奇妙な旅人-03
ざめく木々の音と梢からこぼれ落ちる光――。
吹き抜ける風が肌を撫で、夏はまだ終わらなかったのか…と遠矢は思った。
遠くで友人たちが自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
『遠矢! そんなとこでサボってんなよっ』
『これ以上サボると、“脳筋”北原が怖えぞぉ!』
『ばあか。遠矢なんてとっくに目ぇつけられてんよ』
ダボダボのジャージを着て、裾や袖を適当に巻き上げている友人達の姿を思い、遠矢は唇にうっすらと笑みを浮かべる。
「目が覚めたのか?」
耳元近くで聞こえた、良く通る声音に、ハッ――と遠矢は瞳を開いた。慌てて身体を起こそうとして、グラリ…と視界が歪む。
「――――っっ」
「落ち着け。慌てて起きるな」
起き上がった肩に触れた手が、ゆっくりと遠矢の身体を横にさせる。
目眩が落ち着くのを待って、遠矢はそっと瞳を開けた。
梢からこぼれ落ちる光に瞳を細め、辺りを見回す。
その視界に、突然ピンク色の花が咲いた。
「――!?」
瞳を何度か瞬かせると、それが花ではなく、風に揺れる髪だという事が解る。
「ファルっ」
慌てる声と共に、今度は幼い少女の顔が視界に広がった。
大きな朱色の瞳が、あどけない瞳で遠矢を見下ろしてくる。
少女は可愛らしく小首を傾げ、小さなピンク色の唇を開いた。
「ファルがひろったの。だから、ファルのだからね?」
「え――???」
驚く遠矢に、ファルと名乗った少女の背後から、ニヤリ…と笑った青年が顔を覗かせる。
「こおら、ファル。まだソレはお前のだと決まったわけじゃないぞ。他に飼い主がいなかったら…だ――」
青年の言葉に、少女がむうっと唇を尖らせた。
「そんな可愛い顔をしてもダメだ。探してるやつが居るかもしれないだろう?」
そう言って聞かせる青年の声が耳に心地よく、遠矢は再び瞳を閉じそうになる。
冷たい手の平が遠矢の瞳を覆った。
「身体が辛いならそのまま寝てろ。次に起きた時には、もう少し楽になる――」
声に導かれるように、遠矢の意識は再びゆっくりと沈んでいった。
次に目を覚ました時、辺りはもうすっかり暗くなっていた。
近くで焚かれる篝火と、いつの間にか近くに集まってきていた人々の話し声とに遠矢は瞳を瞬かせる。
「目が覚めたのか? 起きられそうなら、起きて飯を食えよ。そのまま寝てても、体力が無くなるだけだからな――」
酷く口が悪いが、男が心配してくれているのが分かり、遠矢はだるい身体を起こす。
「…ここは?」
起き上がってそう青年に尋ねると、焚き火の方を向いていた彼が、焼いた肉を手にして振り返った。
「――――ッ」
赤々と篝火に照らされた美貌に、思わず息を詰める。
女性的――というのではなく、どちらかというと野性的な男性の顔立ちをしているのに、その顔には“美貌”という単語がぴたりと当てはまっていた。
細面の顔に、印象的な赤い頬の刺青。怪我を負っているのではないか…と思えるようなそれは、だが青年の美貌をなんら損なう事はなかった。
どうしても目を引きつけられてしまうその顔で、青年がニヤリ――と笑う。
「なんだよ? この貌がそんなに珍しいか?」
「いや…あの…っ」
「冗談だ。それより食えよ――」
肉を焼いていた串ごと渡された遠矢は、慌ててそれを手に取った。
肉の良い香りが空腹を刺激する。
「あ…あのっ」
とんなに若く見えても、かなり年上なのかも知れない…と学習した遠矢は、失礼にならないよう言葉を選んで話す。
「ここは…どこですか? 俺の連れがどこに居るのか知りませんか!?」
一息に言われ、ガシガシと青年は頭をかく。
「お前が倒れていた近くには居なかったな」
「そう…ですか……」
「――俺の名は、リィースだ。お前は?」
「トーヤ…です……」
リィースは、自分の分の肉を囓りながら、少し離れた場所に座る男と少女を指さした。
「トーヤ。あのデカイのは“リュゼ”と言う。そしてお前を拾ったのが、リュゼの膝で寝ている“ファラ”だ」
豪快に肉を噛み千切りながら、リィースはその青い瞳を遠矢へと向ける。
「で、トーヤ。お前は一体何者だ?」
「っ――…」
「この水砂漠のど真ん中に、そんな格好で倒れていながら、生きているって事が不自然過ぎるんだよ…ボーヤ――」
笑っていない眼差しに、ギュッ――と遠矢は奥歯を噛みしめた。
短いですが…一応アップします。
次は、この話の続きと番外編をアップしたいと思っておりまずか…どうなりますか……。もしかしたら、どちらか片方だけ…という事になるかも知れません。
取りあえず、少しでも読んでもらえるように頑張ります。




