9-5話 ゲーム世界に戻ってきました
一瞬、ふわっとしたいつもの感覚と共にルームに入る。
すっかり見慣れたルームの中央、すぐにミリンがやってくる。
『カリタ殿、お疲れなのじゃ』
「いや、ゲームはこれからだから」
『クローディアの配信出演の事じゃ。わかっててボケるのはよくないのじゃ』
「いや、つい、なぁ。ま、ともかくありがとう。ミリンから見てもうまく行ってたか?」
『そうじゃのう。100点をつけたい所じゃが、カリタ達ならもっとできるのじゃ。と言う訳で90点じゃ』
「手厳しいな」
『そうでもないのじゃ。正当な評価なのじゃ』
自慢気に言うミリンに俺は苦笑で返し、気になっていたことを聞く。
「なあミリン。昨日はゲームに入ってなかったけど、こういう時はどう処理されるんだ?」
『他のゲームと同じじゃな。特に何もしていない状態になるのじゃ。
当然NPCから干渉はできないし、関係性が変化することもないのじゃ』
「まあ、そうだよなぁ」
『時間は1週間分きっちり立っておるから状況の変化はあるのじゃ。その辺はログインした後確認した方がいいと思うのじゃ』
「それもそうか」
『一応ログインしない期間があったプレイヤーのための要約版の資料を閲覧できる機能はあるから、それを見て欲しいのじゃ』
「了解」
そうこう話しているうちに、皆自分のルームに入ったようだ。
ログイン状況を知らせる表示が、全員インしている事を知らせてくる。
こういう便利機能、精力的に改善してるよな。遊びやすくなって助かる。
俺は頷くと、いつものようにゲーム世界へのゲートへと向かう。
「皆来たみたいだし、そろそろいくよ」
『わかったのじゃ。後、そろそろロビー機能を実装する予定じゃから、そこで皆で集まって一斉にログインもできるようになるのじゃ』
「お、ようやくか」
『ロビーを作ったはいいがゴーストタウンはつらいからのう。ようやく目途が立ったという事じゃ』
感慨深く話すミリン。確かにようやくここまで人口増えたよなぁ。
サービス開始3日間プレイヤー0人だったゲームとは思えんよな。
「良かったよな。……それじゃいってくるよ」
『いってらっしゃいなのじゃ』
ミリンに見送くられ、俺はゲームの中に入る。
「あ~、これからどうするんだっけ?」
「クローディアさん。大分気が抜けてますわね」
「やっぱりライブ配信の後だとね。緊張感半端なかったから……」
全員ログイン後、宿屋にいたことを確認する。
始めに目にしたのは、クロさんが半分ボーっとした感じで首を捻っている姿。
バーゼスさんが茶化しているが、まあそうなるのも仕方ないと言えるか。
トラブルもありながらなんとか成功したライブ配信の直後だからなぁ。そりゃ気も抜ける。
「えーと。まずはアジュに連絡……一週間空いてるし必要ないかな?」
「報酬だけ貰いに行くか。アジュのことだからもう状況は把握してるだろうし」
イルミの疑問にマリオが答える。そうだよな……意外と1日分プレイしないだけでも状況が変わりそうだった。
「そういえば、竜の方はどうなってる?」
「そっちはネットで確認したよ。全部倒したって書いてあった」
「はっや。もうレイドイベント終わりか」
「そうなると、ここでやり残していることはもうないかぁ」
俺の疑問にミミが答える。ミミは元気だな。普段と全然変わらない。
確か彼女も別のフェスに出演していたはずだけど。
後で見ようとは思っているのだけど、まだ見れてない。ライブ配信が終わって帰宅したのは夜10時頃。
集合時間までに見るには時間が足りなかった。チケットは買ってあるし、ゲームが終わったら見るか。
とりあえず思い出したからには軽く話題には出すか。
「ミミもお疲れ様。そっちもフェス出演楽しかったか?」
「ええ、とっても。あ、アーカイブチケットが残ってるからぜひ見てよね」
「当然。もう買ってあるから後は見るだけよ」
「私はもうクローディアの配信アーカイブ見たからね。皆格好良かったよ」
「早いですわね。褒めていただけてありがとうございますわ」
俺の問いかけにミミが楽しそうに答える。
さりげない営業に、イルミが笑いながら答える。
そんな感じてついリアルの話題で盛り上がる。
しばらく完全に雑談した後、ようやくゲームの話に戻る。
「そろそろレストアに転送で戻るかな?」
