3-4話 今日のMMOは終わりになりました
ミキからの着信を見て、いつものように応答する。
「どうした。ミキ」
「カリタ。そっちに遊び行っていい?」
「ん、分かった」
それだけの簡潔な会話で通話が切れた。
まあ、いつもの事なので慣れた物ではある。
ミキの家族は共働きだった。割とミキが小さい時からそうだったので、うちの親が預かっていることも多かった。
その流れだろうか、ミキの両親共に遅い時はこうやってミキが遊びに来ることが多い。
まあ防犯上も一人でいるよりは良いだろうという事で、うちの両親も普通に受け入れている。
俺は、1階に降りていき、夕食を作っている母親に声を掛ける。
「母さん。ミキ、今日来るって」
「あらそう。じゃあ、夕飯増やさないとね」
とりあえず連絡しつつ、俺は自分の部屋に戻る。ぱっと目に着く所を掃除をしていると、チャイムがなった。
母が対応するから自分は片付けを継続する。
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい、ミキちゃん。夕飯もう少しでできるから、上で待っててね」
「いえいえ、お母さん。手伝いますよ」
「あらそう? いつもありがとうね」
下からはいつもの会話が聞こえる。
まあ、これもいつもの事か、と俺は自分の部屋の片づけを進める。
いくら勝手知ったるミキとは言え、清潔感は人付き合いの基本だろう。
……それにエロ本は見つからないようにしないといけないしな。
そして、大方片付けが終わる頃。
「カリタ! ご飯!」
「わかった」
ミキの呼び声に応え、俺もリビングに降りていく。
「掃除終わった?」
「そこそこは」
「ちゃんと本は隠したの?」
「そこはミキが気にする事じゃない」
当然ミキにはばれている。ばれているが隠すことが礼儀なのだ。
俺は、ミキに応え、3人で夜ご飯になる。
「そういえば、二人ともゲーム始めたんだって?」
「はい。思ったりより面白いですよ。今までで一番臨場感のあるゲームですね」
「なるほどね。あ、今日は両親は?」
「11時位には帰るって言ってました。それまでいていいですか?」
「ええ、構わないわよ」
母の質問に、ミキが答えている
本当に、ミキはうちの母と仲が良いよな。だからこそ、家に来るわけではあるけど。
そんなことを漠然と思っていると、テレビの音が聞こえる。
『本日、男性一人が野犬に襲われ重傷を負いました』
「あら、危ないわね……カリタ、ミキちゃんを送ってあげるのよ」
「わかった」
「よろしくね」
他愛のない会話。やがて夕食も終わりいつもの通り俺の部屋に入る。
そして、いつものようにゲーム機の電源を入れる。
これもまた俺たちのいつも通りだったりする。
今日は通信対戦ができるレースゲーをやりつつ時間を潰す。
「あ、今のなし! 今のなし! うっそインチキだよー!」
「ふっふっふ。もう遅い!」
たまたま取れた無敵アイテムで体当たりしつつ颯爽と抜かすゴリラ操作の俺。
お姫様キャラ操作のミキはあえなくスピンし後続にも抜かされる。
無事1位を取った俺はガッツポーズして横目でミキを見る。
「これで2勝2敗だな」
「次で決着よ。負けないからね!」
さて、ラストと、ステージ選択画面を押そうとしたとき、ふと、着信が入った。
「……あれ? 着信だ」
「珍しいね。いたずら電話?」
「さあ?」
画面を見ると、ミルシア・シード:バーゼスの文字があった。
「あ、ゲーム内のフレンド登録した人からだ」
「へ? カリタ、電話番号交換したの?」
「いや、してないな。ゲームにそんな機能もあったのかな」
どういうことだ? と思いつつも電話に出る事にする。
「もしもし?」
『おっ、本当につながった。ヨキ君で合ってるかな?』
電話越しにはゲーム内で聞き覚えのある声だった。
記憶が確かならば、この声はバーゼスさんで間違いない。
「バーゼスさん?」
『はい。バーゼスさんですよ』
「電話番号連絡してましたっけ?」
『当然してないわよ。説明書読んでいたら、フレンドとゲーム経由でこうやって通話できるって書いてあったから試してみたのよ』
「へー。そんなことできるのか」
まさか今どき説明書を真面目に読んでいる人がいるとは思わなかった。
と言うかプライバシーとか大丈夫なのか? この機能。
そんなことを思っていると、バーゼスさんの声が続く。
『一緒に遊ぼうとしたら時間合わせないといけないからね。一応ゲーム外でも通信できるようにしてるみたい』
「あ、なるほど」
『もちろんブロック機能もあるから、それ使えば通信機能はできなくなるみたいよ』
「なるほどなあ。プライバシーには配慮しつつ、遊べるようにしているわけだ」
『そうそう。そんな感じ』
なんとなく納得できる理由でもある。
とはいえ、こういう機能をゲーム側が用意するのは珍しい。
まあとりあえず深く考えないでおこうと思い、別の疑問を聞くことにした。
「それで、他に何か用事あるのか?」
「あ、そうそう。こっちのイベント終わったからヨキのイベント手伝えそうなんだ」
「え、そうなのか」
それはありがたい。プレイヤーが増えるなら、護衛イベントもやりやすくなる。
「それで、明日は午後8時以降にインする予定だけど、時間合わせられるかなと確認したかったの」
「あー……ちょっと待って」
電話を手で押さえ、隣のミキに声を掛ける。
「ゲームのフレンドが午後8時からインするらしいけど、俺たちもそれでいいか?」
「んー……ま、大丈夫だと思うよ」
ミキの承諾を受け、俺は再び電話に向かった。
「大丈夫。午後8時からで」
「りょーかい。じゃ明日よろしくー」
バーゼスさんはあっさり電話を切った。
……嵐のような人だなあ。そんな感想を得る。
ため息を一つ吐き、ふと気づく。隣のミキがなにやら不満気だった。
「……どうした?」
「べつにー。さっきの電話の人、女性でしょ」
「まあ、そうだな。ゲーム2日目に会った人だよ」
「そっかー。……じゃ、続きしようか」
そう言った後は何も言わず、コントローラーを握りなおすミキ。
一見いつもと変わらないように見えるが……こういう時は気にした方がいいよな。多分。
何が不満なのか、原因不明だがそこは仕方ない。なるようになるだろう。
そう思い、俺もゲームに戻るのだった。
結局、その後のゲームは白熱し、ミキが帰るころにはいつものミキに戻っていたのが救いだった。




