5-3話 遺跡探索を進めました
3人になり、しばらく進む。
珍しく雑残らしい雑談もせずに静かに歩く。
ゲームに集中しているこその沈黙。
お互い、索敵や罠発見などの役割をこなす。
相変わらず、人3人分が並べば多少窮屈に感じる広さの通路を慎重に歩く。
「……これ、罠に引っかかった後があるわね」
ふと、イルミがしゃがみ込み何かの跡を追う。
そこには何かが当たり、砕けた跡が残っていた。
「あのエルフがここで引っかかったのか?」
「かもしれないけど……そんなに引っかかってから時間が経ってないよ。これ。時間があるなら罠も掛けなおすと思うし」
「他にも誰か来ているのかしらね」
……しばらく考えを纏めるために沈黙し、ゆっくり声を出す。
「もしかして、エルフがいた場所以外で敵に合わないのはそのせいか? そっちはまだ戦っている?」
「かもしれないわね。どうする? 急ぐ?」
イルミの問いに俺は一瞬考え、マリオに連絡する。
ヨキ:マリオ、そっちはどうだ?
マリオ:さっきのエルフが起きたところだ。説明中だがどうした?
ヨキ:事情が変わった。中にまだ別の人間がいる可能性がある。
マリオ:回復は後回しか。わかった。そっちに向かう。
ヨキ:助かる。
「急ごう。マリオにも連絡済みだ」
「分かりましたわ」
二人が頷き、一気に向かう。この状況なら改めて罠を探す必要はない。
先に人がいて敵と戦っているなら、罠もほぼ無効化されているはずだ。
速足気味に動きながらも、意識は先に進んでいるであろう人間の行動予測へと向かう。
その人間の思考次第だが、基本的には奥に向かっていると仮定する。
逃げる選択をしているなら、今の所ほぼ一本道。どっちにしても会えるはずだった。
三叉路を地図で確認し、奥へ進む道を選ぶ。
さらに進んでいくと、予想通りな状況をイルミが察知する。
「複数の足音……こっちに向かってるよ」
「さっきの曲がり角に隠れるぞ」
逃げているならこちらにくるはずだ。
3人とも通路に隠れ、息を潜める。
しばらくして俺の耳にも明確に音が聞こえる。
武器を構え、わずかに剣を通路に出し簡単な鏡代わりにする。
そこには、一人の女性が全力で逃げ、複数の犬の頭を持った魔物……恐らくはコボルトが複数追っていることが映っていた。
少なくともここまでは逃げ切れると判断し、そのまま待つ。
女性が俺たちの横を通り過ぎる。目の端で俺たちの姿をとらえたのか、一瞬硬直仕掛けるがそのまま走り抜けた。
いい判断な……と思いつつ、今度は明確に攻撃姿勢に入る。
通路からコボルトの姿が見えたと同時、全体重を乗せた刺突を行う。
完全なる不意打ち。避ける行動すらできず、もろに食らったコボルトの1匹を一撃で倒した。
ようやく俺の姿を認め、攻撃姿勢に入ろうとした残り2匹。
しかし、それは叶わない。1匹は頭に矢を生やしそのまま倒れる。
完全に慌てふためく最後の一匹は、俺の攻撃により沈黙した。
「……全部一撃か。意外と強くなってるか?」
「かもね。ま、不意打ちだったしこんな物でしょ」
「お疲れ。こちらは何もしないで終わりましたわね」
「いや、魔力はまだまだ温存して欲しいしな。それでいいんだ」
そんな会話の中、追われていた女性が戻ってくる。
赤毛のショート。釣り目勝ちの気の強そうに見える女性。表示はPCだった。
こんなところに来ているプレイヤーが他にもいるんだなと漠然と思うが、効率のいいプレイヤーならそういうものかもしれないと思い直す。
その赤毛の女性が口を開いた。
「助かったわ。ありがとうね」
「無事で良かったですね。ケガとかしてませんか?」
「スタミナは使ってるけど、ケガまではしてないわ」
イルミがその女性に答え、さらに女性が返事をしている。
「なら、良かったですわね。ここには魔物退治にきましたの? 私たちはそれが目的ですが」
バーゼスさんの質問に、女性は首を横に振る。
「いえ、2週間前から行方不明になっているエルフの女性を探す依頼があって、どうやらここにいるらしいってことで来たのよ」
「あ、なるほど……そのエルフの女性はこちらで見つけて今、外の馬車にいますわよ」
バーゼスさんの答えに今度は女性が天を仰いだ。
「探索ミスったー! こんな奥まで来る必要なかったのね。ありがとう助けてくれて」
すぐにこちらに向き直り、笑顔でお礼を言ってくる。
「いえいえ、なんかイベント横取りしたようで申し訳ありませんわ」
「そんな事ないわよ。お礼になにか協力させて!」
元気に行ってくるその女性に俺たちは一瞬考えた後、イルミが先に言葉を出す。
「それなら……私たちは魔物討伐が目的だし、奥の事を知っているなら教えて貰えると助かるわ」
「そうね、なら、手数はあった方がいいわね。私も協力するわ」
そう言いながら、俺たちが持っている地図に表示を始める。
指し示すのは一番奥の礼拝堂っぽくなっている巨大空間だった。
「ここになんかボスっぽい魔物がいたわ。それに気づかれて逃げたのよ」
「ボスか……どんな魔物かわかるか」
今度は俺の問いに女性は目をこちらに向ける。
「一言で言うと……鬼ね」
2対の角を持った4m程度の身長と筋骨隆々とした体躯。
高い攻撃力が特徴の相手だと推測された。
「確かにそれはボスっぽい」
「鬼だとすると……場合よっては魔術攻撃可能な種もいるでしょうね。普通のゲームのイメージなら」
「両方こなす相手か……俺たちで相手できるか?」
あくまで推測でしかないが、今までの敵とは格が違いそうだ。
「戦ってみないと何とも言えないけど、私たちじゃ正攻法が中心でしょうね」
「遠くから魔術で狙撃もボスがいる場所から考えると難しそうですわね」
イルミとバーゼスさんの言葉。
結局は、正面切って戦うしかなさそうだ。
そうなると、万全の状態で挑む必要があった。
「一旦この先の小部屋で交代で休んで、マリオが来たら進むか」
「案外鬼がこちらに来たりして」
「そしたらこちらが有利だよ。通路は狭いからね」
相手の行動阻害を考えたらその方がこちらに有利になるし、同様に相手もそれがわかっているから追ってはこないと考える。
「この先の小部屋なら逃げるのも戦うのも俺たちにとっては有利な位置だよ」
「分かったわ。じゃあ、それで行きましょう。……あ、そうだ、私はイルミって言うの。貴方は?」
そう言って、イルミは女性に問いかける。
「クローディアよ。よろしく」
そう答える女性は、若干恥ずかしそうにはにかむのだった。