「あー、賢者祭だっけ。魔術の学園には行ったことないから楽しみね」
「そうだなー。リーフさんにはレストアで会えばいいしな」
結局はスムーズに方針決定。
一度レストアの街に戻ることになる。
「じゃあ、戻るか」
そう言って宿屋を出て、そのまま転送用の路地に向かう。
あと少しで転送用の場所に行ける。その直前で、見覚えのある3人組が俺たちの前に現れる。
そういえばいたよなぁ、いままで忘れてたけど。
俺たちを襲撃して失敗。俺たちに捕まった盗賊ギルドの3人だった。
しばらくの無言の対峙。やがて口を開いたのは相手のリーダー格と思われる人物、カインだった。
「まったく……俺たちの事完全に忘れてたな」
「その通りだな。で、なんの用だ」
俺の回答にカインははっきりとため息を吐く。
残りの二人は何も反応がない。ただ俯いているのみ。
「わかってはいたが、そうはっきり言われると傷つくな」
「俺の意図なんてわかっていただろうが、カインほどの頭があればな。もう俺たちの前に来る必要なんて全くないぞ」
俺の回答に今度こそはっきり深く深くため息を吐くカイン。
一方残りの二人は何もしゃべらずただ俯いているのみ。
しばらくの静寂の後、今度は俺から声を掛ける。
「それで、恨み言を言いにきたわけじゃないだろ? 要件を言え」
「……まったく。頭が良いんだか悪いんだか。まあいい」
そこまで言ったカインは後ろの二人を指で指す。
「この二人をお前の配下にして欲しい」
「……ふむ。ギルドの足抜けができたのが二人だけだったか?」
「そうだな、俺が任務を遂行することを条件に二人を抜けさせることができた」
「なるほどな」
やはりカインはこの3人の中でも優秀らしい。
一度任務失敗していてもそうそうはギルドから追放はされないらしい。
しかし、任務失敗している奴に対し一人での任務か。……いやな感じがするな。
そして、後ろの二人は何も反応しない。これはカインの行為に対して無言の抗議をしているように見える。
二人とも、本当に配下になりたいならこんな態度は取らないだろう。
少なくともこちらを見るはずだ。
俺は考えを纏めながらもチャットを操作する。
ヨキ:仲間にしていいか?
イルミ:いーんじゃない? ヨキ、なにか考えがあるんでしょ?
マリオ:問題ないな
バーゼス:大丈夫ですわよ
ミミ:OKです!
クローディア:いいわよ。好きにやって構わないわよ
全員賛成。流石だなあ、俺が考えている事は皆わかってるか。
と言う訳で、俺は改めて口を開く。
「……わかった。その申し受け受けよう」
「いいのか? 本当は配下にする気なんてなかったのだろう?」
一見して即答のように見える俺の態度に面食らったのかカインは疑問を呈す。
それに対し、俺は口の端を吊り上げて見せる。
「ああ、問題ない。それに初の命令は決まっているからな」
そう言って俺は、黙って顔を上げない二人を見る。
……この二人はいまだ微動だにしない。全く、ここまで無言で訴えられると何が言いたいか嫌でも分かるか。
「エリス、エドガー。指令を言うぞ。カインに同行し作戦を遂行せよ。その後必ずレストアの俺たちの拠点に3人で来ること」
「……おい」
カインの誰何の声。しかし俺は無視する。
「カインは俺の配下じゃないからな。奴の言う事は気にするな」
さらに何か言おうとしたカインを制したのはエリスとエドガーだった。
しっかりと顔を上げ、それぞれ肩に手を置いている。
「ふふっ……新しい主人の指令なら、聞くべきですよね」
「はっはっは、そうだなエリス。一人で勝手に決めたこのバカを引きずってでもレストアへ連れて行かねばならないな」
「おう、そういう事だ。頑張れよ」
「はい!承知いたしました!」
「おう。任せな旦那!」
そう言って二人はカインを連れていく。
カインも抵抗しないという事は、ま、そういう事なんだろう。
俺は彼らが見えなくなると、仲間の方に振り向く。
イルミが笑いながら言ってくる。
「恰好つけた言い方しちゃって」
「こういうロールプレイもたまにはやりたくなるんだよ。ゲームだからいいじゃないか」
「まあこの場では正解かもしれませんね。後は彼らの実力次第でしょう」
バーゼスさんの締めの言葉と共に、転送ポイントに入る。
「それでは戻りましょうか。レストアの街へ」
そうして俺たちはゲーム時間1か月振りにレストアの街に戻るのだった。




