6-2話 拠点に着きました
「はい、到着です! ここになりますね。鍵はこれです」
「ありがとう。リルム」
「私はまだ仕事中ですので、今日はこれで失礼しますね」
「分かった。休みの日にでも遊びに来てくれよな」
「それは勿論です! ヨキさんも断らないでくださいね」
リルムはそういうと来た道を戻っていく。
その姿を俺たちは見送った後、4人でその建物を見上げる。
かなり古いレンガ造りの建物。しかし手入れは行き届いているようで。ぱっと見特に手を入れる必要がないように見えた。
庭も想像通り広い。馬車を停めるスペースもあり、想像以上に良い物件だと思えた。
「なんか、思ったよりきれいだな」
「リルムが時々使っているって言ってたでしょ。あれ、多分手入れをしてたって意味でもあるんじゃない?」
「あー、あるほど」
マメだよなー。リルムって。よく気が付くというか、気配りができるんだよな。
「ヨキー。こんな所に突っ立ってないで入らないか? バーゼスさんはまだ来てないけど」
「そうだな。入るか」
「あ、私、馬を入れてくるね」
「レイアウト考えないと……」
思い思いに言い合いながら建物の中に入る。
石畳の玄関から木材を張った床に上る。
リビングらしき部屋へ入ると、テーブルや椅子等、一通りの家具はすでに置いてあった。
これ、何もしなくても普通に暮らせるレベルだな、と思っていながら見渡していると、
奥から先に行ったマリオとクローディアの会話が聞こえてくる。
「ちゃんとお風呂もあるみたいね」
「中世雰囲気のゲームだけど、こういうところはプレイヤーに配慮なのか?」
「だろうね。衛生観念まで中世だとプレイヤーからすると不潔にしか思えなくなっちゃうし」
「お、トイレもある。しかも水洗だ」
「まあ私たちにはいらないけどね」
マリオとクローディアの会話を聞きながら、俺は予定通り拠点に置いておくと決めた共有のアイテムを棚に入れていく。
ちゃんと棚ごとにインベントリが設定されているのを確認。その棚に取り出し可能なプレイヤーを設定する。
窃盗等余計な軋轢を生まないようにする配慮なんだろうな。
そんなことを思っていると、窓からピョコンとイルミが顔を出した。
金髪のポニーテールが楽しそうに揺れている。
「厩舎も結構大きいよ。あれなら6頭は入りそう」
「そんな大きいのか」
「ここなら移動用の馬車も置けるし、結構やれること増えそうだね」
「そうだな。今度は北の街、ベルメストに行ってみるか」
「あっちは結構敵が強そうじゃない? 確かそのさらに先が軍事国家のエルデワース帝国でしょ」
「まあなぁ……あっちの帝国兵はレベル高そうだしな」
「なんで、帝国と戦う設定になってるのよ」
「あ、今ナチュラルに帝国と戦う事を想定してた」
違うな。レストアが始まりの街だから、そこから遠くなるほど敵が強くなるのはセオリーという事だ。
「物価も高いだろうしな。まだ早いような気もするか」
「だね。なんかクエスト受けたら行く程度にしようね」
よっと言って、イルミは窓からそのまま中に入る。
そのまま俺の所までくると棚の中を見た。
棚のインベントリを確認しているのだろう。しばらくするとこちらを向いた。
「あ、なるほどこうなってるのね」
「このゲームはシステムに全振りしてるだけあって、こういう所は便利になっているな」
「ただ運営の雰囲気見てると、細かいシステムは結構都度作ってる感じしない?」
「だな。ベースを作り込んで後は流れでだったりして」
「かもね」
『このシステムもプレイヤーの要望からだったりするのじゃ。少人数だとどうしても発想の限界があってのう』
「そりゃそうか」
だらだらと雑談しながら拠点を回る。
