9-2話 クローディアの所属事務所に行きました
「ミキ! カリタ! こっちこっち!」
ぶんぶんと建物の前で手を振る女性。
Tシャツ短パンのラフな格好をしている細身の女性、クローディアさんがビルの前で待っている。
最近髪を伸ばし始めたのか、肩まで伸びた茶髪を両端で軽く結わえている。
大人の女性のはずなのに髪型のせいか若干子供っぽくも感じられた。
そんなクローディアさんの様子にミキも笑みを浮かべつつ歩きながら言ってくる。
「なんかクロちゃん最近雰囲気変わった気がしない?」
「あれが本来のクロさんなんだろうなー」
「多分そう。うん、仲良くなったって事だよね」
「まあ、そうだろうな。少なくともこんなヘルプを頼んでくるくらいには」
俺たちは小走りに向かうと、ビルの前に立っているクローディアさんの前で止まる。
そこそこ新しそうなビルの一画が、彼女の所属している事務所だそうだ。
「クロちゃん。ごめん。待たせちゃった?」
「全然。私の方が頼んだんだから待つのは当然よ」
そう言って、セキュリティカードを通して俺たちに通るように言う。
「受付は中にあるから。そこでゲストカードを受けとるのよ」
「はーい」
ミキの軽い返事と共に中に入る。
言われた通り受付に行くと、中にいた妙齢のお姉さんがこっちにカードを渡してくる。
「へー。君たちがアリスちゃんの友達なんだね」
「へっ?……あ、クロちゃんの事ですね。すいません。普段彼女の本名呼び慣れてないから反応遅れました」
「はははっ。まあその様子だと配信中にうっかり本名呼びはないから、その方がいいかもね」
「そうなんですよね。本名がカワミアリスさんなのは知ってますが、うっかりが怖いですから」
ミキの言葉に俺も頷く。本名を呼び慣れていると、つい、が怖い。実際ゲーム中でもうっかりミキ呼びしそうになるのが困る。
ゲーム内の配信ならミリンが編集してくれているから事故にはならないが、普通の配信の時には特に大丈夫かなとなる。
そんな感じで受付の女性と話していると、クローディアさんが追いついてくる。
「お待たせ。じゃ、行こう。マチさん。ありがとうございます」
「いーえ。良かったねぇ。友達出来て。アリスちゃんったら友達欲しくてこの業界に来たんだもんねぇ」
「ちょっと! マチさん!」
「はいはい」
顔を真っ赤にして起こるクローディアさんを尻目に笑っている受付さん。
あ、この受付さん相当なベテランか?
こんな感じで気軽に話せるのは実際強いよなぁ。
……しかし、友達探しでV業界に、か?。クローディアさんの動機は意外といえば意外だった。
クローディアさんは肩で息をしながらこちらに振り向くと、気まずそうにため息を吐く。
「そ、それじゃ行きましょう。事務所の会議室は2階だから」
「了解」
俺たちもそれ以上は触れないようにして、クローディアさんに続く。
階段を上り、会議室に入る。ごく普通の、飾り気のない室内。いくつかのPCとプロジェクタ。
後は、VR用の装置がいくつかある程度か。
そしてすでに人影が二人。マツルとバーゼスさんがすでにそこにいた。
「あれ? 早いですね。二人とも」
「やっほー。私が車で来たからね。途中マツル君を拾って一緒に来たのよ」
俺の話にバーゼスさんが答える。そういえばバーゼスさん免許持ってたよな。
どうにで早いわけだ。俺が納得していると、クローディアさんがPCの前に座った。
「じゃあ、みんな来たし、簡単に説明するわよ」
そう言って、クローディアさんがプロジェクタでPC画面を映し始める。
「結構難しいですね。ちょっとしたトークの後、本当は歌ってみたをする予定だったってことですよね」
「今回発表予定だった新曲を作った人と共演予定だったんだけど熱だしちゃって……今回は新曲発表自体が流れたのよ」
「ああ……それはそうですね。でもその時間にまるまる白紙状態だとさらに難易度上がってません?」
あーだこーだいいながら現状把握。
なるほど結構難しい状況になっているのがわかってきた。
今回配信のメインになる予定だった新曲発表がお流れ。10分位の大穴ができた、か。
そりゃヘルプも来るか。
「まあ最悪その時間は一人トークになるかなぁ。と思っていたんだけど……盛り下がりが怖いのよね。この辺曲が続くからやっぱ歌をつなげたい」
「あー、本当だ。連続して歌った後にトークになる予定なのか」
「構成弄るのも最終手段かな、と思ってはいるのだけど」
そう言うクローディアさんの表情は険しい。
「うん。何か歌うのは必須ね。こうなると私たちが来た理由も欲しいわよね……。にぎやかしができればいいけど素人だし。
理由と歌がうまくつながれば、最悪私たちが棒でも、リスナーはある程度納得するかな?」
バーゼスさんが何やら思案気に言っている。
俺たちの繋がりは、言ってみればゲーム仲間。そうなるとゲームに関係する内容がいい。
それでクローディアさんが歌うとなると……やっぱあれかな?
