐに出ていった以上、これ以上追及できず。仕方なく教えられた通り奥に行く。
奥に確かに誰かいる気配を感じる。
そうなると相手はリルム一人のわけで。
「おーい。ディアナからこっちにリルムがいるって聞いたんだが、いるか?」
声を掛けながら無造作に扉を開ける。
そこには、白色の下着姿のままで動きが固まっている三つ編み少女がいた。
手には翠のローブを持っている。恐らくそれに着替えようとしていたのだろう。
彼女は俺の姿を認め、完全に固まっている。
……なんというか、古典的だなぁ。この状況。
これがディアナの罠という事か。今頃笑っているかもしれないな。
とりあえず俺は無言で扉を閉め、何事もなかったようにギルドの酒場まで戻ることにした。
しばらくして奥から軽い足音が速足でやってくるのが聞こえる。
ああ、さてどう言い訳をしようか。いや、リルムの返事を待たずに開けた俺が悪いか。
そんな事を考えながらリムルが来るのを待つことにした。




