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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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87話 見て狙ったら間に合わない

足場の奥で、石が潰れる鈍い音が続いた。


一度避けて終わりじゃない。

落ちる圧は断続的に続いている。

息を整える間に次が来る。

立て直した瞬間を狙って、別の場所が沈む。


ひなたが大鎌の柄を床へ突き立て、無理やり姿勢を支えた。

肩が上下している。

避けているだけなのに、もう余裕は薄い。


凛は低く構えたまま、ルナリアの正面へ入らない。

入れない、の方が正しい。

一歩でも深く踏み込めば、その先で圧が落ちる。

細剣を届かせる前に、身体が止まる。


雪那の氷が足場の縁をなぞるように伸びる。

補強と退路の確保。

だが圧が通るたび、薄氷はひび割れ、砕け、張り直しになる。


四人で囲んでいる形だけが残っていた。

戦えてはいない。

生き残るために位置をずらし続けているだけだ。


ルナリアは中央に立ったまま、ゆるく首を傾けた。



「逃げるばかりか」



声は静かだ。

感情は薄い。

こちらを見ているようで、少しずれた位置へ喋っている。

会話の相手が噛み合っていない。


次の圧が来る。


空気じゃない。

空間そのものが落ちる。

肺が軋む。

骨の内側へ鈍い重さが入り込み、膝が勝手に沈む。


ひなたの右足元が面で潰れた。

ひなたは反射で飛ぶ。

着地先まで読まれている。

着こうとした足場が、半拍遅れて沈む。


「っ……!」


凛が横から入る。

ひなたの腕ではなく腰を押し、着地点ごとずらす。

その一瞬後、二人の間を見えない圧が通り、石床が薄く削り取られた。


砕けた破片が上へ跳ね、遅れて下へ落ちる。

向きが定まっていない。

それでも死ぬ位置だけは正確だ。


雪那が短く言う。



「固定できない」


「押されるたびに基準が変わる」



凛が息を整えながら続ける。



「避け切れてるんじゃないわね。外れてるだけ」



その言葉が正しかった。

凌いでいる感覚はない。

死ぬ位置から、かろうじて外れ続けているだけだ。


俺はルナリアを見る。

指先のわずかな動き。

肩の揺れ。

視線の泳ぎ。

だが見ているものと、実際に落ちる圧の位置が一致しないことがある。


視線に引っ張られると遅れる。


ルナリアの左肩が沈む。

次は左前方。

そう思う。

けれど実際に潰れたのは、ひなたの半歩後ろだった。


遅い。


考えた場所と、落ちた場所の間に一拍ある。

しかも完全な乱れじゃない。

崩れているのに、どこかで同じ間が混ざる。


また来る。


今度は一点。

雪那の胸元へ真っ直ぐ落ちるような圧。

雪那は氷壁を出さない。

半歩だけ引く。

その半歩がちょうど間に合う。

直後、さっきまで胸があった高さの空間が細く沈み、背後の石柱へ丸い穴を穿った。


「……あるわね」


凛が低く言う。



「抜ける瞬間が」



ひなたが呼吸を荒くしたまま顔を上げる。



「瞬間?」



「ずっと重いわけじゃない。落ち切る前に薄くなる拍がある」



凛の言葉で、頭の奥に引っかかっていたものが少しだけ繋がる。


圧は切れ目なく続いているわけじゃない。

落ちる。

緩む。

また落ちる。


人の呼吸に似ている。

ただし整っていない。

崩れた拍子の中に、わずかに同じ間が混ざっている。


俺は短く言う。



「次、俺が見る」



ひなたがすぐに首を振る。



「いや、さっきも黒崎さんが一番危なかったじゃないですか」



「届かせない。深さだけ測る」



短剣は振らない。

踏み込みも半分で止める。

それでどこまで入れるかを見る。


ルナリアは動かない。

目は虚ろなまま、焦点だけが少し外れている。

それでも圧だけは落ちてくる。


一歩目。

重い。


二歩目。

少し軽い。


三歩目は、まだ出さない。

出せる。


そう思った瞬間に、逆に踏み込みを切った。

