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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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73話 届くはずだった

ルナリアは、中央に立っている。


広い足場。

崩壊はない。

風も流れていない。


静かすぎる。


配信画面も正常だった。

コメントは遅延もなく流れている。

これまでのフィールドとは明らかに違う。


整っている。

いや、整えられている。


俺は視線を落とし、足場の端と中央の距離を測る。

違和感はない。

だが“正しい配置”に固定されているような感覚がある。


自由に見えて、自由じゃない。


ひなたが小さく言う。



「……普通、ですよね」


「普通に見せてるだけだ」



俺は答える。

ここは安定しているんじゃない。

“安定しているように固定されている”。


つまり、条件がある。


凛が前に出た。


止めない。

この場で一番“届く側”にいるのは凛だ。


雪那が低く言う。



「距離、気をつけて」


「うん」



凛は頷き、そのまま進む。


一歩。


距離が縮まる。


もう一歩。


問題なく近づく。


俺は目を細める。

昨日までのフィールドとは違う。


“縮まる条件がある”。


凛の歩き方を見る。

速くない。

遅すぎもしない。

呼吸と足音が一定だ。


トン、トン、トン。


ひなたの呼吸。

雪那の足音。

それと自然に同期している。


俺は確信する。


この空間は、ズレを許さない。

リズムを外せば距離が崩れる。

逆に、合わせれば届く。


つまり――同期だ。



「凛、そのまま崩すな」


「分かってる」



凛は振り返らずに答える。

すでに感覚で掴んでいる。


ルナリアは動かない。


視線だけがこちらを向いているように見える。

だが焦点が合っていない。

見ているのに、捉えていない。


凛が止まる。

もう数歩の距離だった。


静寂が落ちる。


凛が呼ぶ。



「……ルナリア」



ルナリアの指先が、わずかに揺れた。


遅れて動く。

結果が先に来て、あとから仕草が追いつく。


ズレている。

だが、反応はある。


ひなたが息を呑む。



「今、動きましたよね」


「反応はしてる」



俺は答える。

ただし、完全ではない。


凛がもう一度呼ぶ。



「ルナリア」



今度は首が傾く。


その角度。

わずかな癖。


配信で何度も見た仕草だ。


だが、違う。


ほんの一瞬、角度が遅れる。

意図と動作が噛み合っていない。


雪那が静かに言う。



「……戻ってない」



ひなたが戸惑う。



「でも、今……」



「近いだけだ」



俺は視線を外さずに言う。


近い。

だが一致していない。


コメントが一気に流れる。



「反応した!」


「今のルナリアだろ!」


「いけるいける!」


「いやなんかズレてね?」


「目が合ってない気がする」



意見が割れる。


それでいい。

この違和感は、見えているやつと見えていないやつがいる。


凛がさらに半歩進む。

ルナリアの唇が動いた。


声はない。

だが、言葉を形にしようとしている。


その瞬間、空間の圧がわずかに緩む。

届く。

俺はそう判断する。



「凛、そのまま維持しろ。崩すな」


「うん」



凛の呼吸が浅くなる。

それでもリズムは崩さない。


一歩。

さらに一歩。


ルナリアがこちらを向く。

今度は、視線が合った。


そう見えた。


瞳が揺れる。

赤とも紫ともつかない色。


その奥に、確かにあった。

いたずらを思いついた時の、あの光。


配信で何度も見た顔。

ルナリアが、ほんの少しだけ笑う。


だが――

笑っているのに、感情が遅れる。

表情と中身が、ほんのわずかにズレている。


俺は息を整える。

これは届いている状態じゃない。

“引っ張り出せているだけ”だ。


だが、あと少しで届く。

ひなたが震える声を出す。



「戻れる……?」



誰も答えない。

答えたら、崩れる。


凛が最後の一歩を踏み出す。

距離は、ほぼゼロ。


手を伸ばせば触れる。

ルナリアも、ゆっくりと右手を上げる。


仕草は遅い。

だが確かに、凛へ向いている。


コメントが爆発する。



「いける!」


「触れろ!」


「戻せる!」


「頼む……!」


「これ救えるだろ!」



凛が手を伸ばす。


まっすぐに。

迷いなく。


ルナリアの指先も、わずかに動く。

あと少し。

ほんの数センチ。


その距離まで、確かに縮まっていた。

――届くはずだった。

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