5-4話 鬼と会いました
「なんかプレイヤーが増えてるな」
「ええ、初めまして。クローディアよ」
「マリオだ。よろしく」
マリオが到着すると、クローディアさんと挨拶を交わす。
実際初対面の相手とは挨拶は大事だ。少なくとも声を掛けることはできるからな。
……その後会話が続くかは別の話。
その辺本当に難しいと思うのは、根が陰の者だからだろうなぁ。
ともかく、マリオにも休憩に入って貰う。
「おう、マリオもここで一回休め。ここのボスは相当強そうだからな」
「わかった。万全の態勢で挑むってことだな」
マリオはあっさりと休憩の態勢に入る。
ふとクローディアさんの方を見ると、なにやら視線がマリオの方に行っている。
……なんだろうなぁ。何か思い出そうとしている?
まあいいか。人の事を詮索しても碌な事にならない。
それ以上は意識を向けるのを止める。
現在はイルミと俺が監視役、他3人が休憩中。
そんな中、イルミがこっちに声を掛けてくる。
「……鬼ね。勝てると思う?」
「相手の数次第だが、5人でいく分なら何とかなるんじゃないか? 出てくる敵もゴブリンやコボルトとかの弱い敵だし」
「うーん。どうなんだろね。配下が弱くてもボスが強いとかありそうだけど」
「まあ、その時は大人しく全滅だな。装備ロストは痛いけど仕方ない」
「折角アジュから装備貰ったのにそれは嫌ね……」
「今ならまだ引き返せるが?」
「するわけないでしょ。わかってるくせに」
笑いながら言うイルミに俺は苦笑いで返す。
「ま、当然だよな」
「そうそう」
ゲームなんだ。思いっきり遊ばないと損だ。
こういうリスクを冒せるのもゲームの良い所なんだし。やり直しはいくらでも効くのだから。
そんな他愛もない話をしながら全員の回復を待つ。
回復後探索を再開する。とは言ってもこれ以上は敵が出ることもない。罠すらない状態だった。
意外とあっさりボスがいると思われる広場まで来ることができた。
正直、拍子抜けではあるが、油断は禁物。まずは中の様子をみようと隠れるように中を見る。
意外と何もない広い空間の中央に腕を組んでいる巨体の魔物が経っていた。
雰囲気がどう見てもイライラしている。
はて、どうしたものかと思っていると、鬼の視線がこちらを向いた。
やばいと思って引っ込むもすでに遅かった。
”冒険者か! よく逃げなかったな!”
「なに気づかれてるのよ!」
小さく怒るイルミを制し、どうするかを声に出さずにチャットで聞く。
イルミ:ま、出るしかないんじゃない? 逃げる気はないんだし
バーゼス:ある意味正々堂々ですわね
マリオ:いいんじゃないか?
クローディア:OK
俺たちは鬼の声に応じ、素直に姿を見せる。
鬼は特に動こうともせず、待っているかのように立っている。
俺たちはそのまま、ゆっくりと鬼の前まで進み相対する。
距離は10m程、そこで立ち止まった。
俺とクローディアさんが人前衛。中衛にはイルミが入る。後衛にはバーゼスさんとマリオの布陣。
今更挟み撃ちは考えない。イルミの敵感知スキルに反応がない。
”くくく……よほど自信があるようだな!”
「自信はないがな……しかしお前一人か? 配下はどうした?」
俺の言葉に答えないよなと思いつつも、言うだけは言ってみる。
前口上ありはボス戦らしいしな。
そんな考えの適当な言葉に、しかし鬼は露骨に肩を落とす。
何か、反応がおかしい。そう思って待っていると、鬼が唸るように呟いた。
”……いないんだよ”
「……はっ?」
思わず聞き返す俺に鬼はキッとこちらを睨む。うっわ、正直怖い。
”ゴブリン1匹にコボルト3匹、これが俺の全配下なんだよ!”
「えっと……少なすぎないか? 流石に」
吠えるような、しかし悲痛な声。その余りにも悲痛な声に思わず問い返す。
”ああ、そうさ! 上司にも言ったさ! この配下数でエルフの街を襲撃するのは無理だと! しかし上司は後はお前の采配次第だとしか言わなかった!”
「うわぁ……」
無能上司に無茶ぶりされる中間管理職だこれ……
思わず心の中で引いていると、鬼の言葉は続く。
”しかたがないから、ゴブリンたちにエルフを一匹誘拐させ、芋ズル式に各個撃破しようとしたんだがなぁ……”
「あー……俺たちが全滅させたなぁ」
”やはりか! 糞が! だから言ったんだ。始めから無理だと!”
「だよな……」
この鬼が例え激強でも、1匹で街を破壊は無理がある。
この無茶ぶり具合。こいつの上司は始めからこの鬼を殺させようとしたとしか思えないような……
”戻ったら、あの糞上司に文句言ってやる!”
「……あー、戻るのか?」
なんか気持ち的に毒気が抜けてしまい普通に聞いてしまう。
鬼が再びこちらを向き、嗤う。
”お前、面白い奴だな。人間が鬼と普通に会話をするか”
「なんだろうな? ま、気にするな」
このままいなくなるなら、それでもいいかな気分になってきている。
……いや、駄目か。あのエルフを誘拐したのはこいつだ。つまり見逃すと将来被害が増すことになる。
そんな考えをしている俺を見ながら鬼が言葉を続ける。
”お前、実に肝が据わっているな! 気に入った! できれば配下にしたいぐらいだが”
「それは断るぞ」
あっさり即断する俺に、鬼はさらに嗤う。
”だろうな! お前は冒険者で俺は鬼。つまりは敵同士だ!”
鬼はそう言うと巨大な金棒を握りしめる。
”さあ! 殺しあおうぞ!”
不意に鬼から魔方陣が展開される。
瞬間、フィールドが薄い何かに包まれる感覚を受けた。
さらにはノイズの用な感覚。同時に表示が更新される。
エラー:ナビゲートAIと切断されました。
エラー:緊急ログアウト不能
エラー:各種フィルター機能の不具合発生
エラー:通信モードオフ
システム:再起動開始……1%……
これは……ボス専用の特殊演出か?
逃げられると思っていた俺が浅はかだったか。
いくつかの機能が使用不可になったのを確認する。
エラーログの中でも一番危険なのは……。
「気を付けろ! 痛みが来るぞ!」
全員に呼びかける。
その言葉に全員に緊張が走った。
今までは、ゲーム中、痛覚はなかった。それゆえダメージを受けても冷静に動けていた。
しかし、あのエラーログを信じるなら、その痛みを消す機能にエラーが出ているという事だ。
どの程度、痛みを感じるかは不明だが、程度によっては動けなくなることは容易に想像できた。
……流石にそこまで痛みを感じるレベルならゲームどころではないし、運営も設定しないだろうが。
「運営……いくらボス戦だと言ってもやり過ぎだぞ!」
俺は悪態をつきながらも、武器と盾を構え、全員の前に立つ。
戻ったら苦情だと心に決めつつ、鬼と対峙することになる。




