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3-9話 街道を歩き続けました

1日目は何事もなく終わり。ルームに戻る。


『おかえりなのじゃ』

「ただいま」


いつものようにミリンが出迎えてくれ、俺もそれに気楽に返す。

俺の姿を上から下まで見ると、ミリンが聞いてくる。


『結構アイテム持ったのう。そろそろルームボックスを買ったらどうじゃ?』

「ルームボックス?」

『ゲーム内アイテムをルームに収納するアイテムじゃ。別に直接おいてもいいのじゃが、ボックス使えば整理がしやすくなるのじゃ』

「なるほど……」


確かに便利そうだ。それにここに置いておけばアイテムロストを防げるわけで、全滅に備えて予備装備は必要かもしれない。

しかし……


「買うって。リアルマネーか?」

『リアルマネーなのじゃ。300個収納出来て1個20円なのじゃ』

「……買うか」

『毎度ありなのじゃ』


20円ならうまい棒1本分だしな。気軽に払える金額ではある。

月額料金取ってて追加で払うのもどうかと思うが……


『言いたいことはわかるのじゃが、ルームは扱い的にはリアル側じゃからな。ゲーム内通貨を使用できない関係でリアルマネーにせざる得ないのじゃ』

「言い訳に聞こえるが……装備は持ってきてるのにな」

『ま、いいわけじゃな。だが便利ではあるが、必須ではないからのう。その代わり金額設定は抑えておるという事で納得してもらえると嬉しいのじゃ』

「まあ、いいけどな」


家具とか買ったらリアルマネー要求されるのか。

ゲーム内の家具とか持ち込むかな。できればだけど。


『あ、一応言っておくがの。ゲーム内のアイテムを持ち込めば、家具とか飾る分にはリアルマネーは必要ないのじゃ。ある程度買えるようにはしておるのじゃがのう』

「なるほどな……」


そういうところは良心的か。しかしルームはリアル側か……


「なあ、ミリン」

『なんじゃ?』

「勉強用の参考書とか売ってないのか?」

『? 今の所はないのじゃが、運営に聞けば準備してくれるかもしれんのう。それがどうしたのじゃ?』

「ここで勉強できないかと思ってな」


別に勉強がしたいわけではない。だが、大学には行きたいと思っている以上、嫌でも勉強は必要だった。

遊んでばかりで、テストで点を取れなくなってゲーム禁止されたら困るしな。

ミリンは目を見開き、次に頷いた。


『なるほど。そういう事なら全力で協力するのじゃ。運営には連絡を入れておくし、私は家庭教師やってもいいのじゃ』

「……家庭教師?」


俺より年齢低そうな見た目で言われてもなぁとか思っていると、

ミリンはニヤリと口の端を吊り上げる。


『疑っておるな。私はAIじゃぞ。知識なら学習すればいいだけなのじゃ』

「あー、確かに」


ゲーム用のナビ特化じゃないんだ。このAI、すごいな……


「じゃあ、準備ができたら頼むよ」

『任されたのじゃ!』


早速運営に交渉を始めたらしいミリンから目を逸らし、ルームボックスを設置する。

その中に、先ほど手に入れたいくつかの装備とアイテムを入れる。

これで、アイテムロストしても復帰は多少しやすくなるか。


そんなこんなで準備中。イルミがルームに入ってくる。

そういや常時入室許可設定にしていたな。と思いつつ置いたボックスを確認してから振り返る。

入ってきたのはイルミだけではなくバーゼスさんも一緒だった。


「ヨキ、無事に合流できそう?」

「んー。どうだろうな。流石に馬と歩きじゃ速度が違うからなー」

「そうだよね……」

「ま、ほんの3日分程度だからな、気にするな。どうなったかは後でアーカイブ見るよ」


残念そうに言うイルミに俺は笑い飛ばすことにした。

クスクスと笑い声が聞こえ、そちらに目を向けると、笑っているバーゼスさんが見えた。


「? どうした?」

「いえ、なんでもないわよ。ただ、兄妹みたいだなって。ヨキとイルミはリアルでも兄妹なの?」

「違いますよ。ただ親友ではあるけどな」

「……そうそう、そんな感じです」

「ほほーう」


あ、なんかバーゼスさんの笑いがニヤニヤに変わった気がする。

不審そうな俺の表情に気づいたのか、バーゼスさんはさらりと話題を変えてくる。


「街道のモンスターはどんな感じ? 結構寄ってくる?」

「街道を通ってる限りはあんまり。普通に歩いているだけだとエンカウントはほとんどないな」

「じゃあ、迎えにいかなくて大丈夫そうね。あっちの街で待ってるから」

「了解」


