9-4話 本番頑張りました
二人とも10代前半の見た目。一人は赤い髪の赤い目、もう一人は青い髪の赤い目。
それ以外の特徴はそっくりな二人だった。小柄な体格。外見だけならミリンと同年代、中学生程度に見える。
ただし、知らないプレイヤーは俺のルームに入れないため除外されることになる。
つまり、彼女たちはミリンと同じナビゲーターAIだった。
その彼女たちがここに来たという事は、俺たちの練習に関係するだろう事は想像が付く。
二人の様子を見ていると、赤い髪の少女が俺たちを認識したらしくこちらに寄ってくる。
『初めまして。僕が今回作詞作曲したナビAI。ルビアなのだ』
『そしてわたくしが、振付担当のナビAI。エルディアですわ』
かなり特徴的な語尾を使う二人。
ナビAIはいちいち言葉使いを特徴的にしないといけない決まりでもあるのか。
……まあ、そのほうがプレイヤーが覚えやすいという事だろう。ある意味しかたない事か。
なんとなく別方向で納得している俺。
一方クローディアさんはその二人に近づくと二人度同時に抱きしめた。
「二人とも、ありがとう! 協力してくれて!」
『え、と、あの!』
『……ふん。まあ、感謝されるのは悪くないわね』
ナビAIの二人ともクローディアの行動に慌てたようにしているが、同時にまんざらでもないのだろう。
抵抗とかは特にしていない。
しばらくその様子を眺めていたのだが、マツルがため息を一つ吐くと声を掛けた。
「クロさん。そろそろ練習しよう。ルビア。エルディア。よろしく頼むよ」
『ええ。そうですわね。わかりましたわ。振り付けは徹底的に練習していただくわよ』
『クローディア様は、僕と一緒に歌の方の練習なのだ』
そうして特訓が始まった……と言っても何か特別な事をするわけではない。
現実世界と同じように練習する。
俺たちはエルディアが演じた動きを見よう見まねで動く。
『あ、カリタ君。そこはもう少し右手を伸ばすのですわ』
『ミキちゃん少し早いですわね。テンポはカリタ君が正確だから、彼に動きを合わせるのですわよ』
エルディアは割と演じながらもこちらの動きを見ているようで、結構容赦ない指摘が飛ぶ。
その指摘は恐らく正しいのだろう。特に文句も言わず修正しながら練習を続ける。
「うーん。こうか?」
「こうやって……こうかなぁ?」
俺たちもひたすら練習。体感6時間位はぶっ続けで練習しただろうか。
ようやく形になってきた、ような気がする。
『うん。今の時間でこれくらいできれば、何とか形にはなりそうだと思いますわね』
『一旦休憩なのだ。どうせなら合宿気分で行きたいのだ。夕食の準備をするのだ』
エルディアやエビアの言葉と共に一旦休憩に入る。
歌の練習をしていたクローディアさんがこちらにやってくる。
「皆、うまく行きそう?」
「どうかな? まあ、何とかなりそうな気がしてきたよ」
「うん、そうだね。振り付け自体はそんなに難しくないし。うん、間に合いそうよ」
「良かったー」
俺たちはお互い言い合いながら、少し気になることがある方に視線を向ける。
いつもならもう少しは話に入ってくるはずのマツルがそこまで喋らない。
俺はマルツの肩を軽く叩き、少し離れる。マツルも気が付いようで一緒に付いてきた。
俺の寝室まで行くと、マツルに聞くことにした。
「マツル。どうした? いつもより口数が少ないが」
俺の質問にマツルは少し黙った後、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「……まあな。少し考えないといけないことがあってな」
「そうなのか? 相談ならのるぞ」
俺の言葉にマツルは苦笑いを浮かべる。
「……そのうち相談するかもだが、今は頭の整理が先だなぁ」
「ふーん。そうなのか?」
「まあその事は大丈夫だ。バーゼスさんには先に相談しているからな」
「ああ、それで一緒に車で来たのか」
「そうなんだよ」
俺たちよりも先にバーゼスさんに相談か……。
何か理由がありそうだが、なんだろうな。
俺の表情を読んだのだろう。マルツは苦笑いの表情のまま言葉を続けた。
「まあ、正直まだ俺も混乱しているからな。説明が難しいし時間が欲しい」
「そうか、わかった。必要なら言ってくれよ」
「ああ、ありがとうな」
マツルがそういうのだ。マツルが言ってくるまで待つとするか。
俺たちは皆がいるホールに戻る。すぐに練習が再開した。
結局体感時間1週間分。みっちり練習することになった。
リアル経過時間は1時間。本来なら食事も睡眠も必要ないはず。
しかし体感は1週間。なんとなくずっと起きてるのもなあとなる。