3階建てで地下室までもある。予想通り5人で住むには十分な広さだったし、雰囲気が落ち着いていて気に入った。
「いい拠点ができたなぁ」
「リルムちゃんに感謝だね」
「そうだなー」
リビングまで戻ってきたタイミングで今度は扉が叩かれる。
頭に疑問符を浮かべていると、扉が開き銀髪の女性の顔がひょっこり現れる。
「お待たせしましたわ……ってずいぶんまったりとしてますわね」
「いや、ごめん。居心地がよくってね。後、ここに勝手に決めてごめん」
「実際気にしていませんわよ。私のプレイスタイルでギルドに行っていないのが悪いんですもの」
そう言って微笑むバーゼスさん。
あ、思ったより怒ってなくって安心した。
そう思っていると、バーゼスさんはこちらに聞いてくる。
「それで、今日は一日片付けですの?」
「多分」
「わかりましたわ。私もいくつか共有アイテム置いておきますわね」
そう言って、彼女もまた整理を始める。
今日わかったことと言えば、ベッドの数は足りなかった事。市場に行って人数分を購入し、ついてでに保存食など必要なものを購入。
そうこうしているうちにその日は終わりになった。
ルームに戻るといつものように皆が俺のルームに集まってくる。
いつの間にか照合場所となったここで、今日は麻雀卓を囲むことになった。
バーゼスさんが購入してなぜか俺のルームに持ち込んだ物。
「あ、それ、ロンね」
「嘘だろ! 6巡目で四暗刻単騎!」
「バーゼスさん強い!」
マツルの点棒表示が一瞬にしてマイナス表示へ変わり。その対局が終了する。
いや、つえーなバーゼスさん。相当やり込んでると見た。
そんな中、ルームにふとアラームがなる。
「あら? なにかしら」
「あー、ちょっと聞いてくる」
聞きなれない音のため、念のためミリンに聞く事にする。
ミリンは家のベッドから蹴りだしたのをまだ不満に思っているのか、不満気な表情のまま、しかし役割は果たす。
『それは寝てる間に、何かが近づいてきている時の音じゃな』
「あー、そうなると戻った方がいいのか?」
『寝込みを襲われるようなイベントもあるからのう。気づくか判定があってからのアラームじゃから戻った方がいいじゃろう』
「分かった。仕方ないから戻るか」
『他のプレイヤーは気づいてないようじゃな。起こしてやらんと戻れないのじゃ』
「分かった」
そう言って俺はゲーム内に戻る。
隣ではマリオがまだ寝ていることを確認し、起こす。
二人で武器を持ち、不審者がいると思われる方向に足を進めた。
他のメンバーはまだ起こさない。いざとなったら騒がしくすれば判定が発生するはずだ
そして、庭で月明かりに照らされている不審者を確認した。
多分、俺と同じくらいの15,6の少女。体つきはかなり華奢に見える。
銀の長髪が風に揺れ、いっそ幻想的を言えるような雰囲気を感じさせる。
しかし、俺は別の意味で息を飲む。
その少女の表示はNPC、つまりゲーム内のキャラクター。
しかし、その姿は俺が知っている一人のプレイヤーの姿を同じだった。
表示がNPCでなければ普通に声を掛けていただろう。
俺が思わず声を掛けられずにいると、その少女はこちらに気づいたのか視線を動かした。
「あら? 起こしてしまって申し訳ありませんわね。この建物の新しい持ち主さん」
その声もまた、彼女にそっくりで、
「えっと、君は?」
「私、この建物の元所有者ですわよ」
その言葉で合点が行く。つまり目の前の彼女は……
「あー。リルムが言ってた、魔女って貴女の事でしたか」
「ふふっ……あら、リルムったらそんな事言ってましたの?
では、改めて自己紹介を。魔女”クレア・バーゼス”と申します。よろしくお願いいたしますわね」
そのNPCは友人のプレイヤーと同じ名前を名乗り、にっこりと微笑むのだった。




