政略結婚は、幸せの第一歩?
「ばかな、アイリーンはまだ3歳です」
アシュレーン王グラッドに、彼の息子との縁を打診されたガッシュタルト王ビクトールは、思いっきり渋い顔でそう返すが、グラッドはそれに対して、
「ジョナサンは6歳だ。年恰好は充分似合いだと思うが」
と、退く気配はない。
「何も、今の貴殿から奪おうと言うのではない、もちろん、成婚は二人が成人した後だ。それでもダメか」
「しかし……なぜ、私の娘を」
「何故というか……では、率直に言おう。俺は貴殿の力がほしい。アイリーン姫は、貴殿と奥方の素質を受け継いで、相当な魔力を持つと聞く」
ビクトールは、その言葉を聞くと、
「我が娘アイリーンを手中に納めても、あなたの魔力は1クロル(約1.2ml)も増えませんよ」
と言って、グラッドを睨み据えた。
「確かに俺の魔力は増えんかもしれんが、孫の魔力は増えると思うのでな」
だが、グラッドはそれをどこ吹く風でそう答える。だが、
「そして、世界を手中に納めるおつもりですか?」
と言い出すビクトールに、グラッドは吹いた。(世界征服ときたか。まぁ、そんな野望を抱く奴もいないではないがな)そして、
「世界征服? ないない、そんな気なんか。寧ろその逆だ。国と国とが縁を結べば世界は丸くなる。
実際、ガッシュタルトの姫君もグランディールに嫁いでいるのだろう」
「はい、私もそれが縁でエリーサ様と知り合いましたが……」
グラッドにそう言われて、ビクトールは言葉を濁す。ビクトールは元々グランディール出身の入り婿だ。グランディール王子コータル成婚の際、護衛を務めたことが縁で当時ガッシュタルト王女、エリーサと知り合い結婚したからだ。
「ならば、その輪の中にアシュレーンも加えろといってるのだが」
「ですが……」
「魔力的に釣り合わぬ物は沿えぬ……か。
確かに貴殿は三男で、そのことで家族とは相容れず、苦い思いをしたのであったな。
だが、ガッシュタルトではそうではなかろう。アイリーン姫にしても、こちらが乞うて来てもらうのだ。間違いないく大切にするぞ」
「……」
ついにビクトールは沈痛な表情で黙ってしまった。それを見て、チーズは、
「うふふ無理ですよ、グリーン様」
と、グラッドに言う。
「何が無理なのだ」
「今でも奥方様そっくりにお育ちのアイリーン様をパトリックがおいそれと手放せる訳、ありませんもん。そこに理由なんてないんです。
だって、フレンだってそうですもん。ザック様(アイリーンの兄)とアンジュが[テレビ電話]してると、不機嫌になるなる」
娘を持つ男親なんてみんなそんなもんですよと、ころころ笑う。
「パトリック、側に置きたい気持ちはわかるけど、いつまでもそうやっているわけにもいかないじゃん。早めに腹を括っといた方がいいと思うよ」
続けてそう言ったチーズに、ビクトールは、
「しかし、市井ならともかく王室ではおいそれと会えないじゃないですか」
先王が私を宰相にしてまで婿養子にした気持ちが今よーく分かるんです。と、完全に涙目でチーズに訴える。
「いや、貴殿ならできるだろ。今もこうしてここにいる」
「それは、ここが貴族とは言え、一般のお宅だからですよ。お城とは違います。もし見つかりでもしたら……」
国家問題ですよと、ビクトール。
「直接姫の部屋に行けば誰にも会わん。どうせ、お付きの侍女はガッシュタルトから連れてくるのだろう。誰に見られるというのだ」
それに対して、笑いながらそう返すグラッド。
「それでも……ダメです」
「何がダメなんだ」
「ダメといったらダメなんです!」
そんな押し問答を数度繰り返した後、アシュレーン国王子とガッシュタルト国王女の婚約が密やかに決まった。
そしてこの後、アシュレーン・ガッシュタルト両国は蜜に関係を持ち、魔法道具は飛躍的に進歩することになるのだった。
同時に、チーズ・カマンベール・レ・ロッシュも、そんな魔道具の開発者の一人として、大いに世界に貢献することとなる。
The End
以上をもちまして、「Cheeze Scramble」完結です。
実は、短編時、千鶴はフレンの医療補助をする設定で書いていたんですが、このアシュレーン王グラッドの、
「アシュレーン、ひいてはオラトリオ全体を魔法で発展させたい」
という声が連載時、日に日に大きくなりまして、千鶴はどんどんと新魔法開発、そしてその指導に駆られていくことになりました。
そして、この先千鶴の娘アンジュと、ビクトールの娘アイリーンが二人でよって集ってとんでも魔法を量産することになるんですが、それはまた別の機会に。
それでは、この辺で。お粗末様でございました。




