奇妙な旅人-01
アスティア大陸の西南、ラール高原を抜けた先に広がるのは、“人食いの砂漠”と呼ばれる水砂漠“ナダル”であった。
このナダル砂漠を越えた先に、“繁栄の都”とも呼ばれる“聖都シュオール”がある。
貿易が盛んな国シュオールは、東をナダル砂漠、北を“キタル”山脈、南を“シュルム”渓谷に囲まれ、アスティア大陸の中にありながら、陸路ではなかなか辿り着くことができない幻の国とも呼ばれていた。
国の西に面した大きな港から、シュオールの人々は他国との貿易を中心に栄えているのだった。
そんなシュオールへと続く水砂漠の上を、小さな影が重さを感じさせない足取りで、ひょこひょこと歩いていた。
走っては立ち止まり、楽しそうに足下の砂を持ち上げては手の平から零して遊ぶ。そうしてまた立ち上がると、たたたたっ――と走ってゆき、今度は立ち止まって後ろを振り返った。
後ろからやってくる影に満足そうに頷き、また小さな影はたったったっと走り出す。
ふと――小さな影は立ち止まり、不思議そうにそれを眺めた。
水砂漠へと横たわるそれは、ピクリとも動かない。
小首を傾げ、頭を左右に振りながら暫く考えていたが、そうっと小さな影はそれへと近づいていった。
水砂漠に横たわっていたそれは、人の姿をしていた――。
旅用の長いフードの隙間から、ピンク色の淡い髪がふわりとこぼれ落ちる。
小さな手の指で、横たわる人影をつつく。
すると、死体のように見えたそれが微かな呻き声を上げた。
驚いた影が、後ろへと向かって走り出す。
「リィースさまぁ~~~!!!!!」
走った勢いでフードが捲れ、淡いピンク色の髪が露わになった。
丸い顔立ちはまだ幼く愛らしい。十歳前後に見える少女の、淡くカールした髪の隙間から除くのは、白い羽根に覆われた、鳥の羽のような形をした耳であった。
走って抱きついてきた身体を抱き留めながら、“リィース”と呼ばれた大きな影が、そのフードを外す。
漆黒の髪と、深く青い瞳――。
額に布を巻いた二十歳前後の青年は、酷く整った彫りの深い顔立ちをしていた。
綺麗な顔の左頬に、赤い傷跡のようにも見える三本の爪痕に似た入れ墨が刺されている。
「リィースさまあ~~」
半泣きになった少女を、青年は片腕に抱え胸元まで持ち上げた。
「泣くなファル。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」
「この人ねっ、生きてるのっっ。ううって言ったもんっ」
「そうか…生きてるのか……。またやっかいなもんを拾ったなぁ…ファル――…」
「リィース様――」
青年の言葉に、後ろで控えるようにして立っていた男は咎めるように青年の名を呼ぶ。
「ファルを甘やかせないで下さい。子供でもあなたの従者なのですから――」
言われ、青年は軽く肩を竦めた。
「はいはい。本当にお前は頭が固いなぁリュゼ。餓狼族の連中は生真面目なのが多いが、お前はまた特別だぞ?」
「何とでもおっしゃって下さい。それよりも、そこの人間を拾うのであれば、私が抱えていきますが…いかがなさいますか――?」
男の言葉に、青年はニヤリと笑う。
「仕方ない。ファルが拾ったんだ。まだ生きてるようだし、連れて行ってやろうか――」
男は 青年の言葉にスッと頭を下ろした。
アスティアの空に浮かぶ二つの太陽は、まだ頭上高くにある。水砂漠に立ち上る陽炎の中を、一向は聖都シュオールへ向けて、ゆっくりと進んで行った。
第二章です。
まだまだ触り部分です。




