5-2話 遺跡探索を始めました
街から大体徒歩だと1週間位の位置にある、その森の中に目的の遺跡はあるそうだ。
一応2頭立ての馬車を借りて移動することで3日に短縮、乗馬スキルを持っている俺とバーゼスさんが交代で御者をやる。
イルミとマリオはその間は主に雑用だ。
「馬車、お金たまったら買うのもありかもね」
「その前に拠点を買わないとな。いつまでも蒼い稲妻亭寝泊りだと出費もかさむしな」
イルミの言葉に俺はそう返す。
実際、拠点の購入は今後考えないといけないことだった。
ルームにすべて持ち込めるわけではないし、アイテムの保管や移動用の乗り物の自前での確保はこのゲームで冒険の幅を広げるには必須になりそうだった。
「とりあえずレストアの街でいいなら拠点候補、探しておきますわよ」
「いいですね。なんか秘密基地みたいで」
バーゼスさんの提案にマリオが同意する。
「目標、できたね」
「そうだなー」
これも一種の成り上がり願望みたいなものかな。
そんな雑談をしながら緩やかに時間が過ぎていった
3日後、その遺跡の入り口に到着する。
まずは馬を休ませて、遺跡近くに設置する。
その後、俺たちは遺跡の入り口を確認した。
「うーん。普通の遺跡に見えるな……」
「まあ、すでに探索済みの場所らしいから。地図もある位だし」
「本当にここに敵性の高い魔物がいるのかな? 入り口に見張りもいないし」
「まあ、それはそれだ。それ位の場所じゃないと、俺たちみたいな初心者だと厳しいぞ」
思い思いに言い合いながらもイルミは探索を怠らない。
「……んー? 人間の足跡があるわね」
「人数わかるか?」
「多分1人。いつ来たかまではわからないけど」
「4日前に雨が降っていたはずですわね。少なくともそれ以前はないかと」
「そうなると俺たちより前に来た人間がまだ遺跡の中にいる可能性もある訳か」
どうなんだろうな……流石にもう帰っている可能性の方が高いと思う。
プレイヤーだった場合は、負けてれば強制帰還だし。
「行きはあるけど帰りはない……足跡から考えると、多分戻ってきてないわよ。これ」
「プレイヤーが入り込んだかな……。一人だと負けるレベルの敵がいるのか?」
「最悪のパターンはNPCが入り込んだ場合ですわね」
「あー。知性ある敵の場合人質になっている事があるか」
「こりゃ、アラーム系の罠にも気を付けた方が良さそうだ」
お互い頷くと、遺跡の中に入る。
中は思ったより暗い。俺がランタンに火を付け先頭に立つ。
隣には罠探査のため、イルミが、中衛には回復が使えるマリオ。
後衛がバーゼスさんになるのが不安だが、この中じゃ一番プレイヤースキルがあるし、
不意打ちが起こってもなんとかなるだろう。
苔むした石畳の通路を歩く。空気が淀んでいるように感じる。
緩やかに下り坂になっている通路を歩きながら、雑談は続く。
「結構雰囲気あるよな。これだけリアルに作られていると」
「そうよね……リアルと思って行動してないと、すぐ離脱する事になりそう」
あ、罠……と呟いて、イルミは俺たちを静止し罠解除に掛かる。
その間俺は周りに注意を払いつつ、言葉を続ける。
「こうなってくると、本当に冒険者になった気分だよな」
「全くだ。RPGでこのレベルの物作るのにどんだけ予算が必要なんだか」
「その割には月額料金安いよな」
「月1000円ですものね。どこかが補助でもしているのかもしれませんわね」
俺たちがそんなことを言っていると、ミリンの声が聞こえてくる。
『その辺は初期投資じゃな。ゲーム運用の省力化を兼ねて、環境シミュレーター型のシステムにしておるのじゃ。
特にイベントとかは自然発生に任せておるのでのう。稼働開始後の運営がやることは、日々のメンテや基本システムの改修が中心じゃな』
「……余計それ、お金かかってないか?」
イベントを企画から作らないのはメリットかもしれないが、
どう考えてもシステム構築の精度が鬼畜レベルだと思う。
人が集まらなかったらそれこそ大惨事だ。いや、実際大惨事になりかけてたか。
『そんな気もするのじゃがなー。運営が大丈夫と言っておるのじゃから大丈夫なのじゃろ』
「俺たちが気にする事でもないかー」
『そうそう、そこまで気にすることはないのじゃ』
ミリンとの脳死会話が終わったところで、イルミの呟きが聞こえる。
「よしっ……解除できたよ」
ふぅっと息を吐くイルミにマリオは頷く。
「こういった罠があるという事は、知性がある敵がいるのは確定か」
「そうですわね。それに今まで魔物に会わないことが気になりますわね」
