6-1話 拠点を買いました
「さてゲーム内時間でそろそろ4か月くらいになるが、どの程度金はたまった?」
ギルドの端っこで俺たちは今後の事を話していた。
ここ最近、俺たちはここレストアに拠点を持つのを目標に地道にイベントをこなしていた。
その間、能力値も徐々に上がり、久しぶりに見たら結構な数値になっていた。
HP 300→1000 MP 10→100 SP26→152
力60→300 素早さ13→30 体力18→35 知力10→15
近接攻撃2→8 遠距離攻撃1→6
投擲2→5 盾技能3→7 採取2→5 狩猟1→5 乗馬1→5
かばう3→7 自己犠牲4→8 攻勢防御0→3 対鬼0→2
結構大きく数値が上昇している。
ゲームバランスを考えると、一桁台の数値は誤差レベルになるのかもしれないな。
ともかくこの場にはイルミとマリオ、そしてクローディアがいる。
いつものように朝食を注文しつつ、俺たちは今後の事を話していた。
ただしバーゼスさんはこの場にいない。単にプレイスタイル上、ギルドにはいかないとのことだけど……
いい加減、冒険者登録した方がいいと思うんだけどな。
こういう時に少し困りもする。
まあ、そのバーゼスさんはと言うといい拠点用の物件ががないか探しに行っている。
そういう意味では役割分担になっているとは思うけどな。
そこまで考えていると、操作が終わったのかイルミが共有財産を表示した。
「パーティの共有財産は10万ポズになってるわね」
お互い装備んお更新は最低限にして、まずは拠点と考えた結果、ずいぶん早くたまったと思う。
この金額なら5人分の拠点なら買える物件もありそうだとはバーゼスさんの話。
「あ、ゴンザ達のグループはもう複数拠点持ってるわね。今のプレイヤーの間では最大グループになってるわね。
あいつもはまると熱中するタイプだからね……このゲームの配信も評判がいいみたいだし、配信頻度が多くなるのも当然ね」
以前会ったことがある個人Vの名前を出すのはクローディアだった。
赤毛のショートの髪を触りながら彼女は話す。
彼女はあれからほどなくして、彼女が企業Vであることを話してくれた。
特殊メイク機能のテストを兼ねて通常プレイを依頼されたとの事。
数日前から少しずつ配信に乗せ始めて、比較的好評だとも言っていた、
まあ、だからと言って俺たちとしては特別扱いなんてするはずもなく、彼女も別にそれは望んでなかったので問題なし。
そのまま彼女はパーティの一員となっている。
よく考えたら俺も底辺Vなんだよな。編集その他ミリンがやってくれるからその意識はいまいち薄いけど。
「あー、よく見てるけどゴンザグループ結構強くなってるな。それに新しく始める企業Vもいるんだろ。Vの間でブームになってるのか?」
そうクローディアに聞くのはマリオだった。相変わらずいろんな配信を見ているなと思っていると、クローディアがそれに普通に答える。
「かもね。私は案件でやってるけど、他の子は大抵違うわよ。まあ、これだけやるわけにもいかないから、しばらくしたら落ち着くと思うわよ」
「なるほどな。もしかして、最近始めるプレイヤーが増えてるのはその影響もあるのか?」
「そういう人は多いわね。よく私のボックスにも届くしね」
「へー。やっぱ影響力あるんだな」
「まあね。影響力があるからこうやって案件が来るんだし」
「そうだよなー」
なんとなく話が脱線していると、イルミが口を開く。
「あ、バーゼスさんから連絡来てるよ。『目を付けた物件があるから今から行く?』だって」
「おお、じゃあバーゼスさんと合流するか?」
そんな話をしていると、頼んでいた朝食を持ってリルムがやってくる。
全員に食事を配った後、そのまま彼女は俺の席の隣に座ると聞いてくる。
「皆さん。これからどこかに行くんですか?」
「お金もたまったし、そろそろ拠点を買おうと思ってねー」
イルミがリルムに答え、金額を見せる。彼女はそれを見ると目を丸くした。
「え……もうそんなに貯まったんですか?」
「まあね」
「この金額なら、あの物件に手がでますね。ちょっと待ってて下さいね」
そう言って、リルムは一瞬カウンターに戻る。
なんの事かと思っているとと、一通の書類をもってやってくる。
そこには一件の建物の権利書が入っていた。
そこには売値10万ポズと記されている。
「へ? ギルトって拠点の斡旋もしてたっけ?」
「あ、これ。信頼できる冒険者にしか紹介できない類の物ですので。ヨキさん達なら問題ないです」
「なるほど……」
俺はそう言ってその建物の場所を見る。
ギルドにも比較的近く、同時に街の出入口にも近い。
