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エントゥリアスの騎士  作者: 日向 聖
第二章 聖獣の契約者
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奇妙な旅人-02

 水砂漠は、水面のように刻一刻とその様相を変える。

 流れる風に吹かれ、砂が波のようにうねりながら縞模様に色を変える砂丘を越えていった。

 踏みしめる度に砂はザクザクとした音を立て、地表へと湧き出してきた水が足を濡らす。水を含んだ砂は重く旅人の体力を奪い、照りつける太陽により蒸発する水は湿気となって旅人を襲った。

 だが、水砂漠が“人食い砂漠”として恐れられるのはそんな理由からではない。真に怖いのは、砂漠の地下に広がる空洞である。

 水砂漠の地下に広がる空洞は水の流れと共に動き、時に蟻地獄のようにして足下の砂が崩れ、人が地下へと引きずり込まれるのだ。

 予測のできない空洞は砂漠を旅する人間にとり、盗賊よりもずっと恐れるべきものであった。

 広大な水砂漠の中には、幾つか“神の庭”と呼ばれるオアシスが点在している。この“神の庭”だけは、どれだけ砂漠が姿形を変えようとも、一切そこから動く事はなかった。

 一年中木々と花が咲き乱れ、水の湧き出る小さな神の庭。

 だがしかし、神の庭周辺に、人々が村や町を作る事は一切なかった。

 何故なら、水砂漠の中で動かぬのは“神の庭”だけなのだ。一歩でも庭から出てしまえばそこは、常に流動し蠢く砂漠であるのだった。

 そんな庭の中でも、シュオールからやってきた商人が、根性逞しく小さな露店などを開いている。

 水砂漠の東からやってきた奇妙な三人連れの旅人は、よくよく見れば、一人の肩にほっそりとした影が担がれており、どうやら四人連れであるらしかった。

 小さな影、ファルは物珍しそうに露店の品物を一つ一つ覗いている。

 「お嬢ちゃん、これはどうだい? 遙か北の国“ムスリル”より入った品物だよ」

 そう言って店主が差し出したのは、象嵌の施された銀色の円筒だった。

 「ほら、そっちの小さな穴から中を覗くんだ」

 言われ、ファルは朱色の瞳で円筒を覗く。

 「わあ、きれい――!」

 筒の中には青や赤、色々な色の小さな石が入れられており、それらが筒の中で綺麗な模様を描いていた。

 「そうだろ。はは、だけどそれだけで驚いちゃあいけない。そのまま筒をゆっくりぐるぐると回してご覧な」

 店主の言葉に従って筒を回すと、模様が次々と変わり、入れられた石がキラキラと光輝いた。

 「きれいきれい!」

 はしゃぐにファルに、少し離れた場所で別の露店を見ていたリィースが近づいてくる。

 「どうしたファル。何か気に入ったものがあったのか?」

 リィースの姿に、店主が気をよくして笑った。

 「お客さん達は運がいい。お嬢ちゃんが選んだそれは今日入ったばかりの品なんですよ」

 ファルが手にしている物に、リィースは頷く。

 「万華鏡か――。どこ産のだ?」

 「“ムスリル”ので――」

 ファイルの手にしていたものが万華鏡であるとすぐに気づいたリィースに、店主は手を揉みながらそう応えた。

 「ああ、あそこの品物ならいいな。ガラスじゃなく、小さく崩れた宝石を使っている。幾らだ?」

 「本当なら600ネイになるんですが、そちらのお嬢ちゃんが気に入ってくれたようなので、500ネイで結構です」

 「そうか。なら――」

 「高いですよ」

 リィースの言葉を遮るように、冷たい声音がそう言った。

 「リュゼ――」

 肩に大きな荷物を担いだリュゼは、疲れた様子も見せずにリィースを見下ろしている。

 「ムスリルの品とはいえ、500ネイは高すぎです。それ位の品ならば、せいぜいが200ネイ程度です。簡単に騙されないで下さい」

 「――っいやお客さん、それはあんまりな言いようで……っ!」

 見下ろしてくる銀色の冷たい瞳の瞳孔が、光に収縮し縦に黒い筋となっているのを見やり、店主は途中で言葉を濁した。

 相手が獣人だとわかり愛想を浮かべる。

 「ここいらでは滅多に入らない品なので、ちょっと高くつくんですが、せっかくですし、お客さんのおっしゃる通り200ネイで結構ですとも――」

 態度を翻した男に、リィースはガシガシと頭をかいた。

 「ファル、それ気に入ったのか?」

 ココリ――と小さな頭が頷く。

 「なら店主、250ネイでそれを買おう」

 「リィース様っ!」

 「いいじゃないかリュゼ。買おうとした時の半分になったんだ。ファルも気に入ったみたいだしな」

 リィースの言葉に溜息を吐き、リュゼは懐から銭袋を取り出した。

 「代わりと言ってはなんだが、店主この庭で人を休ませるならばどこが良い?」

 「あ、はいっ。一番奥にある大樹の傍が良いかと。そこなら清水が湧き出ておりますし、夜の獣に襲われる心配もありません」

 店主の言葉に頷き、リィース達は金を払って奥の大樹の元へと足を進めた。

 店主の言う通り、大樹のすぐ傍では清水が湧き出しており、辺りには清涼な気が満ちている。

 リィースに言われ、リュゼはその木陰に、いささか乱暴な仕草で担いでいた人間を寝かせた。ファルが清水を汲み、乾いて荒れた人間の唇に水を含ませてやる。

 すると、瞼が微かに痙攣し、ゆっくりと瞳が開かれていった。

リィースがかなりおおざっぱな性格なので、リュゼが苦労する…と言った感じです。ファルの事は、リィースが猫かわいがりしています。

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