バーゼスさんの言葉に今度は俺も頷く。
もしかしたら、中にいる別のプレイヤーが戦っている可能性もある。
「もう大丈夫。他に罠はないわ。先に行きましょ」
イルミが歩き始め、俺たちも続く。
歩きながら、ふと手を開く。かなり汗をかいていたらしく、じっとりと濡れている。
緊張しているな。それもかなりまずい感じの。
いざという事動けるようしないとな。前衛として咄嗟に動けないのはまずい。
たかがゲームのはずなのに、この臨場感に飲まれているのかもしれない。
「……分かれ道ね」
イルミの呟きで我に返る。確かに道が二手に分かれていた。
地図で言うと左に行くと、奥に進む。右は行き止まり。多分小部屋がある感じだ。
「右は行き止まりのようだが……行くか?」
「急がば回れね。私は構わないわよ」
イルミの言葉に、マリオとバーゼスさんも頷く。
行き止まりの道を進むと、間もなく小さな扉が見えた。
イルミが率先して罠発見と聞き耳を行う。
「罠はなさそう……でも声が聞こえる。苦しそうな声」
「分かった。俺が開ける。フォローよろしく」
俺が先頭に立ち、静かに扉を開ける。
新たに用意したたいまつを投げ入れ中を確認する。
そこには、鉄の首輪に繋がれた人間――エルフの女性NPCがいた。
無数の傷が体中にあり、拷問された様子が容易に想像できる。
表示は中立、つまり助けるべきNPCという事だった。
完全に気絶しているのか、ピクリとも動かない。
俺は慌てて中に入り、NPCを助けるべく近づく。
ざっと見た感じでは致命傷の傷はない。
俺は振り返り、仲間を呼ぶため声を上げる。
「マリオ!来てくれ! 重傷のNPCがい……」
言えたのはここまでだった。急に視界が歪んだと思うと、体が倒れる。
HPが5%程減るのを確認。不意打ちを食らったのは間違いなかった。
同時にスタンのデバフが掛かり動けなくなる。
慌てすぎたなと思いながらも視界の端に魔物を捉える。
恐らくこのNPCを拷問していたと思われる魔物。ゴブリンがそこにいた。
醜悪な見た目のそれがこちらに向けて槍を振り上げるのが見える。
スタン中、この一撃は防御無視になりそうだ。
あ、これはやば……
瞬間、ゴブリンの姿が消える。
状況がわからずデバフが解除されるのを待って動く。
視線で探すと、壁の一画にただの肉塊になった元魔物の破片があった。
「なにが起きた……?」
「バーゼスさんの魔術よ。ヨキ、慌てすぎ」
俺の呟きに隣まで来ていたイルミが答える。
イルミの合図にマリオが中に入り、NPCの治療を始めた。
最後にバーゼスさんが入ってくると、申し訳なさそうに言ってくる。
「もう少し早く気づいていれば、ヨキさんにダメージ行かなかったですのに」
「いえ、助かりました。バーゼスさん」
バーゼスさんが、魔術であのゴブリンを潰したという事だろう。
肉片と化すとか……どんだけ強力なんだ。バーゼスさんの魔術。
「すまん。イルミ」
「まったく……ここまで来ていきなりヨキが離脱したら引き返し確定よ」
「そうだよな……」
やがてマリオの治療が終わったのか、NPCに布を掛けてからマリオはこちらに振り向く。
「NPCは大丈夫そうだ。だけどどうする?一回引き返すか?」
「……そうだなぁ」
俺もマリオに治療をしてもらいながら悩むことになる。
「マリオの魔力回復もあるし、一回帰った方がいい気もするな」
「でもここのゴブリンひき肉にしましたから、時間を掛けると奥の敵が気づきますわね」
バーゼスさんの意見も一理ある。下手すれば、魔物討伐は失敗か。
しかし、NPCの救出も相応の手柄になるだろうし……
「うーん。このNPCここに置いておく?気が付いたら自力で脱出をお願いするとして」
「それはどうなんだろうな?」
NPC任せだとまた捕まる気もするしな……
「なら、折衷案だ。俺が馬車でNPCを連れていくから、ヨキたちはゆっくり先を向かってくれ。
俺は馬車で魔力を回復してから追いかける。その間にNPCが気が付いたら説明をしておくよ」
「……それならいいか」
マリオの提案に俺は頷く。
「敵を発見しても私たちはマリオが来るまで監視に留めるでいいよね」
「それでいいですわね」
イルミの確認にバーゼスさんも肯定の頷きを返す。
「じゃあ、マリオ。頼んだ」
「分かった。行ってくる」
マリオはNPCを担ぎ上げ、一足早く歩き始める。
「さて、俺たちも行くか。ゆっくりな」
「ねえヨキ。一番気を付けないといけないのは誰かしら?」
「……はい、気を付けます」
「よろしい」
俺は素直に謝ると、二人が笑う。そして俺たちは再び探索を開始した。




