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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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98話 終わる形

足場の崩れる音が、もう間を置かずに続いていた。


雪那の氷は薄い。

縁を噛ませてもすぐ白く濁り、圧が触れた瞬間に砕ける。

支えるというより、落ちるまでを遅らせているだけだ。

それすら、もう長くは持たない。


ルナリアの指が上がる。

一点。

広域。

遅れて細い二段目。


俺は入る。

一歩。

二歩。

切る。

戻る。


その戻り先へ氷が来ない。


雪那の生成が、半拍遅れた。

足場の端が崩れる。

俺は踏み切る角度を変え、どうにか外へ流れる。

だが、そのせいで次の圧を読む位置が半歩ずれた。


まずい。


そう思った時には、ひなたの足元へ圧が落ちている。

ひなたは避ける。

避けた先が消える。

大鎌を支えにして無理やり身体を捻るが、今度はその柄ごと押し流される。


「っ……!」


ひなたの片足が完全に足場を外す。

雪那が氷を差し込む。

薄い。

砕ける。

ひなたの体がさらに沈む。


凛が入った。

細剣を突き、ひなたの腕を引き上げる。

引き上げきる前に、次の圧が来る。


凛は避けない。

避ければひなたを離すことになる。

その判断のまま、肩口へ重さが落ちた。


鈍い音がして、凛の身体が大きく沈む。

細剣を握る腕が揺れる。

それでも手放さない。

ひなただけは引き戻す。


だが、その代わりに凛の膝が落ちた。


「凛さん!」


ひなたが叫ぶ。

凛は返事をしない。

返す余裕がない。

肩口を押さえる暇もなく、次の圧を避けるために体勢だけを作り直している。


雪那の氷がまた足場を繋ぐ。

今度は一枚も持たなかった。

出した瞬間に、砕けた。


雪那がわずかに息を詰める。

その表情だけで分かる。

もう限界だ。


ルナリアは静かにこちらを見ている。

虚ろな目のまま、落とす位置だけがやけに正確だった。


「終わるのう」


その声と同時に、圧の密度がまた上がる。

空域そのものが低くなる。

立つ場所がさらに狭くなる。


俺は踏み込む。

だが、前へ出ながら自分で分かる。

遅い。

間に合う形じゃない。


凛を助けるか。

ひなたを支えるか。

雪那の足場を残すか。


三つ並ぶ。

今回も全部失敗だ。


しかも、もう順番の問題じゃない。

誰を先に選んでも、残った二人を支える足場が消える。

一つを救えば二つが死ぬ。

その先で、救った一人も結局落ちる。


逃げ道が閉じた。


ひなたが後ろへ跳ぶ。

足場がない。

雪那の氷は出ない。

凛が手を伸ばす。

届かない。


その全部が、異様なくらい綺麗に並ぶ。


ここだ。


頭の奥で、そう理解した。


呼吸。

足運び。

視線を切る長さ。

ずれたまま崩れない形。

失敗が一つに収束する位置。


今まで探していたものが、ようやく同じ場所へ揃う。

だが、それを整えたからといって助かるわけじゃない。

助かる形はもうどこにもない。


俺は一瞬だけ、凛の方を見る。

肩は重い。

雪那の氷は来ない。

ひなたは落ちる位置にいる。


普通なら、ここで最短を選ぶ。

少しでも助かる可能性のある方へ踏み込む。

だが今回は違う。


最短を選んでも、全員死ぬ。


だったら――


俺は踏み込みを、わずかに遅らせた。


ひなたへ届くには遅い。

凛を支えるには遠い。

雪那の足場を残すには何もかも足りない。


それでも、その位置へ入る。


ひなたの目が見開く。

凛が何か言おうとする。

雪那の視線だけが、一瞬だけ俺を射抜く。


もう戻れない。


ルナリアの指が上がる。

圧が落ちる。

広く、深く、逃げ道ごと呑む圧だ。


俺は視線を切る。

ひなたを見ない。

凛も見ない。

雪那の足元も見ない。

ただ、呼吸だけを整える。


吸う。

止める。

吐く。


一歩目を浅く置く。

二歩目で入る。

ずれたまま、崩れない形を作る。


その先に、確定した失敗を置く。


来い。


心の中でそう思う。

今度は願いじゃない。

呼び込むみたいに、はっきりと。


圧が落ちる。


ひなたの足元が消える。

凛の体勢が崩れる。

雪那の最後の足場が割れる。


全員が同じ方向へ沈む。


もう、助からない。


その認識だけが静かに固まる。

今度は迷わない。

可能性も残らない。

選び直しもない。


これが、終わる形だ。


音が消える。


圧の落ちる気配だけが、やけに鮮明になる。

視界の端から色が薄れ、届かない指先と、崩れていく三人の位置だけが、異様に遅く見えた。


ひなたは咄嗟に大鎌を離しかけて、最後に握り直した。

凛は沈む膝を無理やり立て直そうとし、雪那は砕ける氷をなおも重ねようとする。

全員がまだ諦めていない。

だからこそ、余計に分かる。

その全部が、もう遅い。


俺だけが知っているんじゃない。

たぶん身体のどこかが、先に理解している。

ここで外せば、もう二度と触れない。


今だけは。

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