9-3話 練習始めました
とりあえず全員で地下にあるホールへ移動。
今日は空いていることを確認してから練習を始める事にする。
「しかし明日か……練習する時間どれくらいとれるか……。というか間に合うか?」
「んー。歌だけなら何とかなる、と思う。当日は歌詞は見ながらになるけど」
クローディアさんがミリンから送られた曲を聴きながら軽く歌う。
声量こそそこまでないが、透明感のある綺麗な歌声。
歌っている時のクローディアさんはまるで別人に感じてくる。
しばらく黙って聞いていると、彼女がこちらに振り返って聞いてくる。
「んー。どうかな? 歌えてそう?」
「大丈夫……だと思う。素人だからそれしか言えないけど」
「その反応なら大丈夫そうね。……うん。癖のない素直な曲だから割と歌いやすいかな」
リズムをもう一度刻みながらもう一度。
そんな感じでクローディアさんは考えながら歌っていた。
「そうなんですか? 私には難しそうに聞こえるけど」
そんなクローディアに準備運動をしながら聞いているのはミキ。
軽いバックダンサー役として俺たちも参加するという事で、ジャージを借りてここにいる。
そのミキにクローディアさんも頷きながら少し上を見る。
「うーん。ほら機械音声系の曲って結構人間が歌うには無茶なメロディーラインを使う事があるのよね」
「ああ……そういえば上手い人が、機械音声系の作詞作曲の場合、歌も楽器と同等に扱う事があるって言ってた事を聞いたことがあるなぁ」
「うん。そういう事。でもこれはさっきもいったように素直なのよ。だから想像通りに歌う事ができるから」
『その辺は考えながら作ったって言ってたのじゃ。たくさんの人間に歌って貰えればいいなぁって言ってたのでのう。
ヨヨリもこうやって歌われて喜んどるじゃろう』
ミリンの肯定にクローディアさんは笑顔で返す。
この分だとクローディアさんの方は問題なさそうだった。そうなると、難しいのは俺たちの方か。
正直いきなり踊れと言われてもどこまでうまく行くか……
『ダンスの方は、カリタ殿達がダンスゲームを結構やっておるという事で、そっちの動きを中心にしてみたのじゃ』
「へぇ。なるほど」
「あ、それ。助かる。いきなり難しい事要求されたら無理ってなってたし」
マリオとミキの頷きに、俺も心の中で同意する。
画面の中でミリンが動く。その動きは、一見すると何とかなりそうにも思える。
しかし……
「うーん。一つ一つも動きはできそうだけど通しだと難しいね」
「だよな……明日までってのが厳しいぞ。これ」
数回、ある程度通しで練習。実際の難しさを痛感することになる。
まず、動きを覚えきれる自信がない。
「うーん。どうする? あまりに難しいなら要所のみで出る程度に抑える?
メインはあくまでクロちゃんなんだし」
バーゼスさんの提案に、一同悩む。
しかし、クローディアさんだけは違った。
歌の練習を中断してこちらへ振り向く。
「できれば始めから一緒にやって欲しいなぁ。この歌、全員でやることに意味があると思うんだよ」
「……そうか。クロさんがそう言うなら、できるようにする方法を考えるか」
クローディアさんの言葉にマツルが始めに反応する。
俺としてもそうしたいが、余りにも時間がなさすぎる。
そう思っていたのだが、マツルの言葉は続いた。
「今からミルシアシードにログインするぞ。覚えるだけならルームの中でできるはずだ」
「あ、そうだね。今日のプレイ時間は丸々ルームに残って練習ね。それなら体感一週間分の時間になるし何とかなるはず」
「なんか、合宿みたいだね。今からそれに1時間ならゲーム後ここで追加で練習できるし」
マツルの提案にバーゼスさんとミキがそれぞれ肯定する。
確かにそれはありだ。実際アズサやサツキ等、何人かのフレンドがあそこで練習しているわけだし。
そうとなったらすぐに実行あるのみだった。
「なあ、この事務所に機材はあるのか?」
「当然。フワさん。今から準備できる?」
「……はい。空いてますよ。鍵渡しておきますね」
「いつもありがとう! 皆行くよ」
男性の事務所員から鍵を受け取るとクロさんが率先して入る。
その中には10人程度同時接続できる程度の機材がある部屋。
それぞれ機材の中に入り準備する。
ミルシアシードのゲームはすぐに起動できるようになっていた。
まあ、これはクローディアさんがこのゲームの案件も持ってた以上当然か。
そう思いながらログインを行った。
そこはいつもの俺のルームの中だった。
すぐに他のメンツが俺のルームに入ってくる。
「ホールで練習でいい?」
「ああ、そうだな。ミリン。曲とかの準備お願いできるか?」
俺は何気なくミリンに声を掛けるが、よく見るとミリンの姿が視認できない。
ミキもそれに気づいたようで首をかしげている。
「あれ……? ミリンちゃん?」
不思議そうにつぶやくと、ホールの入り口からミリンが顔をのぞかせる。
『お、来たのじゃ。ほれほれ、早く来るのじゃ』
「なんだ、そこにいたか」
俺はそう言いながら、ホールに入る。
そしてその入り口で立ち止まることになった。
そこには見知らぬ少女が2人。ホールの中央で待っていたのだった。




