5-6話 依頼を終了しました
「ありがとうございました。このご恩は決して忘れません」
「おう。気を付けてな」
「私は元々依頼だったしね。気にしないでいいわよ」
マリオとクローディアさん、エルフの会話の会話。
エルフはお礼を言いながら、エルフの街の中へと入っていった。
あの遺跡で助けたエルフをエルフの街へ送り届けた所。
エルフの街を観光してもいいが、まずはアジュへの報告が先と言う事で移動を開始する。
「アジュの所に戻って依頼達成報告すれば、依頼は終わりだな」
「いやー。本当に今回は長い感じがしたね」
「全くだ。ま、終わり良ければ総て良しじゃないか?」
「そだねー」
イルミと雑談しつつ今後の方向性を考えていると、ミリンの声が聞こえて来た。
『カリタ殿、今度のルームに戻るタイミングで皆を集めて欲しいのじゃ』
「ん? どうした?」
『んー。ちょっとここでは言いにくいのじゃ』
「……わかった」
『頼むのじゃ』
そう言って、ミリンの声が切れる。
なんだろうなと思いつつも街に移動しながら4人に説明することになった。
俺の説明に4人とも同様に首を捻る。
「まあ、わからないからとりあえず、俺のルームに集合な」
「あ、それじゃ、ヨキ君、フレンド登録よろしくね」
「クローディアさんとは、まだしてなかったっけ……? あ、本当だ」
色々忙しくして完全に忘れてたなと思いつつ、全員でフレンド登録を済ませることになった。
その後は特に何事もなく、街へ向かう途中で夜になる。
全員がルーム帰還を選択し、部屋に戻る。
部屋に戻る。しかし若干の違和感を感じ周りを見渡す。その違和感の正体はすぐにわかった。いつもいるミリンがいない。
ルームにナビAIがいないこともあるんだなと思いつつも、俺は予定通り全員を集める。
すぐに全員と繋がりどやどやとやってくる。
「それにしても相変わらず殺風景ね。いい加減家具買ったら?」
「俺にその辺のセンスないしなー」
「今度部屋のレイアウト決めるわよ」
「イルミちゃん。いいね、それ。ヨキ君のルームが私たちのたまり場になってるしね」
「へー。面白そう。私も参加していい?」
「どうぞどうぞ」
イルミの言葉にバーゼスさんが乗ってくる。
クローディアさんも話に加わり乗ってきた。
まあ、俺としても綺麗になるならありがたい話なので止めはしない。
「ヨキ、お前も何か言った方がいいんじゃないか?」
「いや、別に気にする事でもないし」
「お前がいいんならいいんだが……」
マリオとそんな事を話しつつ待っていると、ミリンがやっと現れる。
『すまんのう。皆、遅くなったのじゃ。まったく……こやつが来るのを渋るものでのぅ』
そう言いつつ、後ろを指さす。そこには40代と思われる小太りの男性がいた。
黒髪の短髪を雑に分けたその男性は、いかにもしぶしぶという感じてそこにいた。
「いや、ちゃんと安全装置が働いているし、運営としては問題ない範囲だったはずだがな」
『ふふん。ことプレイヤーの安全に関しては、運営よりナビAIの方が立場が上じゃからのう。しっかり説明するのじゃ』
「まあ、それはそのとおりだ。個人的には謝罪は必要だと思っているが、運営としてはな……」
『オオシマが謝罪必要と思っているのなら何も問題がないのじゃ』
「仕方ないな」
なんの話をしているのか。俺の方はよくわかっていなかったが、二人の言葉に反応したのはバーゼスさんだった。
バーゼスさんは髪をくるくると指で巻きながら言う。
「なるほど。あの鬼戦でのエラーログは本物だったと言う事ね」
「そういう事。君たちには申し訳ないことをしたね」
あっさり男性は肯定し、俺たちに視線を向ける。
「改めまして、私はミルシア・シード運営のディレクター。オオシマ アタラだ。
今回の不具合の謝罪と報告に来た。……いや、本当はバックレようとしたがここのミリンに強制的に連れてこさせられた」
『そこは言わんでいいのじゃ』
「個人はともかく運営としてとなると慎重になるんだ。謝罪するにしてもまだ早いと思っていたんだよ」