3人でそんな話をしながら過ごす。

この分だと、ルームに戻る度にこんな感じで雑談になりそうだった。



ゲームに戻り2日目。

俺の方は特に変化はなかった。谷底エリアを抜け、辺り一面草原のエリアへと入る。

この後、もう一度丘を通り抜け、街へ到着する予定だった。


一方、イルミたちが街に到着したと連絡があった。

即日、アジュの親友の潔白は証明され、陥れようとしていた王族の婚約者が国外追放処分になったらしい。

とりあえずはイベントクリアだなと思いつつ、ゆっくりと歩き続ける。


3日目。

イルミとバーゼスさんは、俺を待つ間に何やらアジュに頼まれて、そちらのイベントを引き受けたようだった。


緩やかな丘を通る街道から眺める景色は綺麗だった。

近くの森から目を向けると遠くの湖の光の反射が目に入る。


「これ、ただの観光になってるような気がするな」


薄い警戒状態は続いているが、何も起きない平和な時間が流れていた。

さらに1日経過、その景色に変化が見えた。


「……煙?」


遠くから煙が登っている一角が見えた。

どうしようかと思案するが、結局は好奇心の方が勝ることになる。


警戒しながらできるだけ静かに近づく。

その煙の発生源は、ぽっかりと洞窟がある手前だった。


そこにはピンク髪の長髪を髪留めで纏めた俺と同年代に見える少女が一人、何やら食べ物を焼いているのが見える。

よくみると何かの肉を焼いているようだった。


ここから見る限り、その少女はかなり憔悴しているように見えるが、後ろ姿のため詳しくはわからない。

装備は普通の旅人風だが真新しいのが気になるといえば気になる。

NPCの冒険者っていたかなと思いつつもなんとなく声を掛けるのを躊躇われ、しばらく観察する。

……万が一敵だったら怖い。実は強くてここまで来て全ロストは嫌だし。


その少女は何やら一人ごとを呟いていた。

その言葉にも覇気は感じられない。


「なんで私がこんなことにならなければならないのですか……。確かに、リディアには恋敵として脅威を感じていましたわ。

それとなく邪魔もしましたし……。でも直接危害を加えるなんて指示も依頼もしていませんのに、なんであんな証拠がでてくるのですか?

あんな証拠がでたら追放だってされて当然ですが、身に覚えがないのにどうしてあんな証拠がでるのですか……。

うう……私はこのまま、野垂れ死……いえ、絶対生き残って見せますわ!」


……うん。説明ありがとう。

だれも聞いていないと思って全部喋ってるな……と思いつつ今の内容を反芻する。


どうやらこの少女が、例の追放された悪役令嬢のようだった。

追放時期からすれば、鉢合わせする可能性もあるか、と思いつつ、こちらが考えていた事情と違うようで困惑する。


彼女の認識ではいじめ等はしていなかったらしい。それにアジュの出した証拠にも身に覚えがない、か。

一人でいるときに流石に嘘は言わないだろうし……証拠自体が捏造だったという事か?


と、なると、むしろ彼女を追放したい勢力がいたという事になる。


……あの男かな


俺が初めて死んだ洞窟で出会った男を思い出す。

そういえば、今回の襲撃にあの男はいなかった。

どこかで見ていたかもしれないが、どちらにしてもアジュを止めるつもりは実質なかった可能性がでてきた。

あの男がいたら、こっちが負けていただろうなと思いつつ思考を続ける。


山賊を使いアジュの危機感を煽りつつ、ワザと襲撃を失敗する方向にもっていくつもりだとしたら、

今の流れは十分に考えられる。……まあ陰謀論もいいとこだけど。


今の自分の仮説を元に考えると……つまり、この少女も被害者になるのだろうか。

そうなると、このまま置き去りは罰が悪いか。

間接的に俺も関わっていることになるしな。


……たまたま気づいた風で保護するか。仕方ない。

このまま死なれたらゲームとは言え夢見が悪い。


俺の中で考えを纏め、結論を出す。

一旦、その場から離れ、今度は音を出しながら彼女に近づいた。


「誰!」


その少女から、高めの上ずった声で誰何される。

大分緊張しているなと思いつつ、彼女の前に姿を現すことにした。


「……驚いた。女性が一人、こんなところで野宿なんて危ないな」


あえて知らないふりをしつつ、大げさに驚きを示すことにする。

さてどうしようか。

感想や誤字報告ありがとうございます。中々自分では気づけなくて申し訳ないです。

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