武器屋や鍛冶屋からは比較的遠いけれど、そんなに問題にはならない距離。
広さもそこそこあり、5人で利用なら十分。多分10人は生活できるレベルの広さだ。
庭もかなり広く、俺の馬や将来的に馬車なども複数台置けそうだった。
正直、10万ポズで買える物件には見えない。
それで、冒険者がらみとなると、当然問題ありの内容のはず。
「それで、どんな問題があるんだ? その物件」
俺の問い。多分警戒した口調になっていたんだろう。
リルムは苦笑しながら話を続ける。
「あ、別に普通に住む分には何も問題ありません。普通に住める物件ですよ。
現在の所有者は私ですので、10万ポズを払って貰えれば契約成立です」
ずいぶんと肩透かしの内容に疑問符が浮かぶ。
「それは……普通に売ればいいんじゃないのか? 物件に問題ないだろ? それ」
ごく単純な問いにリルムは少しだけ困ったように話した。
「普通はそういう反応ですよね。でも、この物件は信頼できる人じゃないとダメなんです」
「……その理由は?」
「ここに前に住んでいた人が問題でして……私のひいおばあちゃんの友人の持ち物を私が貰ったのですが……」
「……」
俺は黙って聞きながら続きを促す。
「その人と言うのが、レストアが王国だった時の希代の魔女でして、仮に彼女が何か残していたとしたら対応できるのが冒険者だけなんです。
あ、でも私も時々その家は使っていましたので、普通に住む分には大丈夫なのは確認済みですよ。探した限りでは何も見つかりませんでしたし」
「なるほど……」
またえらい話が出て来たな。これ、絶対将来のメインシナリオに絡む設定か、伏線か。
そんなことを思いながら、俺は確認する。
「つまり、仮になにか起きたら自分で対処することを条件に、安く売ると言う訳だ」
「そういう事ですね」
ま、今の話は表向きという前提条件が付くか。
その魔女とやらが住んでいた場所なら、基本問題はない物件のはず。
むしろ信用のおける冒険者という条件を考えると、探索すれば何か魔女ゆかりの物品が出る可能性があるという事か。
危険物が置いてある可能性を考えたら、そりゃ信用できる冒険者限定になるわけだ。
そんなことを思っていると、リルムは笑う。
「ちなみにその魔女は今も普通にご存命ですので、仮に建物に入ってきても邪険に扱わないで下さいね。
こないだ売る許可は貰いましたが、もう売れていると思ってないかもしれないので」
「生きてるのかー。なら普通に教えて貰えばいいのに」
「意味深に微笑んで教えてくれないんですよ。そうなると普通の人には売れないなと」
困ったように話すリルムに俺は納得の頷きを返す。
あ、うん。それじゃ、信用できる人じゃないと売れないか。
今の一言で納得すると俺は皆に目を向ける。
「どうする? 購入していいか?」
「……んー。まあ大丈夫じゃないかな? 通常のアイテムを置くくらいでしょ?」
「俺も問題ないぞ」
「これ、むしろ相当役得なんじゃないかしら?」
全員問題なし、か。全員の反応を確認してから俺はリルムに頷いた。
「全員問題なし。さっそく購入したいがいいか?」
「ありがとうございます! ……えっと、ついでに一ついいですか?」
元気に答えたと思ったら、急に小さくなった彼女の声に不思議に思いながら俺は聞き替えす。
「なんだ?」
「私も時々、遊びに行ってもいいですか? 皆さん、拠点を持つならここにくる頻度が落ちそうですし」
なんだそんなことかと思いながら、俺は頷く。
「そんなの聞くまでもなくOKだ。だよな?」
俺の問いに、全員が笑顔で頷く。その様子にリルムは満面の笑顔になった。
「ふふ……ありがとうございます。あ、お水持ってきますね」
なんか、軽い足取りでカウンターに向かうリルム。
それと入れ替わるようにピンク髪をサイドで束ねたギルド受付嬢がやってくる。
そして、妙に迫力のある声で聞いてくる。
「私も拠点に遊びに行っていいですのね? ヨキ様?」
「あ……ああ、当然だ」
その受付嬢、ディアナの圧に、周りに確認もせず俺は思わず頷いた。
バーゼス:ねえ皆さん。ここなんていいんじゃないかしら? 画像今から送りますわ。
ヨキ:あ……ごめん。もう決めちゃった。いい物件だったもんで
イルミ:ごめーん。あまりに良い物件だから決めちゃった。
バーゼス:……T_T
ヨキ:いや、本当にすいません。
バーゼス:……今度の土曜日。奢りよろしく。
クローディア:あ、それ私も行っていい?
マリオ:当然俺も行くぞ! 皆でバーゼスさんのご機嫌を取るんだ!
バーゼス:おーい、マリオ君。それもちょっと困りますわ。
しばらくして連絡のあったバーゼスさんに、俺たちは平謝りするのだった。




