3-10話 追放少女を助けました
改めて少女の姿を確認する。
ピンク色の長髪を無造作に首のあたりで束ねているのは少しでも動きやすくしたかったからな。
釣り目がちな碧眼が驚きで大きく見開かれている。
……見た目の年齢からは多分、可愛いの部類なのだろうが、目つきにためか若干キツメの性格を連想させた。
比較的ほっそりとした体つきで、体力があるようには見えない。
その上、真新しい旅衣装はいかにも旅に不慣れなことを連想させていた。
あ、体の輪郭がはっきりしているな……意外と出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
ともかく、危険な所を通ることもあるのに一人旅。しかも徒歩。とても旅に耐えられるようには見えなかった。
急遽追放されたお嬢様と仮定すると、納得はできるが、このままだと悲惨な末路になりそうだなと思う。
そんな俺の思考を知ってかしらずか、その少女は手に持っていたナイフをこちらに向けるとキッと睨んでくる。
「なんの用ですの?」
「煙が上がっていたからな。気になってきてみれば女性が一人。……見た感じ旅慣れてもいなさそうだ。家出でもしたのか?
いくら街道でも獣くらいはでるぞ。危険だから街に戻ったらどうだ」
俺の言葉に、彼女は口を開きかけ、一回閉じ、そしてゆっくりと口を開く。
「街は駄目ですの。私はまずはレストアに行かなければならないの」
ま、理由は言う訳ないな。とりあえず危険を煽る方向で持っていこう。
「でも流石に一人では危険だぞ。旅慣れたとしても不慮の事故に対応できない」
「あら? それは貴方もではなくて?」
「俺は護衛任務で山賊に襲われてはぐれただけだからな。意図的じゃない」
ま、これは事実だからな。嘘ではない具体的内容なら危険も意識しやすいか?
……いや、これで俺がアジュの護衛だと気づくかもな。
この少女の追放の際、俺が犠牲になったことをアジュが訴えていたことは教えて貰っている。
つまり、この少女も俺の存在自体は知っているという事。
その状況に合致する人間がいるのだから連想してもおかしくはないはず。
まあ、自分が追放される状況じゃ覚えていない可能性も高いだろうし、大丈夫か。
その少女は若干引き攣った表情を浮かべた。あ、この子は比較的顔に出やすいタイプか。
わかりやすくていいな。そう思っていると、若干小さく叫ぶという器用なことをしながらこちらに詰め寄ってきた。
「山賊がいましたの?! ああ、ますます絶望的に……って山賊ですの?」
「山賊だったな」
今度は逆に二歩ほど後退りする。
「……貴方、もしかしてアジュと関係ありますの?」
「なんだ、アジュの知り合いか? ふう……お嬢様の家出って所か。さっさと帰った方がいいぞ」
「帰れるものなら帰りた……い、いえ、なんでもありませんのよ!」
「ん? なんか訳ありか?」
「なんでもありませんわ!」
あ、目が泳いでるし、なんか冷汗も出てるような。若干青ざめているし。
これは、完全に把握したな。その上でこれだけわかりやすいと腹芸も出来なさそうだ。
この性格だと、アジュやその友人を陥れるような事をしようとしてもすぐに態度にでるだろう。
うん、この少女にはアジュやその友人を攻撃するような真似は無理だ。すぐに態度に出てばれる。
俺は、この少女がアジュへあのような攻撃をしたとは考えにくいと判断する。
まあ、彼女が俺が把握しているとわかっていて演技しているなら大したものだが、
そうなるとわざわざ証拠をつかませるようなことをするかという問題がでるしな。
「……なるほど」
「……なんですの?」
俺は一言だけ呟き沈黙する。
そのままでいると、その沈黙に耐えられないのか彼女から声を出す。
「ま、いいか……。君が街に戻りたくないのはわかった。ではここで一つ提案があるが」
「……な、なんですの?」
警戒を崩さぬまま聞き返す少女に俺は指さし指で彼女を示した後今度は俺自身を示す。
「君、俺を雇わないか? レストアまでなら護衛してもいいぞ」
「……へっ? 貴方、ライグニットにむかっているんじゃないの?」
「まあ、依頼自体は仲間が達成しているだろうしな。それよりも山賊が出る街道に一人で行かせるのは気が引ける。
依頼って事にしておけば、仲間たちも納得するさ」
「……私、そんなにお金持っていませんのよ?」
「必要経費+αでいいさ」
「……そんなこと言って途中で裏切ったりしませんの?」
「そんなことしても俺になんのメリットもないぞ。俺は『蒼い稲妻亭』所属の冒険者だからな。正しく依頼を受けるさ」
その言葉に、少女は深く考える。俺はとりあえずは口を挟まず待つことにした。
彼女はやがて頷いた。