『悪い内容の報告は拙速の方がいいのじゃ。詳細は後で構わないのじゃからな』
あーなるほど。この人がゲームのディレクターか。こういう事に対しても出てくるんだな。
そんなことを思っていると、オオシマと名乗る運営が深く頭を下げる。
その彼に対し、クローディアさんが声を掛ける。
「こちらも案件でやってますけど。こんな不具合が起こると思ってなかったわよ」
「いや、ミリンからログが届けられたときは目を疑ったよ。まあ、取り急ぎ原因は特定したからパッチは当てた。
今後は同じ不具合は発生しないはずだ」
「結局はどんな不具合だったんですか?」
俺はあまり理解ができずに思ったことを聞く。それにオオシマが一つ頷くと答えた。
「あの鬼が、逃走防止の魔術を使用しただろ? その時、システム周りに不具合が生じてな。ログアウト周りから痛覚フィルターまで停止する事態となったんだよ」
「結構まずい不具合ですね。それ」
直接被害を被った俺が感じたことだが、特に痛覚関係がまずい。
下手すりゃ、プレイヤー自体にダメージが行くことになる。
「そうなんだよな。だからこそ特に痛覚系統は複数のシステムを組んでいて、そっちが無事稼働したのでそこまで深刻な不具合にはならなかったはずだ。
……ヨキ君のダメージだと、流石に痛かったかもしれないが」
「我慢できないほどではなかったですね。あの吹っ飛ばされ方じゃ、普通だったら動けませんよ」
「これは裏話になるが、五感完全再現と痛覚遮断の両立が本気で難しかったからな。念入りにデバックした部分でもある。
これで大丈夫だと思ってたらこんな不具合が出てな……。予備が想定通り働いたから良かったものの、な」
露骨に肩を落とすオオシマ。何事も想定外はあるという事で、しかし、この運営は想定外に対処することも想定に入れているようだった。
その辺は好感が持てる部分かもしれないな。
「そういう事なら、全部の機能が停止した場合はどうなっていたのですか?
あんな攻撃が完全再現されたらシャレにならないですよね」
そう聞いたのはイルミだった。まあ、その不安は当然ある。
イルミの質問に、オオシマは少しだけ考え、口を開く。
「その場合は物理的に起こす事になるよ。別に精神がゲーム内に入るみたいなオカルトじゃないからな。
外部刺激で普通にゲームから切断されて起きれることになるな。地震とか来た時と同じ扱いだ。これはログアウト処理とは一切関係がない」
「よくアニメとかで題材になる、ゲーム中で意識不明になるとかは?」
「ないない。そんなシステム構造的に組めないよ」
苦笑するように話すオオシマ。まあ、そりゃそうかと思う。
そのオオシマは続けて話す。
「ともかく、君たちには申し訳ないと思っているよ。この不具合はメンテの際に掲示することになる。
同時に修正済みとなるが、無用な不安を与えそうで運営としてはかなり怖い」
「人減りそうで怖いですね。確かに」
このゲームを楽しんでいる身としては、ゲームが配信停止になったら嫌だな。とは思うし……。
「もしそうなりそうなら、私の方でも少しはフォローしますよ」
そういうのはクローディアさんだった。そういえば、さっきも案件とか言ってたような気がしたが……。
まあ、深くは聞かないことにする。聞いてしまって距離取られてもつまらないしな。
「すまないね。で、ここからは補填の話だが、何か希望はあるか?」
「いや、ちゃんとシステム上は問題なく働いているんだし、いらないと思うのですが。特に必要ないと思います」
「実質ダメージ受けたのヨキだけだし、ヨキがそう言うのは私からは何も言う事はないわよ」
「同じく」
「私もよ」
俺の言葉の後に皆が続く。実際タンクの役割だった俺以外にダメージを受けた人はいなかった。
つまり、不具合の影響を受けたのは俺だけとも言えるので、俺がいらないと言ったら他の人もそれに続くか。
ともかく、オオシマは俺たちの返答に少し唸る。
「うーん。そう言って貰えるのはありがたい。しかし、こちらも何もしないわけにもいかないな」
そういうと、俺の手に不意に書類が現れる。
「これは?」
