7-6話 仲間がNPCを助けました
「……よし。終わったぞ」
マリオの言葉に俺たちは雑談を止め、そちらに目を向ける。
そこにはNPCのエルフの女性が目を開け、こちらを見ていた。
その瞳は確かに力があり、意識もはっきりしていることが見て取れた。
思ったより回復が早いのはマリオの魔術が強くなっているからか。
まあ、とりあえずはマリオに声を掛けてみる。
「マリオ」
「ああ、とりあえず全快にはなった。意外と意識もあったからな。すぐに状況を聞くこともできるぞ。
……いいか?」
マリオの事がにエルフは小さく頷く。元は金の長髪だったのだろう。
肩付近まで短くなった髪を握りしめ、そして、訥々と話し出した。
「レストアの街と同様、私たちの街でもここも魔物の危険性には早くから気づいていました。
レストアの街では冒険者を募っていましたが、それでは遅いと私たちは考え、
有志を募り討伐隊を編成したのです。それが3日前の事」
つまり、彼女が住むエルフの街では冒険者を募らず、自分たちで討伐隊を組んだという事か。
冒険者に任せる方が、イベントにはなると思うが、そこは思考がそれぞれ違う。
……この世界のエルフの強さがわからないが、まあ討伐隊に来るぐらいだから強いのだろうと推測する。
そんな事を思っていると、エルフの女性がその場を思い出したのか大きく顔を歪める。
「魔物と戦い、始めは私たちが圧倒的優位で進めていました。
……それでも当然油断はしていませんでした。しかし、突然……」
数舜の間。俺たちは黙って話を聞く。
「何が起きたかはわかりませんでした。突然、前衛が崩壊したのです。
ある者は上半身が、ある者は右半身が、突然消えたかのように削られたのです。
それは、魔物のなんらかの攻撃ではあるはずです。しかし、私たち後衛からではわかりませんでした」
突然の狂化による攻撃力、攻撃パターンの強化か。
よくあるパターンとは言え、あの魔物にもそれがあるわけか。
パターン変化のタイミングを間違えると即死はきついな……本来練習が必要なやつじゃないか。
俺はあくまでゲームとしての分析を進める一方、
彼女は時折言葉に詰まりながら、しかしはっきりと俺たちに伝える。
「どんな攻撃が来たかはわかりませんでしたが、この時点で撤退は決定しました。
全員が防御特化で行動を行い、私もできるだけ魔力を防御につぎ込みましたが、最後には破られました。
……後はお互いの状況はわかりません。皆を信じて散り散り逃げる事になりました」
結局は撤退か。プレイヤーが介在しないところでは終わらなかったわけだな。
情報としては、敵の攻撃に対して魔術的な防御は有効。
防御無視ダメージではなく、単に強力なダメージが入る攻撃か。
……もしかして、前衛が崩壊した攻撃は、早すぎて目で追えないとかいう事か?
予兆もなしじゃ回避なんてできんぞ。流石に。
黙って聞いている俺たちに、彼女は最後まで言葉を続ける。
「私はその魔物からは逃げられましたが、違うゴブリンに追いつかれ……魔力も空の私ではどうにもなりませんでした。
しかし、殺される寸前にマリオさんたちに助けられ、今に至ります」
そこまで言って、エルフは息を吐く。
結構情報が出てきたのはありがたいが、正直俺たちが勝てる相手に聞こえない。
これ、適正レベルがどの程度を想定されているのだろうか。
俺が思考している間、マリオはエルフの目を見て一つ頷く。
「……話してくれてありがとう。後は任せろ。俺たちがリベンジを果たす」
「お願い……します」
マリオの言葉にエルフはそういうと、力なく壁に寄り掛かる。
「私は少し休んだら撤退します。魔力さえ回復すれば、この辺の魔物には負けませんから」
「それならそれまで俺たちも休むか。俺も魔力をかなり使ったからな。いいな?ヨキ」
マリオが最後、こちらを向いて問いかけてくる。
俺もそれに頷く。マリオは戦う事前提で動いているな。
まあ、勝てないにしても戦わないと配信映えはしないからな。仕方ないか。
「おう……あ、ヨキ、お前もHP減ってるな。回復しとくか?」
「頼む。万全で挑まないとやばい相手みたいだからな」
「ミミさんは……大丈夫そうだな」
「ええ、ヨキが守ってくれましたので」
「へー。なるほど」
マリオはそれ以上は言わずに俺の回復に掛かる。
その中、俺たちは今後の方針を考える。
「まずは回復。彼女が撤退できるまで回復したら、あの魔物に向かう。
それでいいか?」
俺の言葉にサツキさんが反応する。
「……撮れ高を考えると、戦わないという選択肢はないですね。勝てる気はしませんが。負ける事前提で動きますか?」
「そうなると、一旦ルームに戻って貴重品置いてきた方がいいかな?」
サツキの言葉に反応したのはミミだった。確かに彼女が言う事は理には適っていた。
しかし、俺はミミさんの言葉に対し、否定的は言葉を向ける。
「いや、演出なのかもしれないけど、エラー出てるからルームには戻れないな」
「……あ、本当だ。こっちにもエラーが出てる」
ミミの残念そうな言葉に、俺は念のため言葉を続ける。
「強イベントボスだし、状況的に戻れないのはむしろ当たりまえだよな、これ、きっとエラーと言う名の演出なんだろうな」
「そうだろうけど地味に面倒ね。途中で一旦停止ができないわよ」
「どうしてもなら緊急ログアウトすればいいけどな。死亡と同じ扱いだが」
「それ、意味がないわよ……一回始めたら終われないのは地味に困るわね」
「ま、リアル1時間制限は絶対に越えないから大丈夫だろ」
「そうなんだけどねー」
俺は演出と言ってごまかしているが、実際は本当にエラーなんだろうな。
またミリンや運営が慌てているのが目に浮かぶ。
ともかくまずは魔物の事だ。
「しかし今の所勝ち筋がみえないな……」
「俺たち、こういう時はバーゼスさん頼りだったからなー」
「そうなんですか?」
俺とマリオの会話にサツキさんが乗っかってくる。
マリオは一つ頷くと、言葉を続ける。
「ヨキがタンクでクローディアが回避盾の前衛2枚。イルミは中衛件探索役。俺が回復および支援役、バーゼスさんが攻撃魔術、支援って形なんだよ。
バーゼスさんはレベルにそぐわない強力な攻撃魔術を使用できるから、ジャイアントキリングできる可能性があるんだ」
「あ、なるほど。それは確かに切り札ですね」
「本当ならすぐにでも合流したい所だが、エラー出てるからな……」
「難しいですね……」
マリオとサツキが普通に会話を聞きながら、俺も心の中でため息を吐く。
確かに、切り札バーゼスさんなんだよな。彼女がいないのは非常に厳しい。
「まあ、全員が魔物に向かうなら、そのうち合流できるんじゃない?」
「そうなることを期待しするよ」
ミミさんの軽口に俺は真面目に頷く。
本当にそうならないと無理だろうな。
「私たちも一緒に戦うから、頑張ろう!」
「そうですね。精一杯やりましょう」
そう言いながら休憩する。
大体6時間くらい経っただろうか。
HPとMPは回復した。今の所他の人と合流することができない。
「じゃ、行くか」
「ああ」
マリオはエルフの女性に何かを渡す。
恐らく、脱出に役立つアイテムか何かだろう。
俺の方はそっちにまで気が向かなかったな。ああいう気が利く所は助かっている。
ともかく全ての準備が終わると、俺たちは魔物がいると思われる場所に向かう事となった。
……うまく合流できるといいけどな。