「わかりましたのよ。お願いいたしますわ」
「交渉成立だな。じゃ、よろしく。あ、俺はヨキっていうんだ。君は?」
「……ディアナですのよ」
こうして護衛任務を始めて2日経つ。
初日のうちにイルミに状況を連絡し、情報共有。
彼女たちとは俺がレストアに戻った後、転送でライグニットに行き合流することにした。
イルミたちはその間、簡単な採集や討伐任務をするとの事だった。
俺とは言うと、護衛対象であるディアナと雑談しながらレストアはの街へと歩き続ける。
まあ言うほど危険があるわけでもない。
変わったといえば街道を歩いていると途中、何名かのプレイヤーともすれ違ったことだ。
プレイヤー人口が増えていることを実感でき、なんとも嬉しくなってくる。
やがて俺が山賊と戦った場所付近を通る。
ゲームだからか、放置した壊れた武器などはすでになく、戦いの残滓は一切残っていないように見えた。
周囲をきょろきょろと見回すと思わず呟いた。
「……ここで戦ったんだがなー。見事何もないな」
「この辺は衛兵が見回りしていますのよ。確か、ある程度の街道整備も任務のうちですのよ。彼らが片付けたのではないでしょうか」
「はー、なるほど」
この二日間で多少は気が緩んだのか、ディアナは普通に会話してくれている。
始めの方は何を話すにも、少し考えて話していた。それがなくなっただけでも十分やりやすかった。
そんなことを思っていると、ふとディアナが立ち止まる。
「どうした?」
「……なにか聞こえた気がしたのですが。気のせいだったみたいですのよ」
「ふーん?」
ディアナが何か気になると言い出した。
と、なると、イベント的に何かある可能性はあるか。
俺も耳を澄ます。すると何かの気配と言うか、音が聞こえた気がした。
「確かに聞こえたな……こっちか?」
「あ、ちょっと待ってくださいの」
俺が音の方向へ向かうと、慌ててディアナも後ろをついてくる。
しばらく進むと天然の洞穴のような場所があり、そこにロープに繋がれた馬が2頭放置されていた。
馬たちの周囲には草はなく、すでに食べつくしてしまったらしい。
「これ、盗賊たちが乗ってた馬か?」
「そうなんですの?」
「7人ほど倒したからな。移動に馬を使ってたとすると、馬が余ったか?」
「貴方、見た目より強いのですね」
「見た目よりは余計だぞ」
軽口を言い合いながら、俺は状況を確認する。
「……いい案思いつきましたわ。この馬、私たちで頂きませんの? 移動が楽になりますのよ」
「あー。このままにしても馬が餓死するだけだしな。いい案ではあるか。……俺が馬に乗れたらだけどな」
残念ながら俺は乗馬スキルは持っていない。
まあ、とりあえず馬を開放するかと、紐を外す。
馬たちは、拘束が解けたことを認識すると。草がある場所へ向かうと食べ始めた。
「これで一安心か」
「貴方って実はお人好しだったりしますの?」
「心外だな。俺にデメリットがあったらやらないぞ」
「あ、そうですの? じゃあ私の護衛ってメリットありますの?」
「若干のお金とギルドからの信用が得られる」
「あ、そうですの……」
……ん。なぜそこで声が小さくなる?
あ、追放された人間を助けたところで信用は得られないか。
納得はするが、そこで落ち込まれても困る。
まあ、これ以上考えても仕方ないか。
さて、やることやったし街道に戻るかと移動を始める。
するとそれに気づいたのか、2頭の馬がこちらに近づいてきた。
「……? ん?」
「あら。これは懐かれたようですのね」
ディアナがそう言って馬に触る。
馬は特に嫌がりもせず受け入れているようだった。
俺もなんとなくその様子を眺めていると、ディアナがこちらに振り向いた。
「この子たちなら大丈夫そうですの」
「? なにが?」
「乗馬の練習しません? 私が教えますから」
「! いいのか!?」
乗馬に限らず、移動手段の確保の重要性は嫌と言うほど理解できた。
ここで覚えられるのは非常にありがたかった。
俺の勢いにディアナは若干引き攣った笑顔を浮かべながらそれでも頷いた。
「ええ。いいですの」
「助かる!」
結局その場で乗馬の練習が始まり、半日ほどでようやく馬を歩かせる程度はできるようになった。
後は、慣れていけばいいとなり、街道に出るとゆっくり歩かせる。
「ディアナ、助かったよ。これで移動が楽になる」
「ちゃんと世話もするんですよ」
「それは勿論だ」
なんとなくディアナも精神的に落ち着いた気もするな。
突然追放されて行く当てもなくだと、精神的に参って当然。
期せずしてアニマルセラピーみたいな事になったかな。
後は、ディアナがレストアに着いた後の処遇か。
……そろそろイルミたちに相談するかな。




