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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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95話 一本だけの失敗

次の圧も、通せるはずだった。

そう思える形だけは、まだ残っていた。


一歩目を浅く。

二歩目で入る。

深くしすぎない。

ずらす。

ここまでは、もう身体に入っている。


俺は踏み込む。

短剣の切っ先がルナリアの喉元へ届く。

圧が落ちる。

予定通りに切る。

戻る。


戻り先で、足場が沈んだ。


雪那の氷が差し込まれる。

だが、その氷ごと押し潰される。

踏み切れない。

半歩足りない。


横へ切れば助かる。

その代わり、ひなたの着地点が消える。


前へ出ればひなたは助かる。

その代わり、凛の退路が塞がる。


戻れば雪那の足場が消える。


三つ並ぶ。

全部、失敗だ。


ひなたが跳ぶ。

跳んだ先へ、二つ目の圧が浅く流れる。

凛が入る。

細剣を突き、着地をずらす。


ひなたは落ちない。


その代わり、凛の足場が消えた。

交換みたいに、別の死が立ち上がる。


俺は凛へ向かう。


その瞬間に分かる。


遅い。


凛を引けば助かる。

その間に雪那の氷が割れる。

雪那を支えれば、ひなたの次が消える。


順番まで見える。


どれを選んでも、同じ形になる。


凛は身体を捻る。

細剣を床へ噛ませ、角度だけを変える。

潰れなかっただけだ。

位置は変わっていない。


ひなたが息を乱したまま言う。



「今の、もう駄目だと思いました……」



返せない。

喉が動かない。

ただ見ているだけだ。

今はまだ駄目だ。


まだ動ける。

だが、動いた先が全部同じ終わりに繋がっている。


ルナリアは静かにこちらを見ている。

虚ろな目の奥で、別の何かだけが薄く笑っていた。



「鈍いのう」



その声が近い。

距離は変わっていないのに、終わりだけが寄ってくる。


次が来る。


細い圧。

一直線に裂き、その外側を遅れて潰す。


俺は読む。

横へ切る。


そこへ、ひなたが動く。

正しい回避。


だが、正しい先が死ぬ。


止まっても死ぬ。

動いても死ぬ。


踏み込む。


ひなたを引けば助かる。

その次に凛が無理をする。

凛を助ければ雪那の氷が尽きる。

雪那を残せば、ひなたが落ちる。


残りがない。


身体が止まる。


分かっている。

どれを選んでも同じになる。


それでも足は出る。


俺はひなたの手首を掴み、引く。

圧がさっきまでいた場所を抉る。


その直後、凛の足元が沈む。


凛は避ける。

だが浅くない。

一段深い圧が膝下を掠め、身体が泳ぐ。


雪那の氷が入る。


薄い。


見た瞬間に分かる。

足りない。


氷は支えきれず、ひび割れたまま沈む。

凛は細剣で身体を逃がす。


その代わり、雪那の足場の端が崩れる。


雪那が一歩下がる。

そこに氷はない。

次が来れば落ちる位置だ。


ひなたが叫ぶ。



「雪那さん!」



凛が体勢を戻すより先に、広い圧が来る。

凛と雪那をまとめて呑む位置。


俺は動く。


もう分かっている。


凛へ行けば、雪那が落ちる。

雪那を支えれば、凛が潰れる。

両方へ届くには半歩足りない。


半歩。


それが埋まらない。


俺は凛へ踏み込む。

細剣の柄を掴み、引く。


その瞬間、雪那の足元の石が砕ける。


落ちる。


雪那は氷を噛ませる。


薄い。

小さい。


支えない。

遅らせるだけだ。


形は変わっていない。


全員が同じ位置にいる。

終わる位置にいる。


ひなたは掌から血を垂らし、大鎌を握る力が落ちている。

凛の足運びは重い。

雪那の氷は、もう一枚も支えきれない。


このままなら、ではない。


もう決まっている。


さっきまで見えていたのは可能性だった。

今見えているのは違う。

選び直しても変わらない、一本だけの失敗だ。


助ける順番も、崩れる順番も、最後に残る失敗も、もう一つに固まっている。

ここから先で動き方を変えても、速さを変えても、誰を先に助けても、結末だけが変わらない。


ルナリアの指が上がる。


静かだ。

その動きだけで分かる。


次は、ひなただ。


前へ逃げれば落ちる。

後ろは足場が薄い。

右は圧が二重に来る。

左へ切れば、そこへ俺が届かない。


全部同じだ。


選ぶ前から、結果だけがそこにある。

避ける形も、救う形も、諦める形も、全部同じ場所へ落ちていく。


ひなたも動けない。

凛も動く。

雪那も動く。

俺も踏み込む。


止めたい。

けれど、その止め方ももう間違っている。


全員、同じ方向へ動く。


その形そのものが、間違いだ。


止める。


身体が止まる。


遅い。


分かっているのに、止められない。


圧が落ちる。


ひなたの足元が沈む。


右へ逃げれば次が来る。

前へ出れば足場が消える。


俺の指先は、まだ届かない。


もう、間に合わない。


音が遠のく。

圧の落ちる気配だけが、やけに鮮明になる。


時間だけが薄く伸びる。

それでも身体は追いつかない。

届かない指先と、沈んでいく足場だけが、妙に遅く見えた。


どこかで、一度。


呼吸だけが、大きく耳の奥で鳴った。

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