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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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93話 同じじゃ通らない

同じ形で入れば、生き残れる。

少なくとも、さっきまではそうだった。


ルナリアの指が上がる。

圧が落ちる。

俺は入る。

一歩。

二歩。

切る。

戻る。


その繰り返しで、戦いはようやく形になっていた。

足場はまだ崩れ続けている。

圧も弱まっていない。

それでも、最初の頃みたいに踏み込んだ瞬間に終わる戦い方じゃなくなっていた。


だから、そのまま通ると思った。


次の圧も、同じように来る。

同じように抜ける。

同じように掠める。


そう身体が決めたまま、俺は入る。


一歩。

二歩。


三歩目を出す前に、圧が落ちた。


速い。

いや、違う。

速くなったんじゃない。

こっちが揃えすぎていた。


踏み込みの先が丸ごと沈む。

俺は短剣を引き、横へ流す。

間に合った。

だが右の袖が圧を掠め、布が裂ける。

遅れて腕に熱い痛みが走った。


ひなたが声を上げる。



「黒崎さん!」



「浅い」



そう返す。

浅い傷だ。

だが問題はそこじゃない。


さっきと同じ入り方だった。

呼吸も、歩幅も、踏み込みの角度も揃っていた。

それなのに、今の一歩だけが通らなかった。


凛が低く言う。



「対応してきてる」



雪那もすぐに続ける。



「落ちる位置が寄ってる」



ルナリアは笑っている。

楽しそうでも、苦しそうでもない。

ただ、こちらの動きの型だけを見て、それに合わせているような顔だった。



「綺麗じゃのう」



その一言が、妙に引っかかった。


綺麗。

揃っている。

だから読まれる。


次が来る。


今度も同じ形で入る。

一歩。

二歩。


そこで、ほんの少しだけ足場が欠けた。

雪那の補強が一拍遅れたせいじゃない。

崩れた石片を踏み、足裏の感覚がわずかにずれる。


踏み込みは浅くなった。

呼吸も半拍だけ遅れた。

完全な形から、少しだけ外れる。


そのまま二歩目を入れる。

圧が落ちる。


通った。


短剣の切っ先がルナリアの横髪を払い、肩口を薄く裂く。

血が一筋だけ浮く。

俺はそこで無理をせず、すぐに切る。

戻る。

圧が遅れてさっきまでいた場所を抉った。


凛の目が細くなる。



「今の……」



ひなたも息を呑む。



「さっきより雑でしたよね?」



雑、という表現は近い。

正確に言えば、崩れていた。


一歩目の深さも違う。

二歩目の位置もわずかにずれていた。

それなのに、今の方が通った。


ルナリアの圧がまた落ちる。

同じように入ろうとする。

だが今度は、あえて少しだけ呼吸を遅らせた。


吸う。

止める。

そこでいつもより半拍長く置く。


一歩。

二歩。


通る。

だが浅い。

戻る前に圧が寄る。

遅すぎた。

俺は短剣を引き、無理やり体を捻る。

左脚の横を見えない重さが抜け、足場の縁が丸く欠けた。


ひなたが唇を噛む。



「ズラせばいいってわけじゃない……」



「そうね」



凛が言う。



「崩しすぎても死ぬ」



その通りだった。


揃えすぎると潰される。

崩しすぎても間に合わない。

通るのは、その中間だ。


言葉にすれば簡単だが、実際には最悪だ。

完璧な再現も駄目。

雑な突撃も駄目。

しかもそれを考えた瞬間、また遅れる。


ルナリアの指先が揺れる。

次は二段だ。

一点で落として、その外を浅く流す。


俺は見るのを減らす。

指先を追わない。

足場の欠けた位置だけを覚え、視線を少し下げる。


一歩。

二歩。


最初の圧を抜ける。

二つ目を見ようとした瞬間、足が重くなる。


遅い。


まただ。

二つ目まで拾おうとした途端に、身体が止まる。

俺は踏み込みを切る。

直後、二段目の圧が外側へ流れ、さっきまでいた場所を削った。


雪那の氷がそこへ差し込まれ、崩落だけを止める。


見れば読む材料は増える。

だが増えた分だけ遅れる。

それは変わらない。


ただ、前と違うことが一つある。

視線を切っても、前より崩れなくなっていた。


足の深さが少し違ってもいい。

呼吸が半拍ずれてもいい。

戻る位置が少し浅くても、すぐ死ぬわけじゃない。


俺はもう一度入る。


今度は最初から少しだけ浅く。

一歩目の置き方を外す。

二歩目で戻す。


通る。


圧が落ちる。

今度はぎりぎりだ。

戻る足が半歩足りない。

そこへ凛の細剣が差し込まれ、圧の落ちる位置をわずかに外へ弾いた。

ほんの一瞬だけ軌道が逸れる。

その隙で、俺は後ろへ抜けた。


凛が短く言う。



「今のぐらい」



「分かってる」



分かっている。

だが再現はまだ甘い。


雪那が足場を補強しながら言う。



「崩しても戻せるなら通る」



それ以上は言わない。

言葉を重ねれば、たぶん崩れる。


ひなたも前へは出ない。

それでも俺のズレた戻り先だけは見ていて、危ない位置に入る前に声を呑み込むように息だけで教える。


俺はその呼吸を聞く。

視線は上げない。

全部は見ない。

必要なものだけ残す。


ルナリアの圧が落ちる。


一歩。

二歩。

少し浅い。

三歩目は出さない。

戻る。


また来る。

今度は二歩目を深くする。

通る。

切る。

戻る。


完全に同じじゃない。

毎回少しずつ違う。

それでも、崩れない範囲に収まっている。


さっきまでの安定は、揃っていたから生まれたものだった。

今の安定は違う。

少しずれても、そこで終わらない。


ルナリアの表情がわずかに変わる。

虚ろな目のまま、圧の落とし方だけが細かくなる。

対応している。

それでも、まだ読み切れていない。


俺は短剣を握り直す。

呼吸を落とす。

同じように入り、同じようには入らない。


その矛盾した形が、ようやく身体に馴染み始めていた。


ひなたが小さく呟く。



「……さっきと全然違うのに、崩れない」



凛が目を細める。



「同じじゃなくていいのね」



その言葉に、俺は返事をしない。


言葉にした瞬間、また形が固まる気がした。

今はまだ、そういう段階じゃない。


ただ一つだけ分かる。


完璧に揃えた動きは、もう通らない。

少し外した方が、生き残れる。


圧がまた落ちる。

俺は視線を切る。

一歩。

二歩。


今度も、ほんの少しだけずらして入った。

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