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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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79話 vs風精霊①

火が消えたはずなのに、空気は少しも軽くならなかった。

むしろ、景色の輪郭だけが妙に揺れている。


重力障壁の向こう。

薄い人型が、静かにそこに立っていた。

輪郭は曖昧なのに、形だけは人に見える。


風精霊。


白石凛は短剣を逆手に持ち直す。

息を整える。

火精霊が落ちたなら、次は自分の番だと分かっていた。


近い。


届く距離だ。

踏み込み一つで首を取れる。

そう判断した瞬間には、もう床を蹴っていた。


雷歩で一気に距離を詰める。


短剣が風精霊の喉元を裂く。

そう見えた。


感触がない。


刃は空を切っていない。

狙いも軌道も間違っていない。

なのに、手応えだけが消えていた。



「……当たってる」



凛は着地と同時に振り向く。

風精霊は、まだ正面にいる。

位置が変わったようには見えない。


おかしい。


凛は間を置かない。

二歩目。

今度は胸を狙う。


雷歩でさらに加速し、至近距離から雷閃を叩き込む。


避けられるはずがない。

だがまた外れた。


外れたという感覚すら、ずれている。


次の瞬間、凛の肩が裂けた。

横から来た。

見えていない。

いや、見えていたはずなのに、避ける動きが一瞬遅れた。


血が散る。


凛は低く舌打ちして距離を切る。

床を滑る靴裏が、さっきより少し重い。

火精霊が落ちたせいで、逆に空間の歪みが増したような感覚があった。


視界の端にカメラが滑り込む。

短く凛を捉え、遅れてコメントが流れる。



「当たってるだろ!?」


「なんで無傷なんだよ」


「ラグってない?」



凛は無視する。

呼吸を浅くして、風精霊だけを見る。


輪郭は揺れている。

だが、目で追えない速さじゃない。

むしろ遅い。

だから余計に気持ちが悪い。


見えている相手に、届かない。


凛は姿勢を落とす。

正面から入るのをやめる。

斜め。

低く。

足を払う軌道。


雷歩で低空を滑るように接近し、短剣を走らせる。


また感触がない。


同時に、背中に衝撃。

呼吸が詰まる。

前に吹き飛ぶ。

受け身を取るが、着地が少しずれる。


想定した位置に足がない。


凛は初めて眉を寄せる。

自分の身体感覚が、微妙に信用できない。

踏み込んだ場所。

振った角度。

着地した重心。


全部が、ほんの少しずつ噛み合わない。


遠くで黒崎悠斗の声が聞こえた気がした。

障壁越しで、内容までは拾えない。

それでも仲間も同じように押されていると分かる。


ここで止まれば終わる。


凛は雷を流す。

短剣だけじゃない。

足へ、肩へ、背骨へ。

反応速度を引き上げる。


雷歩を連続使用する。


残光が重なる。

一直線ではない。

横、縦、逆袈裟。

見えない速度で斬撃を重ねる。


全部、ずれる。



「……合ってるはず」



速くなるほど駄目だった。

当てに行く意識が強いほど、最後の一瞬で位置が噛み合わない。

風精霊は動いていない。

なのに、そこにいたはずの“今”だけが滑っていく。


凛の脇腹に風刃が入る。

浅い。

だが続けて二撃、三撃。

避けたつもりの場所へ、遅れて痛みが来る。


連撃の後に、凛は大きく下がった。

胸が上下する。

速さが武器のはずなのに、速さそのものが裏目に回っている。


カメラがまだ残っていた。

凛の荒い呼吸まで拾っている。

コメントが荒れる。



「凛どうした!?」


「速いのに全部外れてる」


「位置がおかしいって!」



凛は目を細める。

違う。

位置だけじゃない。


見た場所に入っている。

狙いも合っている。

なのに、当たる瞬間だけ外れる。


それなら、ずれているのは場所じゃない。



「位置じゃない」



凛は短剣を下げた。

初めて、目で追うのをやめる。

見るのは輪郭じゃない。

空気の流れ。

肌を撫でる圧。

遅れて鳴る裂風音。

踏み込みの前に生まれる微かな乱れ。


呼吸を合わせる。

待つ。


風精霊が揺れる。

右だと感じる。

凛は反射で左へ半歩だけずれる。


頬の横を風刃が抜けた。


今のは合っている。


凛はそのまま踏み込む。

だが深く入らない。

見えた位置へは斬らない。

ずれるなら、その先を切る。


短剣を走らせる。


浅い。


だが初めて、風を裂いた感触が手に残る。

風精霊の輪郭が一瞬だけ歪んだ。

次の瞬間、凛の太腿が裂ける。

まだ足りない。

だが今のは無意味じゃない。


凛は後ろへ跳ぶ。

着地の瞬間、床が遠いと感じた。

実際には近い。

感覚と結果がずれている。


そういうことか。


完全には分からない。

だが、見えている位置を信じると外れる。

見えている“今”を信じると遅れる。


風精霊は、認識の方をずらしている。


カメラが離れかける。

その直前、コメントが一つだけ残った。



「凛、見ない方が当たってる?」



凛は小さく笑う。

皮肉みたいな答えだった。

だが間違っていない。


短剣を握り直す。

血が柄を滑る。

それでも手放さない。


まだ読めない。

だが、入口には触れた。


風精霊の輪郭が揺れる。

一つだったはずの姿が、二つ、三つにぶれる。


次はもっと崩れる。


凛は腰を落とす。

目ではなく、身体ごと待つ。



「……まだ、合わない」

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