右へ流す。

直後、三歩目を置くはずだった位置が円形に沈み、石が押し潰される。


入れた。


届いてはいない。

だが昨日までより半歩深い。

死ぬ前に戻れたんじゃない。

潰れる前の、薄い拍に合ったから入れた。


ひなたが目を見開く。



「今、前に出ましたよね……?」



凛がすぐに返す。



「届いてない。でも、前へ入った」



雪那がルナリアから目を離さず言う。



「一定ではない。でも偏りはある」



それで十分だった。


完全な無秩序じゃない。

圧の落ち方に癖がある。

同じ入り方をすれば潰される。

だが噛み合えば、ほんの半歩だけ前へ出られる。


ひなたが大鎌を握り直す。



「じゃあ、合わせて一気に――」



「まだ無理だ」



俺は即座に切る。



「再現できてない」



言いながら、もう一度だけ試す。


今度は歩幅を短くする。

さっきより速く、浅く。

一歩。

二歩。


駄目だ。


三歩目の前で分かる。

遅い。

この入り方じゃ潰される。

圧が薄くなる前に、自分の判断が一拍遅れる。


俺は止める。

直後、真正面の床が面で沈んだ。

さっきより広い。

もしそのまま入っていたら、逃げ場ごと消えていた。


ひなたの顔から血の気が引く。



「今のも……」



「少し違うだけで死ぬ」



それが一番まずい。


正解はある。

だが細すぎる。

見て、考えて、合わせる。

その順番を踏んだ瞬間に遅れる。


凛が細剣を構えたまま問う。



「拍を読むの?」



「読むんじゃ足りない」



口にしてから、自分の言葉に引っかかる。


読む。

見る。

確認する。


その手順を踏んだ瞬間に遅れる。


さっき半歩入れた時、俺はルナリアの指先を見ていなかった。

足場も見ていない。

落ちる結果の一つ前、その感覚だけで踏み出していた。


雪那が短く呼ぶ。



「黒崎」



意味は分かる。

気づいたなら、形にしろという圧だ。


ルナリアの指が上がる。

今度は広い。

全体を巻き込む圧だ。


俺は息を吸う。

凛は左。

雪那は後ろ。

ひなたは右へ逃がす。


そう考えた瞬間には遅い。


違う。


俺は考えるのを切る。

三人を見る前に、動く。

ひなたの背を押す。

凛は自分から低く潜る。

雪那の氷が一枚だけ遅れて立つ。

その直後、四人の中央を圧が通った。


足場が大きく抉れ、遅れて崩れる。

氷壁は真正面から潰され、細かい破片がこちらへ降った。

ひなたの頬を氷片がかすめ、赤い線が走る。


ひなたが息を止めたまま呟く。



「今の、もうちょっと遅かったら……」



誰も答えない。

答えなくても分かっている。


戦えていない。

一歩でも遅れれば終わる。

避け切っているんじゃない。

まだ死んでいないだけだ。


それでも、さっきまでと違うことが一つある。


入れる瞬間はある。


ほんのわずかだが、前へ出られる拍がある。

問題は、それを狙って再現できないことだ。


ルナリアがふいに笑った。

目は虚ろなままなのに、口元だけが先に動く。



「よいのう。寄って来るか」



意味と気配が噛み合わない。

本人が言っているようで、別のものが愉しんでいる。


圧がまた溜まる。


次はもっと速い。

しかも広い。

さっきの半歩が偶然なら、ここで終わる。


俺は短剣を構え直す。

呼吸を落とす。

ルナリアの指先じゃない。

足場でもない。

落ちてくる結果の、そのひとつ前だけを待つ。


合わせれば入れる。

だが見て合わせようとした瞬間に遅れる。


その矛盾だけが、はっきり残った。


俺はルナリアを見据えたまま、低く言った。



「……抜ける瞬間はある」



ひなたがすぐに返す。



「じゃあ、そこを狙えば――」



「見て狙ったら間に合わない」



口にした瞬間、全員が黙った。


凛の目がわずかに細くなる。

雪那も否定しない。


突破口はある。

だが、認識してからでは遅い。


その一拍ぶんの差が、まだ埋まらない。

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