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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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64話 見るな

中ボスが消えた場所だけ、空気が違っていた。

崩壊していた足場は静まり、狂っていた重力も収まっている。

風の流れも、嘘みたいに穏やかだ。


まるで、ここだけが迷宮から切り離されたみたいだった。


俺たちはその場に腰を下ろした。

武器は手放さない。

それでも、呼吸を整える余裕はある。


ひなたは大鎌を抱えたまま座り、凛は短剣を指先で転がす。

雪那は外を見たまま、微動だにしない。


肺の奥の熱がまだ残っている。

喉も乾いている。

それでも進む前に、ここで整理する必要があった。


俺は立ち上がる。

安全圏の縁まで歩く。

一歩ごとに足裏の感触を確かめる。


ここまでは正常だ。


外へ視線を向ける。


遠くの浮遊島が滲む。

輪郭はある。

だが、位置だけが決まらない。


近いはずの足場が遠い。

遠いはずの足場が、急に目の前に来る。


ひなたが小さく息を吐く。



「……なんか、変です」



凛が短く言う。



「見てるとズレる。多分」


「多分って怖いんですけど」


「でも、そう見える」



俺は足元の小石を拾う。

安全圏の外、少し離れた足場へ向かって投げる。


軌道は正常だ。

途中で消えもしない。

だが、着地点だけが一瞬ぶれる。


石は足場の端に当たり、そのまま黒の下層へ落ちた。


雪那が静かに言う。



「認識と結果が一致してない。映像も同じよ」



俺は端末を見る。

配信は続いている。


だが、奥の空域だけピントが合わない。

カメラは追っている。

それでも、対象の位置だけが揺れる。


コメントが流れる。



「奥だけ変じゃない?」


「ブレてるの景色の方だよな」


「見ようとすると変になる」



ひなたが画面を覗き込む。



「視聴者も同じに見えてる……」


「でも、それも正確じゃない」



俺は再生を止めようとする。

操作は通る。

だが、映像が止まらない。


同じ一秒が、微妙にずれながら重なっている。


凛が眉を寄せる。



「ログ残らない可能性ある。

残っても信用できない」



ひなたが肩を震わせる。



「それ、どうしようもなくないですか」



どうしようもない。


見たものが信用できない。

記録したものも信用できない。


この領域では、観測そのものが崩れている。


俺は外を見る。

今度は焦点を合わせない。

輪郭だけを捉える。


その方が、位置が安定して見える。


逆だ。


正確に見ようとするほど狂う。


雪那がこちらを見る。



「分かった?」


「ここ、“見る”と干渉される。認識した瞬間に位置がずれる」



凛が外へ向き直る。



「観測不能領域」



ひなたが顔をしかめる。



「名前つけたら余計怖いです」


「怖いから合ってる」



凛の声は淡々としていた。

俺は安全圏の外へ半歩踏み出そうとして止まる。

その先に、何かがある。


遠い。

はずなのに、近い。


歪んだ空域の奥。

何かが動いた。


形は見えない。

見ようとすると位置が消える。


それでも、“こちらを見ている”気配だけは消えない。


視線を外そうとする。

だが、ほんの一瞬だけ遅れる。


その一瞬で、位置が変わる。


理屈は分かる。

だが、足が一歩も前に出ない。


進めば、戻れない。

そんな確信だけが、先に来る。


呼吸が浅くなる。


さっきの足場のズレが、まだ身体に残っている。

踏んだはずの場所と、自分の位置が一致しなかった感覚。

あれが、ここでは常に起きる。


コメントが一瞬だけ止まる。


次の瞬間、まとめて流れ出す。



「今なんかいた?」


「見えたやついる?」


「いや見ようとしたら消えた」


「怖すぎる」



その中に、一行だけ紛れた。



「そこ」



すぐに流れて消える。

ログには残らない。


一瞬、全員が言葉を失った。

俺は息を止める。

見た瞬間、あれはそこにいた。


次の瞬間には、最初から別の位置にいたみたいにずれている。


ひなたが俺の服の裾を掴む。



「……行くんですか」


「行く。でも無理はしない」


「でも、ここ……一歩間違えたら戻れなくなる場所ですよね」


「だからこそ慎重に行く」



安全圏があるなら使う。

この迷宮で唯一まともな場所だ。

捨てる理由はない。


雪那が短く言う。



「休めるうちに休む」



凛も頷く。



「次は読めない」



ひなたはまだ外を見ている。

見たくないのに、見てしまう顔だった。


俺は視線を切る。

その瞬間だけ、奥の空域がわずかに安定する。


やはりそうだ。

見ること自体が、向こうへの接触になる。

なら、観測の仕方を変えるしかない。


俺は端末を握り直す。

ノイズの残る画面の奥で、空間がまた歪んだ。


さっきまでいなかった位置だ。

いや、見えていなかっただけかもしれない。


そこに、何かがいる。

見た瞬間、距離が消えた。


それは、最初からそこにいた。

見ていない時から、こちらを見ていた。

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