3-3話 護衛イベントを受けました
あの赤毛の女性がしゃべった所見たことなかったけど、思ったより変わった人なのかな……
そんなことをボーと考えつつ、イベントを進めるため手を挙げる。
「はい。俺がヨキですが……」
そう答えるなり、赤毛の女性はこちらを向く。
その勢いに俺は半分腰を浮かしかける。
しかし、その女性はつかつかとこちらに近づくと、頭を下げた。
「昨日は助け頂きありがとうございました」
「お、おう……、まあたまたま見かけたからな」
お礼を言うような勢いではなかったと思うんだが、まあとりあえずはちゃんと立ち上がり、改めて彼女を見る。
女性もまた頭を上げるとこちらの目をじっと見る。
意外と小柄でこちらを見上げるような態勢になっている。
「そこで貴公を信頼できる人物と見込んで依頼をしたい」
彼女は、そこまで言い、口を堅く結ぶやはり、護衛イベントの発生か。
恐らく、本当は護衛を雇いたくはないのだろう。しかし、実際襲われた今となっては必要だと考えている。
ただ、現状信用できる人間がいないため、たまたま助けた俺に白羽の矢が立ったのだろう。
しかし彼女が俺からみて信用できるかというと難しいわけで、こちらとしては信用できる所を通す必要があった。
つまり――
「ここはギルドだし正式な依頼なら、一旦ギルドを通してもらいたいのだが」
「……そ、そうだな。ただし、貴公を指名での依頼だからな。待っておるのだぞ」
ハッとしたように赤毛の女性は言うと、カウンターへ向かう。
ま、ギルドを通すなら、このイベントは受けても大丈夫だろう。と判断する。
俺は、その様子を待ちつつイルミへTELLを飛ばした。
ヨキ:なんか護衛イベントが始まるけど参加するか?
イルミ:聞くまでもないでしょ。すぐそっちに行くよ
しばらく待つが、何やらリルムの様子がおかしい。
やたら書類を見たり、女性から提出されたものの鑑定を行っているようだ。
と言うより、慎重に調べていると見ていいか。
そんなことを考えていると、先にイルミが降りてくる。
いつでも旅立てるように準備も終わっているようだ。
「ヨキ、おはよう」
「おはよう」
「護衛イベントだって? 相手は?」
「あの赤毛の女性だよ」
「んー。リルムも割と慎重に確認しているし、このパターンだとあの赤毛の人。割と偉い人なのかな?」
「かもしれないな。後は偉い人に近い人物かだな」
「いきなり大きそうなイベント引いたわね」
彼女を狙ったのが、昨日の騎士風の男だとすると、その可能性は割とあるか。
この場合だとイベントの進めすぎもレベルが足りなくなる可能性がある。
……割と、遅延させながら進めた方がいいかもしれないな。
やがて話が終わったのか、リルムは視線をこちらに向けると声を掛けてくる。
「ヨキさん、イルミさん。こちらへどうぞ」
案内された場所は個室だった。
「これは……当たりかな?」
「だよね」
割と小さ目の部屋。ただ、入ると外の音が極端に小さくなる。
どうやら、機密保持が必要な場合の部屋に連れていかれたようだった。
二人で入り、中央にあるソファに座る。リルムは立ったまま俺たちの背後にいる。
赤毛の女性と対面で向かい合う形になった。
その女性は、一つ咳払いをし、口を開く。
「改めまして。私はアジュ・スーレシアと申す者。隣国、ライグニットで宮廷錬金術師を任命されている。
……私自身は父から受け継いだだけの若造だがな」
アジュと名乗る女性はそう言って苦笑する。
「それで、護衛の依頼というのは?」
ま、相手の素性はリルムが確認している以上、自分たちが心配する必要はないだろう。
まず、イベントの内容を確認するのが先だ。
そんな俺に対し、アジュは苦笑を深めながら、一つ頷く。
「ヨキ殿に今更言う必要もないが、どうやら狙われているようでな。ライグニットへ帰るまでの護衛をお願いしたいのだ」
「分かった。イルミもいいよな」
「ええ、そうね」