そうなるとある意味合宿という事で、リアルっぽく食事や睡眠までとることになった。
その中には当然の如くナビAI達も入り込んでいて、
『ほう……バーゼス殿が作る肉じゃがはおいしいのですわ』
「あら、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいわねー」
『いや、本当なのじゃ! お代わりなのじゃ』
なんか一緒に食べている。ここがVR空間なのを完全に忘れるような光景が広がっていた。
そんな事をしながらも練習は続く。振り付け担当のエルディアが、
『ここまでできる皆なら、こっちの振り付けでも行けるはずですわ!』
『ここ、難易度高くなるけど、こっちの動きで揃えた方が格好いいですわね』
そんな感じでちょくちょく変えたため、結局は練習量が増える事になった。
急な変更は止めて欲しいとは思うが、配信がよりよくなら、と飲み込むことにする。
そして、本日の制限時間を迎えることになる。結局ゲームには入らないまま終わることになった。
『あー。もう時間なのだ』
「うん。これなら配信でもできそう! 皆、ありがとうね」
『お役に立てて光栄ですわ。よい配信にして欲しいのですわ。クローディアちゃんたちなら絶対大丈夫ですわ』
「うん。絶対に良い配信にするからね。皆も見てね」
『絶対みるのだ! 楽しみなのだ!』
そう言って、ゲームを終わる。
そして、次の日。配信の日が来た。
ミキと一緒に事務所に入ると、目の前にはガチガチに近況したクローディアさんがいた。
ずっと、配信の流れとかを確認し続けている。
俺は声を掛けるか迷っていると、先に彼女に声を掛ける女性がいた。
「アリス! どう? 大丈夫そう」
見たことのない女性。多分クローディアさんと同じ年代と思われる。
黒髪長髪。愛嬌のある顔立ちの女性だった。
しかし、声には聞き覚えがある。……この声は多分シルビアさんだ。
「エリカ。来てくれてありがとう。うん、多分大丈夫」
「まあまあ、リラックスリラックス! なんかあってもフォローするから。いつものようにやっちゃおうね!」
「ええ、うん。そうだめ。エリカがいると心強いよ」
……これなら大丈夫そうだなと思い、俺はミキ達の方に行く。
ミキもあれで緊張するタイプだしな。何とかするか。
そして、配信が始まった。
俺は無頼裏で、配信の様子を画面越しに見ている。
始めから、まずは1曲ソロで歌う。画面にはクローディアさん一人だけ。
有名な合成音声の曲だった気がする。
ただし画面上ではステルス状態だが、クローディアさんの後ろにはシルビアさんが待機していた。
多分、アクシデントが発生したらすぐフォローに入れるようにしているんだろうな。
無事一曲が終わり、軽く雑談が入る。
このタイミングでシルビアさんも画面に現れる。サブの進行役として合いの手を入れる。
しばらくして別の曲を歌い始める。今後は俺たちが知らない同業者とペアで歌っていた。
……そろそろ俺たちの出番が来る。
「これから歌う曲は、以前から遊んでるゲーム。そのCM曲を歌うよ~!
なんと、本邦初公開! メーカーさんから許可を頂きました!」
笑顔で話す、クローディアさん。
「そして、そのゲーム仲間も今日は来てくれたよ! ヨキ、イルミ、クレア、マリオ!」
クローディアさんの呼びかけと共に俺たちもスタジオに入る。
前面に出るのはあくまでミキとバーゼスさん。俺とマリオは一歩後ろに下がる。
ダンスのポジションをここにして、会話は女性陣に任せる。
少しの掛け合いの後、曲が流れ始める。
俺たちは何とか踊り切り、クローディアさんも間違えることなく無事に終わることができた。
そのまま、俺たちは楽屋裏に戻り、やっと一息をついた。
「……はぁ。緊張したー」
気の抜けた声でいうミキに俺も同意の頷きをする。
何とか出番はこなしたのだ。最低限の役割を果たせた満足感に浸る。
「うん、良かった良かった。最後はシルビアとペアの歌唱だし、無事終われそうね」
バーゼスさんの言葉と共に、画面内ではクローディアさんとシルビアさんが歌い始める所が映っていた。
「……いやぁ。貴重な体験だったなぁ」
「そうだねぇ。クロさんに感謝だね」
俺の言葉にミキが頷く。
こうしてクローディアさんの配信は無事に終わり……その後の打ち上げまで参加することになったのだった。
うん、今日は楽しかったな……。
ミルシア・シード始めてから、始めてづくしでびっくりだ。
……あー、昨日はゲームはしなかったし、今日はしっかりゲームにインするかな。
更新遅れて申し訳ありませんでした。何とか週一更新目指して頑張ります。