ふと思いつくが、実行できるか確認が必要だった。
「ちょっとミリンに確認していいか?」
「ん? カリタ何か思いついた?」
ミキの言葉に俺は頷き、ミリンへと連絡を取る。
ミリンへはすでにPC上から繋がっているらしく、プロジェクタ上に現れた。
事務所の人と連絡を取ると言っていたから、そのままつなげたのだろう。
そのミリンは俺が声を掛けるとすぐに反応する。
『カリタ殿、何か手伝いが必要なのじゃ?』
「あー、ミルシアシードって何かいい曲とかあるのか?」
それなりのゲームには大抵テーマソングがあるものだ。
当然このゲームにもあると思っていたのだが。
『……宣伝に予算使ってなかったから作ってなかったのじゃ。リアリティ重視でゲーム中BGM流れないからのう」
「おい」
思わず突っ込む。そこにまでお金かけてなかったか……。
そういや確かにゲームしている間はBGMがない。リアリティ優先なのはわかるが思った以上だった。
俺の落胆の表情がもろに現れてたのがわかったのか、ミリンはさらに深く考えるように唸りだす。
『うーむ。……そうじゃのう。今度CM打つことになったから、CM用の曲ならこの間作ったのじゃが』
「それだ! ミリン、その曲、クローディアさんが歌っても問題ないか?」
俺の言葉にミリンは少し沈黙する。
『ちょっと待つのじゃ、運営に確認するからのう』
「わかった」
俺が頷くと、ミリンの姿が一旦消える。
同時に、クローディアさんがこっちを見た。
「ゲーム運営に曲の使用許可か。BGM聞いた事なかったからあると思わなかったわ」
「俺もだな。しかし、ゲームの曲を歌うなら俺たちがいる理由にもなるか」
マツルの言葉に俺も頷く。多少ゲームの宣伝っぽくなってしまうがこの際仕方ない。
とはいえクローディアさん自体もゲーム運営から案件貰ってるから俺たちと遊んでいるんだし、
その辺でマイナス評価にはならないだろうと思う事にする。
しばらくして、ミリンの姿が再び現れるとこちらに明確に頷いた。
『使用許可が下りたのじゃ。ちなみにCM自体は再来週からじゃから、今回が初披露という事になるのじゃ』
「え、ありがたいけどそれでいいのか?」
俺の疑問にミリンは頷く。
『問題はないのじゃ。しかし経費削減で作詞作曲は私達ナビAIが作っているからのう。クオリティに期待はして欲しくないのじゃ』
「ま、それは聞いてから考える。最もCMにするぐらいだからクオリティに問題はないだろうと思うしな」
というか、このナビAI、本当に人間のように何でもできる様になってるな。
芸術面も担当できるなんて、優秀過ぎるよなぁ。
そんなことは思っている間にもミリンは言葉を続ける。
『私たちもしても人間に歌って貰えるならありがたいのじゃ』
「……うん。わかった。ありがとうねミリンちゃん」
ここにいるミリンに実体があったら両手を握りそうな勢いでクローディアさんがお礼を言う。
これなら、何とかなりそうかな。
「じゃあ方針も決まったし、細かい事決めつつ練習ね。いっちょ張り切りましょう!」
バーゼスさんの言葉に皆で頷く。
時間はないけど、折角なんだから目一杯やってみるか。