あっさり頷く俺たちに、今度はアジュが目を丸くする。
「あっさり了承されるのは助かるが、何か聞きたいことはないか?」
「特に必要なないだろう。護衛するだけなら詳細は必要ないしな」
「……いいのか? それで。お前たち。不審に思ったりはしないのか?」
「その程度にはリルムとギルドを信用しているという事にしておいてくれ」
これで冒険者を陥れるようなシナリオなら、それはそれで面白いしな。
心の中でだけ、そう呟きつつ、リルムへと顔を向ける。
「リルムさん。馬車は借りれますか?」
「あ、はいはい。連絡はしていますよ。丁度ライグニットへ向かう商人がいますので、そっちに相乗りして貰えれば経費相殺できますよ」
「じゃあ、それで。他、必要そうなものがあったらリルムさんの方で揃えられますか? 後で払いますので」
「そうですね。午後までには準備しますよ」
トントン拍子で進む内容に、アジュの方が硬直しているようだ。
「……もう少し、色々聞かれると思ったのだがな」
「力量に合わない事までは聞く気ないわよ。ヨキも、私も」
イルミの言葉に俺も頷く。触らぬ神にたたりなしという風を装っておく。
どっちに転んでも面白そうだから別にいいしな。
ただし、イベントの失敗はしたくない。権力が関わりそうなイベントは難易度も難しくなりがちだ。
だから、今は最小限のコネ作りまでで終わっておくのがベストと判断している。
「私としてはその方が助かるが、若干拍子抜けだ」
アジュ自体は不可解そうな顔をしているが、こちらは気にしない。
話が終わったので、後は準備に戻るだけだった。
戻った後にまだリスナーが残っていたので、3人とフレンド登録を行い別れる。
彼らは、俺たちが言った森戸は別の狩場に向かうようだった。
また、これから俺の基本方針はアジュとは世間話程度の会話しかせずに一定の距離を保つことにする。
あまり友好度を上げ過ぎると、対応できないイベントに巻き込まれそうだった。
友好度を上げるのは、こちらのレベルが上がってからの方がいいと考える。
午後になって、行商人と合流する。
リルムからお弁当をもらいつつ、馬車の旅が始まった。
「でも、意外と何もおきないのよね」
「襲撃イベントが起きると思っていたんだけどな」
1日目こそ、ある程度警戒していたが、それらしいイベントは起きない。
たまに来る野生の狼を追い払う程度の仕事になっていた。
すっかり各種スキルの練習時間となりつつ、時間を使う。
護衛イベントって時間がかかる割に暇なのかもしれない。
「ヨキは、アジュとは仲良くしないの?」
「んー。まだ、時期早々かなと思ってな」
「結構面白いわよ。錬金術も教えて貰ってるし」
「魔術に続き、錬金術もか。頭脳労働はイルミに任せた方が良さそうだな」
「適材適所よね」
そんな他愛のない会話が出る程なにもなかった。
護衛の旅は片道7日間。まだ隣の国には到着していないが、ゲームのプレイ時間の限界まで来た。
その日の睡眠時間になると、強制的にゲームから離れ、ルームへと戻ってくる。
『おかえりなのじゃ。無事に終わったようじゃのう』
いつものようにミリンが迎えに来る。
そのミリンに俺は頷きながら、答えた。
「確かに。順調だったなぁ。なんかイベントの途中になったけど、次回ログイン時に続きからでできるのか?」
『基本は続きからじゃ。もちろん情報の圧縮があるから細部まで同じではないのじゃがな』
「そうかー。その辺も確認しながらになるのか」
『次回もミキと一緒にログインすると助かるのじゃ、整合性取るのに楽じゃからのう』
「わかった。……そろそろ時間か。じゃ、また明日」
『必ず来るのじゃぞー』
再び、意識が一瞬途切れ、目の前にはVR用のゴーグルの内側が見えた。
あー、凄いゲームだったなぁ。これは明日が楽しみだ……。
そんなことを思っていると、スマホに着信が入る。
このタイミングで鳴らす相手は一人しか知らない。
表示にはミキの名前が映っていた。