俺が困惑して言うと、オオシマは少し笑いながら言ってくる。
「ちょっとしたモニターの契約書類だな。モニター期間は1か月。その間の各種経費はこっち持ち。
1か月後は返却の要望がなければそのまま君の物になる契約だ。正確には補填ではないが、信頼できるプレイヤーとして依頼したい」
「その物ってなんですか?」
「ナビAIだよ。つまりナビAIを君の物とすることでて、1か月100円引きになる。
モニター契約により、他のプレイヤーより若干詳しいログをもらう事で、俺たちはそのログからユーザーインターフェースの改良を行う事になる」
「それ以降は?」
「君から返品されなきゃ君の物だ。だが、定期メンテが必要だからその分が+50円。早い話が君に関してはゲームが続く限り月額50円引きでプレイ可能という事だよ」
「あ、なるほど」
「ただ、ここまでできるのは実害を被った君に対してだけだな。それとは別に他の4人にもルーム用のちょっとしたアイテムを用意する」
つまり、迷惑かけた補填として実質割引するという事か。
ただ、この契約は俺だけなんだよな……
「どうなんだ? 皆は受けていいと思うのか?」
「まあ、いいんじゃないの? ただ、こういう補填を受けたとは言わない方がいいと思うけど」
「だよな……これを受け取ると、この件に関しては俺からは良いも悪いも言えなくなるよな」
これ、受けていいのかな……と悩むことになる。
今度はクローディアさんがオオシマに聞いている。
「同じ事例が起きたら同じ補填をする必要も出てくるけど?」
「まあ、同じことは起こさない。モニターの件は流石に今回限りだな。厳密には補填ではないし。補填自体はルーム用のアイテムの方だからな」
「……まあ、詭弁だけど通る話とするわ。ヨキ君も別に言いふらさないでしょ」
「当然。こんな事言ったらやっかみで余計面倒くさくなる」
しかしなあ……と悩んでいると、当のナビAI、つまりミリンが言ってくる。
『なんじゃ、カリタは私がいらんと言うのか?』
「いや、それはないが」
『ならさっさとサインせい。深く考えると将来はげるのじゃ』
ミリンのあまりの物言いに、全員で噴出した。
なんか、考えるのがバカらしくなり。俺は頷くとサインをする。
「わかったよ。これでいいですか?」
「ああ、契約成立だ。ま、これからこいつの事を頼むよ」
オオシマはそう言って、もう一度頭を下げる。
俺も文句は言おうと思っていたが、運営も思っていたよりは深刻に考えていたという事が分かって考えを改める。
その後、今回の件で会議があると言ってオオシマが帰った後、俺たちはそのまま雑談し、引き続きゲームで遊ぶ。
アジュに報酬貰いにいったらひどく驚かれた。そういえば俺が死んだと思われていたの忘れてたな。
そんなこんなであっという間にその日のプレイ限界が来た。
そして、特筆することもなくリアル数日が経つ。
今はレストアの街で拠点を持つため、地味に依頼をこなして資金を貯めている。
いつの間にか5人でパーティを組んで遊ぶ事が多く。この5人で拠点を持つ方向に向かっている。
その日もゲームが終わり、自室にミキが遊びに来ている。
二人でバトルロイヤル系のゲームをして遊んでいると、家のチャイムがなった。
母さんは夕食用に買い物に出ていたはずで、俺が普通に玄関を開けた。
そこには一人の少女が立っている。
ぱっちりとした大きな目、明るい茶色の髪をツインテールに束ねている。
服装こそ白の半袖ワンピースを着ているが、外見年齢は中学生。文句なしの美少女が自分の前に立っていた。
その、ゲーム内ではすっかり見慣れた少女が口を開く。
その声も、聴きなれた透明感のあるソプラノボイス。
『モニター募集ありがとうございますなのじゃ。不束者ですがよろしくお願いしますなのじゃ』
数瞬俺は黙って眺めた後、とりあえず玄関を閉めた。
外が少女の声で騒がしくなり、ミキも何事かと降りてくる。
俺の珍しく狼狽えた様子にミキが開口一番聞いてくる。
「何があったの?」
「俺が知りたい」
その間も外ではミリンの騒がしい声が聞こえてくるのだった。




